1954年大阪生まれ。 京都大学教育学部卒業。 サントリー宣伝部勤務後, 独立。 著書に, 在日外国人・移民2世・沖縄人・在外日本人を取材した『ヤポネシアちゃんぷるー』,'60年代の大阪を舞台にした小説『こぼん』, 『リキュール&スピリッツ通の本』, 日本の漁師のドキュメント『漁師になろうよ』など多数。'04年秋, 泡盛マイスター第1号。
大阪人のくせに東京にいるという「在東京大阪人」として今生きております。私の義父は大阪RCの会員でありました。卓話をさせていただいているのを,天の上から喜んでくれるかなと思っております。
「漁師になろうよ」という本は「BE-PAL(ビーパル)」という小学館の雑誌に約3年にわたって連載していたものです。この本の中にあるのは13人の若い漁師です。漁師,漁業の問題というのは暗いイメージになっているのですが,本当にそうなんだろうかな,漁業に関して希望を持つような記事を書きたいなということで取り組みました。僕自身,フリーになって明日のことがわからない,そういう揺れる職業というので漁師というのは非常に近い部分があるな,と思いました。
この中で取材した漁師のうちの約半数6人が実はIターン漁師でありました。何でわざわざ漁師になっているのかなというのがとても興味があったんです。
四国の宇和島,そこの岡崎源という三代目の漁師。彼は長崎大学の水産学部を出まして,巻き網漁船の船団のメンバーです。アジ,サバの非常に豊かな漁場ですが,いかんせん,関アジ,関サバ,あるいは岬(ハナ)アジ、岬(ハナ)サバというブランドのお魚があることによって,なかなか宇和島のお魚を買ってくれないという状況があるみたいです。
岡崎源という漁師が考えたのは,自分たちの宇和島ブランドをつくりたいということで,まず自分の捕った魚がどこに行くのかというのを見たいと思ったわけです。
宇和島の魚は築地の市場まで行って,築地の市場から卸に行って,それから小売店かスーパーマーケットまで行くわけです。要は消費者の顔が見たいということで,そこまで追いかけていきます。練馬区のスーパーマーケットで,自分の魚のアジを買っている人が2人いた。1人は「猫のえさ」にすると言うのでガックリ。でも,もう1人が「このアジはおいしい。もっと安いブランドをつくったらいいよ」と言うわけです。
それが岡崎君の発想になって,宇和島は伊達藩だったので「伊達アジ」というのを登録したみたいなんです。そして,しめ方を考えた。これは企業秘密でしたが,要は,お魚はしめ方によって全く味が違う。
今有名なのはマグロで,津軽海峡の青森県側の大間は非常に有名なところですが,対岸にある北海道の戸井では大間を上回るいいマグロを捕っているという話があります。それはなぜかと言うとしめ方なんです。戸井の人は,捕ったマグロをすぐさま殺してしまう,そうして氷水に入れる。そういうしめ方によって血が回らないように,身がやけないようにする。しめ方というのが,漁業においてとても大事みたいです。同様に,宇和島のアジは,しめ方を独自に考えている。
もう一つは,蓄養といって,生きたまま海水プールみたいなところに入れておいて,新鮮なうちに魚市場へ持っていくというふうなことを考えました。いろいろと知恵を使って,岡崎君の場合はすき間のマーケティングで,ブランドだけれども安い。ブランドだから高いという今までのものではなくて,ちょっと逆転の発想を入れつつ考えていった。しかも,消費者の顔を見てそれを発想したというのはえらいなと思いました。
もう一人は,北海道・羅臼の湊屋稔という漁師。彼はサケを何とかできないかということを考えたわけです。目を付けたのはトバというサケの加工品。サケの内蔵を取って細長く裂き,塩味をつけ寒風に干したものなんです。ある日,鳥羽一郎がキャンペーンのために羅臼に来ていた。彼は,鳥羽一郎に了解を取り付けトバを「とば一郎ちゃん」というネーミングで売り出したら大ヒットしました。
次に考えたことは「鮭児(ケイジ)」という全身トロ状態の若い白鮭。それに羅臼漁協の名前をつけてブランド化に成功しました。今は何と浜値でキロ3万円まで高騰して,札幌に行くと1匹20万円ぐらいになった。まだ食べたことないんですが…。
何と,魚が捕れなくなったらどうするかということまで考えて,2000年の7月の海の日に「らうす海洋深層水」という深層水の事業まで立ち上げて,漁業プラス深層水事業をやっているということで,非常に賢い男だと思います。
彼は,お魚というものに付加価値をつけて,文化として魚を売っていく。僕がサントリーでやっていたようなマーケティング,あるいは宣伝的な手法を取り入れて漁師たちがやっている。魚というのは非常に不確定なものなんだけれども,そういう不確定な対象に対して彼らはそういうことをやって,落ち込んでいるのをバウンドさせている。
漁師といえば鉢巻き巻いて,茶碗酒を飲んで,みたいな感じがあるのですが,全くそういうのではなくて,非常に賢くて--秋田・象潟の漁師が「頭よぐねば,漁師でねえ」と言ったのですが,これが非常に印象に残っています。確かに今の若い漁師たちというのは,退潮ぎみの業界の中で頑張ってそれをバウンドさせているわけです。
自分の生き方にも,新しい仕事を見つけていくときには,こういうふうに新しいニッチ(すき間)を見つけて頑張っていこうと思いました。こういう漁師のお話が皆さまの経営のお話にご参考になればと思います。