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2004年5月14日(金)第4,023回 例会

大阪の地震を考える

尾 池 和 夫 氏

京都大学総長 理学博士 尾 池 和 夫 

1940年5月東京生まれ。63年3月京都大学理学部地球物理学科卒業。同年同大学防災研究所助手。73年同助教授。88年12月京都大学理学部教授。95年4月同大学院理学研究科教授。01年4月同副学長。03年12月京都大学総長,現在に至る。 85~86年地震学会委員長。95~97年阪神・淡路大震災調査特別委員会委員。95~03年地震予知連絡会委員他。

 関西,西日本が地震活動期を迎えているという私どもの考え方を毎日放送に注目していただき,1993年ごろから特集番組の準備をされていたところ,1995年1月17日に兵庫県南部地震(阪神大震災)が発生致しました。今また関西の群発地震の起こり方が9年前の大地震が発生した直前の状況に非常に似ております。ロータリー国際大会2004年を大阪で開催するに当たり,ひょっとしてまた大きいのが来るのじゃないかと皆さまには思ってほしいのです。

上町断層は調査済み

 大阪の地下には上町断層というものがあることが20年前に分かりました。この断層は長い間動いておりません。兵庫県南部地震の直後,震度5以上で揺れた自治体では地震に対する関心が一気に高まりました。震度4では忘れるんです。奈良,和歌山は震度4だったことであまり進まない。大阪は震度5か6で揺れましたから,ものすごく反応がありました。あの地震は1月でしたから,自治体は直後に予算編成期に入ります。大阪府の役人から私の研究室に電話がありました。上町断層の調査についてでした。

 この断層は厚い堆積層に覆われているためいろんな物理学的手法による調査が必要で費用もかかります。「上町断層調査委員会」ができ,時間をかけた調査で,もしこの断層が動けば震度7で揺れる場所はどこどこなどとホームページに詳しく公表しております。ですから大阪府,大阪市は地震の可能性についてしっかり認識されています。もし起きたらどうするかを考えていただきたい。

 地震が起きたらどうするか。「夜寝ている時に揺れても,ケガしないようにしておいて下さい」ということを守ってほしい。ケガさえしなければ,後何とかなります。

多くの人々は地震知らず

 でも,覚えておいていただきたいことがある。世界中のほとんどの国は地震というものを知らないということです。地中海に近いところでは地震がありますが,安定した大陸であるヨーロッパのイギリス,フランス,ドイツなどでは地震は起こらない。だから地震がどういうものか知りません。開発途上国なんかで非常に弱い家に住んでいるところが沢山あります。最近,イランでマグニチュード6・3という地震があり,前後して米カリフォルニアでも同規模の地震がありました。カリフォルニアは死者1,2人でしたが,イランでは何万人が死亡しました。同じ大きさの地震で被害程度が異なるのは,イランでは家が弱いからです。ちょっと揺れるだけでつぶれ圧死してしまいます。

 そういう国の人の習慣とは恐ろしいもので,三階,四階にいても窓から飛び出そうとする。中にいると圧死してしまうと体験的に知っている人々が世の中にいるわけです。イラク,トルコもそうです。そういう国の方が大阪に来られていることもあり得ます。そうすると地震で四階からでも飛び出そうとしますから抱きとめないといけない。中に居た方が安全と覚えてもらわなくてはならない。しかし皆さんが例えばトルコへ行ってグラッと来たら飛び出した方がいい。日本の習性でじっとしていたらつぶれます。地震が違う訳ではないが国が違う,建物の丈夫さが違うということを頭にいれて世界を回ってほしい。

 地震は地下の岩盤が割れてずれを起こすことで発生します。同じところが繰り返しずれ,活断層ができ,その結果,東がせり上がり,西が下がるというような動きがどんどん続き何千回と繰り返して上町台地ができている。こうしたメカニズムは20世紀後半の研究成果で,熟年の方は学校で習っていませんが,しっかり覚えていただきたい。

すべてはプレート運動から

 地球は15~16枚のプレート(岩盤)に覆われ,それが年間10センチぐらいの速さで動いて,地中に押し込まれていることが分かりました。百年もするとその圧力とひずみで跳ね上がってずれ,地震が起きるのです。同じ仕組みで,プレートが陸の下に沈み込み,海底が含んでいた水の作用で岩が溶けマグマが発生,噴火すると火山になります。地震,火山ともにこのプレート運動で説明できます。

 これをもとに活断層が何であるかが分かってきたのが1980年代です。近畿の吉野川,紀ノ川を境に北の方は世界的にみても有数の活断層帯で,京阪神地区は非常に動きやすいことが分かってきました。我々は神戸市から地震研究を依頼され,チームを組んで得た成果を1974年に「神戸と地震」という報告書としてまとめました。その結論は京阪神のどの都市にもあてはまります。まず「直下に活断層があり,それが動いた時には壊滅的被害はまぬがれない」。活断層という言葉と動けば壊滅的被害と指摘した報告書はこれが初です。次いで「隣近所に活断層がいっぱいあり,それが動けば震度5ぐらいの揺れで結構被害がある」。最後は,百年に一度ぐらい南の沖でプレート境界が動き巨大地震が起きる。前回は1946年の南海地震です。「これが動くと,ゆっくり長く揺れるので高いビルが壊れたり液状化という影響がある」というものです。

 九年前の地震のずれで淡路島,六甲は高くなり,神戸市は低くなりました。そんな運動を百万年重ねてきましたから,およそ千メートルの落差ができた。その低地には大都市がある。町があればその下には活断層があり,千年に一度ぐらいはどれかが動く。大阪市もいつ真下が動いて震度7になるかも知れないところにあるということです。