1942年,仙台藩・伊達家発祥の地,福島県伊達郡保原町生まれ。 '68年慶応大学医学部卒業後,シカゴ大学やジョンズホプキンス大学で研修。'74年帰国後北里大学を経て東京女子医大母子総合医療センター教授。乳幼児突然死症候群にいち早く着目し,厚生省研究班班長を務めるなど同症候群の第一人者。
ことし2月から5月までの3カ月間,ローマからイスタンブールまでの2500キロを,62歳ですが走ってきました。アップリカ葛西の方々の非常なサポートがありました。「子どもにあたたかい心を育むことがいかに大切かということを伝えたい」という思いからです。33年間小児科医ですが「小さいときにどのように育まれるかがその人の一生の心をつくる」ということを臨床の場で教わりました。その大切なメッセージを多くの人に伝えたいという思いと,個人的にシルクロードを走りたかったので行ってきました。
ローマのバチカンから6カ国を通ってトルコのイスタンブールまで,約83日間走ってきました。ローマ法王に謁見するという光栄な機会も得ることができました。17カ所で講演してきました。主に大学で,妊婦さんとか一般の方,学生にも講演してきました。世界中,どこへ行っても子どもの目は本当にすばらしい。
私が走った目的が「子ども」と「心」という2つのキーワードで,どの国でも大変関心を持っていただき,テレビとか新聞などにも出たので,走る沿道でエールをおくってくれました。最終的にはイスタンブールのブルーモスクの前にゴールしました。私どもが休んでいると,ホームレスの子どもが2人いまして,私の家内がたまたま一人の子どもにカーネーションをあげんたんですが,そのお礼でしょうか,手でハートの形をつくって私に抱きついてきました。ホームレスの子どもでも,あたたかい心を持っているということがよくわかりました。あたたかい心を育むのは,物とか着る物とか食べ物ではなくて,まさに「どのようにあたたかく扱われるか」だと思いました。トルコの方に話すと「トルコ人は子どもをかわいがる。あの2人の子どもは,この町の人がみなかわいがっているからそうなんです」とおっしゃいました。私の旅の目的と一致する大変貴重な経験をしました。
1970年,手塚治虫氏(漫画家),内藤樹三郎(小児科医),葛西健蔵(アップリカ葛西会長)の3人の提唱者によって「子どもにあたたかい心を育む運動」が始まりましたが,その考えを伝えるためにアクションが必要と思い走りました(紹介ビデオの中で)。本当にいろんな方のサポートを受けて走ることができました。一緒に走ってくださった方は,今何を考えているかまでおもんばかってサポートしてくれ,本当に側にいるだけで力になりました。最後の講演はイスタンブールでした。私の講演の後にテロで暗殺されたトルコ人の女医さんのことを記念する式典が行われました。パレスチナのトルコ在住の大使が出席されて,私の講演も聞いてくださいました。その方が私の講演の後に「先生,あなたの言うことはよくわかった。あたたかい心は非常に大切である。しかし私の周りには,生まれつき血の好きな人がいるじゃないか」と言いました。多分,血の好きな人というのは,生まれつき優しい心を持てない,人を殺すことを何とも思わない人がいるという意味だと思います。パレスチナとユダヤの方々が4000年お互いに殺し合っているということで,その方の言葉がよくわかりました。
そのことに2つのことで答えました。私はピタウ大司教からたくさんいろいろなことを教えてもらいました。「神様は万物をつくった最後に自分のレプリカとして人間をつくった」ということです。ということは,人間は少なくとも生まれるときは神に近い存在として生まれたはずです。私は,万を超える赤ちゃんを見ていますと「そうである」と言うことができます。赤ちゃんの目は,神様と同じように澄んでいます。ですから,人間は皆それを持っているはずだ,ということを答えました。
それからもう1つは,私が一緒に仕事をしている小泉先生というすばらしい方に教えてもらったことです。法然上人はお父さまが侍大将だったそうですけれども,上人が子どものときに暗殺された。死ぬ間際に幼い法然を呼んで「決して私を暗殺した人を恨んではいけない。恨めばそれは恨みの輪廻に入る」ということを諭された。その後,法然上人は仏の道に入って浄土宗をつくられたということを教えてもらいました。数百年前の日本で既にそういう方がいらっしゃるということですから,人間は本質的には人を愛することができる,あたたかい心を持つことができる。ただ,どのような環境で育まれるかで変わってしまうということです。
私は大げさなようですけれども,本当に人と地球の幸せのためにと思っています。この地球は,多分このままでいけば22世紀にはならないと思います。テロがテロを生み,憎しみの連鎖は核反応と同じで,1個の中性子が何十個の中性子を生み出し,また何十個の中性子が次々と核反応を起こすように,憎しみの連鎖反応がどんどん広がっていく現状は,由々しきことです。いかにそれを断ち切るかは,憎しみを受け取らなければならない。憎しみを受け取るのは優しい心です。そして優しい心を育むのは子どものときです。このメッセージをたくさんの人に伝えたいと思っています。パンフレットを出口に置かせていただきましたが,わたしは乳幼児突然死症候群の家族の会をサポートしています。2006年にその家族が国際会議をホストします。ご理解いただきたいと思っています。