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2003年2月28日(金)第3,967回 例会

『知』の時代がやってきた
(プロパテント政策の行方)

三枝 英二 君

会員 三枝 英二

1938年生まれ。'60年同志社大学工学部工業化学科卒業後、三枝国際特許事務所に入所。'61年弁理士の資格取得。'62年弁理士登録。'75年から現職。弁理士審査委員会部長など、各種委員会委員を歴任。当クラブ入会1990年12月。プログラム副委員長。(弁理士)

 知的財産立国を目指す国家プロジェクトのお話をしたいと思います。長いデフレ不況からどのようにして脱出するか、その最高の手段は何かが、政府で検討されました。結論は「頭で勝負」。独創的な知的財産を生み出し、活用すべきであるということです。その政策の柱として政府は「プロパテント政策」すなわち特許保護強化政策を採ることを1997年に宣言し、進めてきました。  政府は昨年になってプロパテント政策をさらに推進させ、知的財産立国を実現するために「知的財産戦略大綱」を決定。知的財産を創造・保護・活用する国家戦略をまとめました。さらに、これを実効あらしめるため昨年暮れの臨時国会で「知的財産基本法」を成立させました。この基本法によって、2005年までに知的財産に関わる制度などの改革を集中的かつ計画的に実施しようとしています。

米国が特許保護強化に先鞭

 プロパテント政策は、米国において、日本より約15年早い1980年代初めにレーガン大統領のもとに採用され、推進されてきた政策です。米国の産業競争力は1970年代から日本や西ドイツの追い上げを受けて次第に低下。米国は、産業競争力を高めるためプロパテント政策の採用に踏み切りました。

 米国のこの政策のもとでは、特許は広く強く保護されます。今まで特許の対象とされていなかったものにも特許が付与されます。特許の権利範囲が広く解釈され、特許権侵害を認めるケースが増大します。しかも侵害者に対して高額の損害賠償金を請求することができるようになりました。このようにして米国では特許の価値が高まりました。

 プロパテント政策の目標は、知的財産立国の実現です。その実現のため、新しい技術を創造し、創造された技術を、例えば特許権などとして適切に保護する。さらに特許権を効果的に活用する。例えば第三者にライセンスを付与するなどで技術移転を図り、収入を獲得する。獲得した収入を次の新しい技術の創造に注入する。こうした流れ、つまり知的財産権に基づく知的創造サイクルを築くことが可能になります。

特許権侵害の罰金額は増加

 プロパテント政策は、「知的財産権の広い保護」「知的財産権の強い保護」「大学・研究所の知的財産権振興」及び「特許市場の創設」を主な柱としています。

 「知的財産権の広い保護」について。わが国では、発明は自然法則を利用した技術的思想の創作であるとして、自然法則を利用しないものあるいは技術的思想に関しないものは特許の対象とはならないとされてきました。  しかし、プロパテント政策を採った米国では、アルゴリズム(コンピュータープログラムなど問題解決の手順)、電子マネー、ソフトウェア、ビジネスモデルなどが次々と特許にされていきました。日本でこれらを技術的思想ではないとして特許にしないでおくと、日本はこれらの分野でどんどん遅れていく。そこで、このようなものもIT(情報技術)を用いて実現することを条件に特許が与えられるようになりました。

 「知的財産権の強い保護」について。日本の判例を見ると以前は、特許権侵害訴訟での損害賠償額は低く、特許を侵害してもカネを払えばそれで済む、という風潮が生じていました。しかしプロパテント政策導入後は日本の損害賠償額も、知的財産権の保護・強化の声が高まるなかで次第に高くなってきています。特許権を侵害すると会社の存続にも関わる深刻な事態が起こりかねないという時代に入ってきています。

 「大学・研究所における知的財産権振興」について。米国は、国の資金によって開発された特許でも開発した大学が所有できるというバイドール法を成立させました。日本政府も同様の法律を導入しようとしています。

頭で勝負なら日本は勝てる

 終わりに「知的財産戦略大綱」について触れておきます。昨年3月、プロパテント政策をさらに推進させ、かつ知的財産の一層の保護強化を図るため、政府は小泉首相の肝いりで、首相・関係閣僚・民間有識者からなる「知的財産戦略会議」を発足させ、審議の結果、7月3日に「知的財産戦略大綱」を閣議決定しました。これは、政府が中心となって知的財産を創造し保護し活用する知的創造サイクルを確立させ、世界有数の知的財産立国を実現しようとするものです。

 つまり基本的方向は知的財産の「創造」「保護」「活用」でこれらを3本の柱とします。

2005年までを集中実施期間とし、50以上の改革項目について各項目ごとに責任官庁と取り組み実現期日を明記したうえで精力的に実行しようと、政府は強い意志を示しています。

 科学技術の分野では、日本は世界の先頭を走っています。日本人は大変かしこい民族です。「頭で勝負」なら必ず勝てます。近い将来、世界に誇れる「知的財産立国」が日本に実現することを願ってやみません。