1943年生まれ。 '66年横浜国立大学経済学部卒業。 同年 日本興業銀行入行。 '95年同行取締役中国委員会委員長。 '98年日中投資促進機構理事・事務局長。 2002年現職(中国関連担当)。
昨年の中国のGDPは8%成長を達成し、10兆元を超えました。これはドルに換算すると1兆2,000億ドル、世界第6位のGDP規模に達しています。ただし、中国は人口12億、あるいは13億とも言われていますので、1人あたりまだ1,000ドル弱、世界順位では百三十何位という地位に甘んじているということでもあります。これを支えている4つの要因は、日本で言う民間設備投資と公共投資の「固定資産投資」個人需要の「消費小売額」「輸出入」「外国からの直接投資」。 いずれも2桁近い伸びを示し、結果としてGDP8%を達成しているのです。
また、中国の外貨準備高は2,100億ドルを超え日本に次いで第2位です。香港、台湾を合わせると約4,500億ドルで、約4,000億ドルの日本を抜いて世界第1位の外貨準備大国となります。ただ、中国が片っ端から対外債を踏み倒している実態。中国を考えるとき、こういう点はぜひ頭に入れておきたい。私は「衣食足りて礼節を忘れる」ということであってはならないと思います。
新聞で中国関係の記事がない日はないというぐらい日本企業の対中投資が活発です。2000年以降の右肩上がりを、私は「第4次対中投資ブーム」と称しております。投資の85%は製造業で、この傾向は依然として変わりませんが、特に注目いただきたいのは、中堅ソフトウェアハウスの中国進出が非常に活発だということです。理由は、このITブームの中、日本での人手不足。したがって、デフレ下でもコストアップが生じる。さらには、大変残念なことですが、日本の理工系新卒の学生の質が相対的に低下してきていることも一因です。中国はまさに全部この逆をいっていると言えるのです。
1. | 友好都市関係での進出を検討しているという案件については要注意。進出目的の明確化、あるいは経済合理性に立脚した事業進出というのを検討すべきだと思います。 |
2. | 中国進出というと華僑のブローカーが絡んできますが、全く不要です。丁寧に断わっていただきたい。 |
3. | 企業規模にふさわしくない大型プロジェクトはだめです。小さくスタートして、余裕を持って中国ビジネスのノウハウを蓄積し、人材を育成するのが賢明なやり方です。 |
4. | 環境問題のあるプロジェクトはだめです。中国も日本と同じようにそれなりの厳密な予防対策、防止対策が必要です。 |
5. | 勧誘を受けた親会社プロジェクトに全面的に依存するプロジェクトは、入念なマーケティングと収支見通しを確保する必要があります。 |
6. | 中国依存率の高いプロジェクト。いきなり自分の工場を閉める乱暴な経営者もおりますが、これはよくよく注意していただきたい。 |
7. | 新規事業分野を中国で始めようとするのも大間違い。ノウハウもあり、人材もある得意分野でまず出ていくこと。中国には金も技術も設備もありません。 |
8. | 中国は中国人に任せるに限る。これも間違い。まずはしっかり経営トップが陣頭指揮をとることが大事です。その際、成功のカギを握るのは、日本からの派遣人材で、「まじめ・まめ・がまん強い」の“さんま”が必要。 |
9. | 香港、台湾企業との共同進出については何の障害もありません。ただし、その台湾企業との取引が長年のもので、厚い信頼関係があるということ。この大前提を忘れてやるととんでもないことになる。中国に渡った途端に中国側につかれることもよくあるケース。 |
最後に私の20年の経験で申し上げる対中投資のキーワード。まず、中国は大きな国だということ。それを、実数で考えていただきたい。世帯数も人口も中国は日本の10倍です。したがって、普及率10%、まだまだ低いと思ったら大間違い。日本の100%と同じ台数が出ているということです。年率5%伸びるというのは、日本で言うと50%で伸びる台数を示しているということです。次に、定点観測。中国は、ぜひ1年に数回は見て変化を実感していただきたい。これを定点観測と言っておきます。そして、最後に共存共栄。中国で仕事をするときに自分に言い聞かせた言葉です。これについては、この伝統ある大阪RCのかつての会員松下幸之助さんが、1979年に中国を初めて視察された後の感想をご紹介したいと思います。
「中国というのは単なる国ではなくて小世界ですよ。10億の国民がおり、資源も豊かにある。中国という小世界が豊かになると、他の世界が潤う。日本も潤うんですよ。大きくいえば中国を繁栄せしめることが世界を富ますことになる。かりに中国が行きづまったら、世界にその波紋がでてきますよ」 大変僭越ですが、これをもって私の話の結論にさせていただきたいと思います。