1957年生まれ。'82年7月中国大連・大連外国語学院・日本語科卒業。同年8月から大連・東北財経大学(当時遼寧財経学院)講師,助教授・教授を経て,'02年同大学・国際商学院副院長,'03年現職。'06年4月より,和歌山大学教授も務める。著書・翻訳も多数。
ご紹介をいただきました方愛郷です。中国語では「FANG AIXIANG」と発音しますが,響きもいいと思います。よく日本人にきれいな名前ですねとか言われます。「男は度胸,女は愛嬌」という日本語は私の最も好きな言葉の一つです。きょうは度胸と愛嬌で「中日漢字言葉における面白い点」というテーマでお話をします。
中日両国は2000年以上も長く文化交流があり,語彙においてもお互いにたくさん影響を与え合っています。
古い昔から,日本は中国からたくさんの漢字を導入しました。それと同時にその漢字を利用して自分の国の文字,かなをつくりました。中国漢字の草体から「ひらがな」を,漢字の部首から「カタカナ」をつくりました。明治維新後,日本は海外の様々な先進的な考え方や技術,物をたくさん導入し,漢字を組み合わせた独自の言葉もたくさんつくってきたのです。
その後,中国で辛亥革命が起き,孫文先生らが日本に留学し,日本でたくさん学んだものを,言葉と一緒に中国に持ち帰りました。それが中国で使われて定着して中国語になったのです。両国はともに漢字を持ち,同じ言葉を持つという共通点が多いのですが,実際の使われ方はどうでしょうか。
まず,字形も意味も共通した言葉です。帽子,豆腐,白菜などです。中国にあった言葉が日本に来ました。昔も今も同じ意味です。
厨房,消費,資本,金融,政党,解放,哲学,革命,交通などは日本でつくられた言葉で,中国に戻って中国語になりました。中国語では,消費の「費」や資本の「資」の下の貝がちょっと略されていますが,お互いに読める漢字で,同じ意味です。
次は,意味が同じで,字形がちょっと違う漢字です。残,涼,単,画,対,恵,騒,突,強,縁,汚などです。恵が「惠」,涼が「凉」というように画数が多いとか少ない違いはあります。
以前,日本で日本語を勉強する留学生にアンケートをしたそうです。漢字については中国人が一番自信を持っていると思われがちですが,実際は中国人のミスが一番多いという意外な結果になりました。中国人は全部わかったつもりで気にしなかった点が多かったためだと思います。
次は,字形も意味も共通,語順が逆の言葉です。紹介,平和,白黒,短縮,素朴,探偵,厳戒,限界などですが,平和が「和平」,素朴が「朴素」,限界が「界限」となります。
次は,日本人がつくった日本独特の漢字・言葉です。漢字としては,辻,峠,畑,畠,榊,桝などですが,中国人は読めません。言葉としては,下宿,素人,玄人,為替,景品,割引,祝日などがあります。漢字は読めても意味がわかりません。中国では,こういう文字の組み合わせでは使いません。
次は,字形は共通ですが,意味が全く違う言葉です。手紙,勉強,新聞,無理,汽車,娘,丈夫,大丈夫,湯,男湯,女湯,切手,検討,酷などです。中国では「手紙」はトイレットペーパーのことです。「勉強」は,いやいやながら無理にやることを言います。新聞は,ニュースペーパーではなく,新しい情報,ニュースという意味です。
「無理」は,理不尽,不当,「汽車」は,自動車のことです。「娘」は「ニャン」と読みますが,自分の母のことです。お母さんを呼ぶときに「ニャン」と言います。「新娘」は「新婦」,「大娘」は「自分の母より年上のおばさん」を指します。
「丈夫」は,中国語では夫のことです。「丈夫」に「大」がついた「大丈夫」は男らしい男,立派な男という意味です。「湯」は,日本語では熱いお湯,お風呂として使われます。中国でも温泉として使いますが,普通はスープのことです。
よくある笑い話ですが,日本で男湯,女湯とあると迷っちゃうんです。じっくり考えれば,男女の区別ですからわかるはずですが,一瞬,何でスープ飲むのに男女を分けなければならないかと,笑ってしまいます。「切手」は,手を切ることです。日本の切手は中国語では「郵票」です。
「検討」は批判とか反省という意味です。これもよく間違います。中国語では「研究」という言葉を使います。私が同時通訳する際,うっかり「検討」を日本式に使ってしまって,通訳された中国のリーダーが「何で反省しなければいけないのか」とすごく迷ってしまったことがありました。
日本語にはカタカナがありますから,外国の言葉はすぐわかります。中国はすべて漢字で表します。
コカ・コーラは「可口可楽」となります。何人もの日本人が「すごくいい訳し方だ」と誉めていました。多分,その商品を中国で売るために,たくさんの漢字の中から専門家がじっくり選んだのだと思います。
「cool」も日本語では「クール」と表しますが,中国語では「酷」です。「酷」は一文字だけですが,クールだ,カッコイイという言葉です。若者からはやり,最近よく使われています。カッコイイという意味に合わせて,センスがいい,仕種,行為がいい場合に使います。女性に対してカッコイイというのは「漂亮(ピョウリャン)」です。機会があったら使ってみてください。喜ばれますよ。