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2006年3月31日(金)第4,109回 例会

ポスト小泉の胎動を読む

老 川  祥 一 君(新聞)

会 員 老 川  祥 一 (新聞)

1941年東京生まれ。'64年早稲田大学政治経済学部卒業。同年読売新聞社入社。'86年政治部次長・論説委員,その後政治部長,編集局次長等を経て,'98年取締役編集局長,'01年読売新聞大阪本社専務取締役編集担当,'04年取締役副社長。編集・営業担当,'05年6月代表取締役社長。現在に至る。2002年2月当クラブ入会。準PHF・準米山功労者。

 ポスト小泉を読むには,まず小泉純一郎首相がどう考えているかです。去年の秋に「来年9月には安倍晋三君につなごうと思っている。ただし,まだ1年ある。その間に自分に万一のことがあれば,福田康夫さんにやってもらおうと思う。ということは康夫さんも十分理解している」と話していたそうです。

意欲満々,降りる気なしの安倍氏

 去年の衆院選であれほど圧勝して任期延長論というのがあったにも拘わらず,「9月に辞める」と言ったのはなぜか。首相を辞めた後も影響力を残したいからでしょう。民間企業でも実力社長がある日突然,若い人を社長に据えて会長になるというケースがありますね。小泉さんもこれに似たようなメンタリティーということです。

 一方,安倍さんはもう首相になったような気分でおられるようです。いろいろなところで内輪の話をされていますが,伝え聞くところによると意欲満々,降りる気はまずないということです。経験不足などという指摘がありますが,福田さんも官房長官しかやっていませんし,大臣歴とか党務歴が豊富な麻生太郎さんは失言が続き,経験が仇になっている面もあります。経験というのはやってみることによって積まれていくということでしょうから,経験のあるなしは今の状況では問題にはならないと思います。

 自民党の総裁選に立候補するには20人の推薦人が要ります。しかし麻生さんと谷垣禎一さんは所属派閥の議員が20人いません。

 一方,安倍さんと福田さんは90人近く議員がいる森派に所属しています。この2人が一つの派から立つということは可能性としてはかなり低い。安倍さんが立候補することになった場合,常識的に言って福田さんは出ない可能性が高い。というか,ご本人は「自分は出ない」とおっしゃっています。気持ちの中はちょっと違うと私は思いますが。

 そういうことで安倍さんが優勢。それに対抗して福田さん,あるいは麻生さん。谷垣さんは目があるかないかでしょう。

 安倍さん優勢の流れでなくなり,万一波乱があるとすれば,ここら辺で一つ何かの動きが表に出てくると思います。2週間ほど前に,自民党の中のある人たちが「アジア戦略研究会」という会合を開き,80人ぐらいの人が集まりました。丹羽・古賀派48人,谷垣派15人,河野派11人などで,津島派からも参加しています。

 丹羽・古賀派と谷垣,河野のグループは,全部合わせると昔の「宏池会」という池田派の流れをくむ旧大平派のグループに相当します。旧宏池会の再結集になるわけで,それと津島派,いわゆる旧田中派が結びつき,田中・大平連合のような流れが,アジア外交との絡みで出てくるような根があるということです。

福田氏担いで反安倍連合も

 それが現実のものになるかは,まだこれから先の話ですが,少なくともそういうふうな形に持っていこうと思って動いておられる方々がいる。そのひとりは加藤紘一さんであり,古賀誠さんもそうです。山崎拓さんも若干そこに絡んでいます。

 しかし,そのグループが誰かを,例えば麻生さんなり谷垣さんのどちらかを候補として一本化できるかというと,これはちょっと難しいんです。麻生さんはどちらかというと外交政策においては小泉さんに近い。谷垣さんは中国,韓国ともう少し穏やかにつき合っていこうという考えなので,一本化はなかなか難しい。したがって積極的な意味でのグループ結成には多分ならないでしょう。しかし,例えば福田さんを担いで反安倍連合を組むといったネガティブな形でのグループ形成というのはあり得ないではない。

 もしそういう状況になれば安倍,福田の両氏が立って森派は分裂し,自民党も大騒ぎになる。さらに政界全体が騒然として,連立の組み直し,あるいは政界再編ということも理論的には考えられます。ただ,現実的にはそれだけの緊張した場面を演出できるだけの大芝居を打てる力量のある政治家がいません。山崎さん辺りがちょっと動いて自分も出るかのような姿勢を見せていますが,本音は外務大臣狙いと言われています。

派閥衰退で自民党は危ない状態

 安倍さん優勢ということなら極めて順調,穏当な総裁選になりますが,実態は自民党にとっては大変危ない状態です。昔のようなしっかりした大きな派閥があっての戦いではないからです。森派以外の派閥はもう四分五裂の状態です。例えば津島雄二さんはまったく形だけの派閥会長で,内実はもうバラバラです。

 どうしてそうなってしまったか。自民党政治を支えてきた派閥の基盤である農村や商店街,業界などが高齢化や都市化,あるいは経済のグローバル化などによってガタガタになっている。それに加え,昔のように中選挙区で同じ政党同士が争って力をつけるという状態がなくなってしまった。さらに小泉さんが派閥優先の人事を一切廃止したこともあります。

 一方で安倍さん自身はこういう状況はよくないと考えています。小泉さんと一体のように見られていますが,物の考え方は全く違います。小泉さんの頭には国家がありません。あるのはただチャンバラ,けんかに勝つことだけです。

 安倍さんは国家,国民を優先的に考えますので,決して小泉さんと同じではない。ただ安倍さんがこれから建て直そうとするであろう政治の姿は,バラバラの砂のようなものです。大変荷の重い仕事になると思います。