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2006年4月14日(金)第4,111回 例会

猛獣・ピエロ・ブランコの昔と今

木 下  唯 志 氏

(株)木下サーカス
代表取締役社長
木 下  唯 志

1950年岡山市生まれ。'74年明治大学経営学部卒業。同年木下サーカス(株)入社。空中ブランコのフライヤー(飛び手)を経て地上勤務(営業職)へ。'81年常務取締役・海外本部長兼務。'91年4代目社長に就任。'97年神戸震災復興支援公演で被災者10万人を無料招待,'99年にはタイ国ランパン象保護センターに象の病院を建設寄付。'02年に創立100周年。'03年山陽新聞賞(産業功労賞)や彩の国功労賞など受賞。'06年日本仮設興業協同組合理事長。

 1981年の神戸の博覧会(ポートピア81)の中で開いたポートピアサーカスに木下サーカスは約160万人のお客様を動員しました。その年,世界の危機に瀕した動物を救おうというワシントン条約が発効し,象など様々な動物の輸出入が厳しく規制されるようになりました。翌82年,うちの象さんが亡くなり,木下サーカスにシンボルがいなくなりました。そこで83年に社員の慰安旅行でシンガポールに行った際,現地の動物園の園長さんに「象さんが欲しい,お知り合いはいませんか」と相談したら,タイの奥地スリンのドクタースラチトという獣医さんを紹介されました。スリンでは「エレファントフェスティバル(象祭)」があり,ドイツなど世界中の学者が集まります。密林の中で約300頭の象が,祭のために待機していました。

タイに象の病院を寄付

 その頃,「日・タイ修好100周年」を祝っていたので,地元岡山の新聞社や県知事ルートでタイ関係者に「6カ月間でいいので,日本の子どもたちにタイの素晴らしい象さんを見せてほしい」とお願いし,実現にこぎつけました。以来,20年,象さんを6カ月使い,また船で帰すということを繰り返しています。

 チェンマイの南にあるランバン象保護センターにはプミポン国王の象さんも16頭ほどいますが,今から6~7年前にそこに世界で初めて象さんの病院を寄付しました。

 ライオンやトラなど猛獣もワシントン条約の対象です。特にトラの場合は輸入ができません。このため,とても親しくしているイギリスのジェームスクラブさんというサーカスのオーナーに頼み込み,彼のいとこが南アフリカに持つ大きなサファリパークで生まれた動物をイギリスで調教して輸入しました。サファリパーク生まれのトラは野生動物ではないので,可能だったのです。

キリンは「お座り」ができる

 猛獣は特製の檻で運びますが,キリンは背が約7mぐらいあります。国内では道路交通法の規制で運べません。これは企業秘密ですが,サーカスのキリンは「お座り」と言うと犬のようにお座りするので,この状態でコンテナに入れます。

 私の祖父は軍馬の調教の名手でした。1902年(明治35年)に大陸の大連で「木下曲馬団」を旗揚げしました。父は2代目で,養子で木下家に入りました。特務機関の関係で中国に行っていた父は私にこんな話をしてくれました。「日本軍は中国で捕虜にした大将にロープや手錠をかけず,同じ部屋で一緒に過ごした。戦況が逆転して日本軍が攻められ,立場が逆転して再び向こうの大将に出会った。人間万事塞翁馬。いい時もあれば悪い時もある,相手が弱いときには大切にすることだ」。

 17,8年前,前社長だった40代の兄が脳幹出血で倒れました。何十億円の負債がある木下サーカスは存続の危機に直面しました。私自身も空中ブランコを始めて3年目の頃,足から落ちて首を痛め,3年間闘病生活を送りました。もう生きる望みもない20代の後半でした。そのときに奈良の信貴山にある断食道場で,1カ月の断食を6回ぐらい経験し,「病気になるのは感謝の気持ちが失せた時かな」と考えました。「Never say never」というか,もう一度背水の陣でやってみようと挑戦しました。今では木下サーカスは世界では第2位の動員力を誇り,年間約134万人のお客様にお越しいただいております。

 毎年1月下旬,モンテカルロでサーカスフェスティバルがあります。世界3,000のサーカスのオーナーたちが集まる中で,特にベスト30ぐらいのサーカスのオーナーが特別のパーティーに招待され,いろいろと話をします。いわゆるサーカスのオリンピックです。木下サーカスの動物は金メダルをとっています。現在いるトラとライオン,ヒョウも世界ナンバー1だと自負しています。

 現在,ライガーというトラとライオンをかけ合わせた子を調教しています。動物の場合,トラやライオン,ヒョウは成獣同士だとけんかをするので,赤ちゃんのころから兄弟のように一緒に育てます。しかも,芸のできる動物とできない動物,いろいろおりますので,とりあえず50頭ぐらいを育てながら,その中から約10頭を選んで編成しています。

老後のライオンはサファリに

 動物にも引退時期があります。チンパンジーは35歳ぐらいで老後になります。岡山の池田動物園に冷暖房付きの施設を1,000万円ぐらいかけて作り,チンパンジーを寄付しました。ライオンやトラは15歳ぐらいで老齢になりますから,南アフリカのサファリに戻し,子どもを作らせます。

 ミュンヘンのクローネサーカスはドイツでナンバー1のサーカスですが,女性の団長さんとはとても親しい関係です。今,来日中のシルク ド ソレイユというカナダのサーカスはラスベガスで興行しているほか,ディズニーワールドとも20年契約をしてサーカス劇場を運営しており,非常に内容のいいサーカスに成長しています。アメリカのジョン フォックスさんという世界的に有名な演出家にも毎回リハーサルに来てもらい,アドバイスをしてもらっています。名古屋の興行では,「ウイル オブ デス」という決死の回転大車輪,命綱もないようなすごい芸も入れています。一番大切なのはチームワークです。クオリティーをさらに高め,お客様に夢や感動,勇気を与えたいと思っております。