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2004年7月23日(金)第4,032回 例会

ものの見え方の仕組みとその異常

本 田  孔 士 君

会 員 本 田  孔 士

1939年生まれ。'65年京都大学医学部卒業,'73年同医学部研究科博士課程修了。 '65~'70年京都大学医学部付属病院,'70年~'72年ワシントン大学医学部, '85年京都大学教授, '95~'03年京都大学医学部付属病院長,'03年4月現職・大阪赤十字病院病院長。
当クラブ入会 : 2003年6月
(眼科医)

 皆さんが眼がいいとか悪いとか言うときに,「視力」を非常に妄信しておられる。視力が1.0だからいい眼だとか,0.1だから悪い,そんな単純な問題ではありません。視力は遠方の2点の識別能を示しているだけで,0.1は0.2の半分の視力ではありません。近くを見る視力というのは,遠見視力と関係なく,視力が0.1でも,近視の人は,メガネを外すと新聞でも文庫本でも十分見えるはずです。

視力は見え方示す指標

 「視野」という機能もあり,ある程度広さが見えないと人間の眼は機能しません。人間は大体90度ぐらい見えます。これが欠けますと,中心視力が1.0あっても真ん中しか見えないので,車が横から出てきても逃げることもできないことになります。「視力」と「視野」が必要です。例えば緑内障は,中心視力はかなり晩期までありますが,視野がどんどん欠けてきます。

 眼球の網膜で非常にたくさんの情報を処理します。「網膜に焼きついている」と言いますが,情報は流れるように視神経を通って頭の中に入っていき,情報処理が滞ることはない。視交差といって,右の眼で見えるものは,左の頭へと,中脳からずっと後頭葉まで行って初めて像が分かるわけです。後頭葉に脳梗塞が起こると半盲が起こります。

 脳神経というのは24本,12対あります。うち7対(視神経,動眼神経,滑車神経,三叉神経,外転神経,顔面神経,迷走神経)は,眼に関係する神経です。迷走神経という脳神経は,脳を出た後,鎖骨の下まで下り,肺尖部を通る自律神経です。肺尖部の肺ガンのホルネル症候群という病気があり,患者さんは眼が具合悪いと来るけども,胸のレントゲンを撮ってもらいます。眼の症状で肺ガンが見つかることもあるのです。

 色弱は男の人の4.5%あるわけで,珍しい状態ではない。「赤の色弱」の人は赤い色を暗く感じる,「緑の色弱」の人は緑の色を暗く感じるだけで,色が全く見えないというわけではないのです。色の見え方だって個人差があってかまわないわけで,色弱の有名な画家もいます。中等度の色弱の人は,運転免許は問題なく取れます。

動く感覚器

 網膜は透明な,セロファンみたいな膜で,血管が走っています。動脈が度調整しているときに破裂すると出血がある。自覚症状はなく,それが問題なんです。なぜ眼底検査をするかというと,眼の中を見ると,その人の脳動脈の硬化とか,脳梗塞になりそうだとかということが分かるわけです。眼というのは,要するに頭の一部なんです。

 「眼は動く感覚器」ということも非常に大切なことです。右の眼が右を見れば,左の眼は必ず同じようについてきます。左を見れば左へついていきます。中脳,小脳で眼球運動を制御していて,それがこわれると物が2つに見えます。はっきり2つに見えるほかに,眼精疲労といって何となく疲れる,わずかな異常を感じないときがあります。

 動眼神経麻痺というのは,高齢者の場合しばしば内頸動脈瘤の初発症状です。動眼神経麻痺が60歳以上の人に突然出て,朝起きたら物が2つに見えるということがあれば,1つ1つの眼はよく見えてもこれは大変なことで,処置しないと,破れればクモ膜下出血とかで亡くなるという事態になります。

 動きに関して申しますと,人間の眼は,A点を見ていてB点に視線が移る時,一瞬シャッターがかかったように見えなくなります。1つの物をずっと追っかけていて視線が移るときに,見えていたら,ものすごいめまいが起きます。めまいという病気がありますが,そういう機能が壊れて出てくるわけです。

全身病の発現の場

 比較的高齢の方に筋無力症という病気がありますが,これは朝はいいけども,昼からどうしても疲れる,物が2つに見えるということが出てきます。人間の眼は,横に動く物に対しては疲れにくいが,上下に動く物を追っかけますと非常に疲れやすい。

 皆さんが電車に乗って前に座っている人がいて,後になって「あなたの前に誰が座っていた?」と聞かれたときに,インテンションがなければ見えません。麻酔をして意識がない人は,眼を開いていても見えず,見ようという前頭葉からの意識がないと見えない。

 現在の技術では,網膜の腫れも断層写真で見ることができます。糖尿病で視力1.0で自覚症状が何もない人でも,動脈瘤があり,血管は詰まり,ほっておくと見えなくなる。見つければ,治療の方法がありますが,検査してみないと分からない。糖尿病,神経・運動器疾患,心臓・血管疾患,膠原病・血液病など,全身病の表現の場として,視力,見え方というのを考えていただきたい。

 後頭葉から前頭葉の意識も働き,眼球運動も小脳,中脳,脳神経7対が,12本の筋肉を上手に操って1つに見えるようにしているわけで,どこかがだめになっただけでも2つに見えるとか,疲れる。2つに見えればお医者さんに来てくれるんですが,何となく疲れるとか,とほっておいて,大きな病気の初発症状を見逃してしまうことがあります。

 だから,疑問に思ったら専門家に相談してください。とんでもない病気があることも覚えておいてください。啓蒙的に「あなたの眼は大丈夫」という本を書きました。どんな症状の時にどんな病気があるか書いていますので,それを読んで,専門家にコンサルトしていただきたいと思います。