1949年京都府生まれ。大阪外国語大学ロシア語学科卒業。日商岩井株式会社入社。主に衣料品の輸出入を担当し、米国には、3度の駐在で、在米期間は通算10年。米国子会社の副社長を経て2000年に(社)セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン(SCJ)事務局長に就任。実業界でのマネジメントや海外経験を生かして子供たちの問題に取り組む。
最初に、アフガニスタンの子供が書いた短い詩をご紹介します。
この国ではだれもおとなになれない
おとなになるまでにみんな死んでしまうから
こんな詩を10歳の女の子が書いています。
私どもが非常に重視するデータの中に、「5歳未満死亡率」というのがあります。日本は大体0.4%。アメリカは0.5%。私どもが活動しているネパールやミャンマーで10.4%。それに対してアフガニスタンは27%です。これは「オギャー」と生まれた子供さんが、5歳になるまでに4人に1人以上は亡くなっているということです。
私どもセーブ・ザ・チルドレンは3つの社会を目指して活動しています。1つは、「すべての子供たちが尊重される社会」。2つ目が、「子供たちの声を聞いてそこから学ぶ社会」。子供がこう思っているだろうなというのではなく、子供たちの声を聞く。3つ目は、「子供たちが希望と機会の持てる社会」です。
すべて当たり前のことと思われるかもしれませんが、現実には一つも守られていません。日本でも、親のストレスの影響などで家庭で虐待されている子供がいる。これでは機会と希望は持てないし、もちろん尊重もされていない。それのもっとひどい例が、アフガニスタンであり、ネパールあるいはミャンマーです。子供たちというのは、自力で状況を切り開けない弱者の代表です。そういう子供たちのために活動しているのが私どもの団体です。
実際に何をしているかというと4つあって、学校の建設、地雷回避教育、補習識字教室、先生の研修です。アフガニスタンの復興を教育を通じてやろうということです。教育も、ハコモノというか、ハードを整えるだけでなく、補修授業や識字教室さらに教員不足の解決などソフト面の事業にも取り組んでいます。それから地雷回避教育というのは、現在、全世界で大体1億個の地雷が埋められていると言われますが、そのうちの1千万個はアフガニスタンにある。足を吹き飛ばされている子供たちもかなりいる。自分たちの身を守る工夫というんですか、それを教えるのが地雷回避教育です。
こうした援助について非常に重要なことは、日本のNGOが出かけて行って学校をつくる、あるいは補修するというときに、我々だけでやるというのは厳に慎むということです。なぜかと言うと、そんなやり方ですと、多分その地域で責任ある教育というのは根づかないだろうからです。
こんな話があります。あるアフガニスタンの村で大きな石が道路をふさいでいた。すると村人が、『NGOが来てどけてくれるでしょう』と言ったというんです。つまり、自分たちでその問題を解決するというのでなく、依存体質というのが知らず知らずのうちに芽生えているわけです。
例えば、私が商社マンでニューヨークに駐在していたころ、市が「十代の未婚の母への援助」というような条例を作りました。十代の未婚の母は非常に気の毒だから、市が税金で援助しようという主旨はいいわけです。ところが現実に起こったことは、大阪弁で言いますと「おっ、ええなあ。セックスして子供つくって、結婚せえへんかったら金もらえるで」ということだった。それではいけない。
私どもセーブ・ザ・チルドレンは、1919年英国で設立された団体で、84年の歴史があります。歴史が古いということにはそんなに大きな意味がないかもしれませんが、数え切れないほどの失敗もしてきた。過去の失敗に学ぶことができることに大変な意味があると思っております。
いま一番問題にしていることは、どんな人間にも、あるいは生き物にも、自分で自分たちの持っている問題を解決しようという自立の作用があるから、それを引き出すお手伝いをやろうということです。我々の援助がその土地に根づいて、子供たちが永続的に学校に行けるようになることが重要なのです。そういう持続可能性のあるやり方、これをサステナビリティーと言いますが、それがセーブ・ザ・チルドレンの考え方です。
言い方を換えますと、私どもは徹底的に配り物を嫌う団体です。もちろん配り物をしないといけないときもあります、例えばアフガニスタンの空爆の後で非常に飢えた人が出た、生きるか死ぬかというときに、私どもは配り物を嫌うと言っても始まりません。ただ、そのときにはルールがありまして、「正しい物を、正しい人たちに、正しい量だけ、正しいタイミングで」配る。この4つのルールでやります。それを実際に誰が決めるかというと草の根を握っている人、つまり住人を知っている人です。住民はどうしているんだという内容をよくわかっていれば、一番適切な措置がとれるわけです。国連機関のユニセフなども、私どもと助け合ってやっておりますが、こういうことはわからない。これはやっぱり我々NGOの役割です。
以上のような点をご理解いただき、無理にお金をというのではなく、それぞれの企業、経済人の皆様が、何らかの形で子供の問題を解決することにご協力をいただければ幸いです。