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2003年11月28日(金)第4,001回 例会

お魚の話

北 修爾 君

会 員 北 修爾

1943年生まれ。 66年東京大学経済学部卒業。通商産業省入省。 80年外務省ロス・アンジェルス日本国総領事館領事。 83年大阪通商産業局商工部長。 87年日本貿易振興会ジャカルタ・センター所長。 91年経済企画庁長官官房審議官(物価局担当)。 93年通商産業省退官。阪和興業(株)常務取締役に就任。 94年阪和興業(株)代表取締役社長に就任。 当クラブ入会 : 03年1月。 PH準フェロー, 準米山功労者。(鉄鋼販売)

 私どもの会社は,鉄鋼と共にエビからはじまって,魚,水産物の輸入を仕事としており,それにまつわる話をします。魚は健康に良いと米国の人も思っているようで,ニューヨークなどでも日本食の「すしバー」が増えています。水産物にはすぐれた栄養特性があるようで,日本人が男女とも長寿なのは,動物性たんぱく質の中でも魚による摂取が多いということが貢献しているようです。

鉄鋼商社がインドからエビ輸入

 このところ,わが国の漁業は,それに従事する人が次第に少なくなり,漁獲高も減ってきています。当社も,商社として魚を輸入していますが,そのような日本の状況を踏まえ,同じ魚を海外から仕入れてくるところに役割があるのだと考えています。

 1965年ごろの日本は,水産物を海外に輸出もしており,自給率は110%でした。75年に100%になり,現在では半分に落ちてしまいました。海外が半分を占めるようになったのです。当社は70年ごろからエビの輸入を始めましたが,これはインドと鉄鋼関係の貿易をしていて,当時のインド政府のとっていたバーター貿易による等価交換の結果でした。日本から鉄鋼製品を出す代わりにインドから鉄のスクラップを同額分輸入するという物々交換でした。しかし,インドの取引先から鉄鋼製品をもっと欲しいので,得意とするエビも輸入してもらえないかと要望があり,エビの商売が始まりました。今でこそ新しい仕事を増やし多角化することが奨励されていますが,当時は「鉄鋼商社がどうしてエビをやるのか」と卸売市場でも門前払いを受けたそうです。そんな艱難辛苦を乗り越え,この部門が今日の当社の大きな柱になっているのですが,最初にやった貿易部の人たちは随分ガッツがあったのだなと思わされます。今はエビ以外の魚も多く扱っていますが,エビが51年にいち早く自由化され扱いやすかったということもあったようです。イセエビなどの高価なものは別にして,日本人が食べるエビの9割強が輸入されています。

水産資源の各国による囲い込み

 水産資源は自然の中で自分たちで増える力を持っていますが,より大きな魚に食べられたり,人間に獲られたりして自然の回復力を超えてしまうと急激に減ります。最近では漁船の魚を獲る技術が非常に進歩し,魚群をピンポイントで一網打尽にしています。それと同時に,人間が廃棄物や廃水などで川や海,湖を汚し,水質悪化を招いて魚の生息数を減らす要因になっています。

 わが社が大手の漁業会社に互して仕事ができるようになったのは,200カイリ水域の設定で日本の漁船が各国から閉め出されたのと関係があります。水産資源の各国による囲い込みで,日本の商社が,魚屋さんや消費者が求める魚を外国の産地から仕入れるようになり,輸入する魚の種類も非常に増えることになったのです。日本は世界でも水産物の最大の輸入国ですが,最大の生産国は中国で,2番目に漁獲高の多いのはペルー,次いでアメリカ,日本,インドネシアなどの順です。

 エビは和食だけでなく,洋食,中華料理と大変よく食べられますが,経済力の強い国に向かうと言われます。バブルの時は,世界最大のエビ輸入国は日本でした。一時年間30万トン近くに増えましたが,最近は24~5万トンになっています。かわって今はアメリカが最大のエビ買い付け国になっています。

 水産資源は,しっかり管理すれば再生産ができるものです。各国ともいろんな漁業協定を交わしたり,漁業水域に相互乗り入れしたりしています。とくに先進国においては資源が減りつつある魚について漁獲可能量を設定し,一定の限度を超えるとストップをかけるという制度を敷いています。例えば,私どももノルウェーからシシャモなどを輸入していますが,日本人はとくに子持ちシシャモをよく食べ,必然的に子孫をつくる親魚がガサッと減るわけです。それでノルウェー政府は何年かに一度禁漁し,保護しています。

養殖漁業と現代の「鯖街道」

 そこで養殖漁業が進み,エビは今,中国,インド,インドネシア,ベトナム,タイなどの熱帯地域において養殖されています。しかし,それも過密になると,死んでしまい,努力が報いられなくなります。最近も霞ヶ浦などで養殖のコイがウイルスに侵され大変なことになっています。そういう問題はあるわけですが,やはり育てる漁業というのは,今後も広まっていくと思います。また,クジラの保護が環境問題に結び付けられ国際的に叫ばれていますが,一方でクジラなど大型海産哺乳類の捕食が大変な量になっていて世界中で人間が獲る魚の量の推定3倍から5倍に上っているそうです。以前のような捕鯨による間引きが行われなくなったせいとも言われます。

 かつて江戸時代から京都の市場に届けられるサバは,若狭湾の小浜から塩をされ,18里の道を運ばれました。いわゆる「鯖(さば)街道」ですが,現代の鯖街道は,ノルウェーから始まります。昔は生き腐れが心配されたサバですが,現代は「コールドチェーン」が確立され,獲れた魚はすぐに漁船の保冷設備で守られます。それが冷凍コンテナや冷凍倉庫を経由し保冷車で運ばれ,解凍技術,温度管理の進歩によってノルウェーのサバが長い旅をしてわが国の消費者に届けられるようになったわけです。水産物という食べ物の一端に携わる者として,消費者の間で大変高まっている「安全」と「安心」に対する関心を肝に銘じ,商売に当たらねばと思っています。