1975年パリ・ディオール社に入社。日本代理事務所を開設し,PRマネージャー就任。'76年から'78年にかけて,テレビ朝日・アートレポートの司会兼業。'90年ディオール,ルイ・ヴィトン,ジバンシィ,他40以上の世界の一流ブランドを傘下に持つLVMH日本支社の広報ディレクターに就任。'02年2月より高級ブランド,フレッドのジェネラルマネージャーとして,銀座に直営店1号を立ち上げた後,日本国内に9店舗など,積極的な店舗展開中。
私は1975年から30年以上ファッションの仕事をしています。本日のテーマは「外国人との上手な対話法」ですが,外国の方々とおつき合いをするには,まずご婦人とうまくお話ができるようになって下さい。1970年の万博のとき私はまだ21歳でした。フランスの政府代表の事務所で秘書をしていたので様々なパーティーにも出席しました。その後,フランス大使ご夫妻のご紹介でディオールに入社しました。年に2回ずつあるオートクチュールやプレタのファッションショーには世界の富豪を招いてのお食事会が頻繁にあり,そういう場を何度も経験するうちに「フランスの社交界ってこういう世界なんだ」「男性が日本人とは違うな」と思いました。
外国の男性はよくしゃべります。日本の男性は無口です。チャラチャラおしゃべりをすると軽薄だと思われる方が多いようです。東京の「セーブ ザ チルドレン」のパーティーはとても素晴らしいパーティーですが,女性だけのテーブルが結構目立ちます。これは日本だけです。海外は必ず男女交互に座ります。まずは皆様,おっくうがらずにそういうパーティーに出席していただきたいと思います。
主人(建築家 谷口吉生氏)が,1996年にニューヨークの近代美術館の国際コンペで優勝し,去年の11月に8年間かけて近代美術館の改装と増築を完成させました。そのオープン記念のパーティーが本当に毎日のようにありました。 近代美術館には,寄付を目的とするランチやディナーがあります。1人10万円なんていうランチは普通で,ディナーだと1テーブル500万円というのもあるんです。こうしたパーティーの席に着くと,日本だと名刺交換から始まりますが,向こうでは両隣りの方がどなたかわからないまま,いろいろプライベートの話,旅行,芸術,音楽の話などをなさいます。最後に気が合ってまた会いたいなと思うと名刺交換するのです。フランスも同じで,何せテーブルで黙っている方がいらっしゃらない。皆さんよくしゃべります。
ですから,一番苦手だと思いますが,日本の男性におしゃべりになってほしいのです。銀座や北新地では皆さん元気で,すごく饒舌なようですが,いざパーティーでは多分お通夜のようにシーンとしていると思います。
では,お隣の女性と話す時に何をきっかけにするか。まず,お世辞でいいですから,ほめてください。お召し物とか指輪とか,「きれいですね」「すごいのをしてらっしゃいますね」でいいんです。何かそんなことを言うと,すごく薄っぺらな男だとか,下心があると思われるのではとお考えになるかもしれませんが,男性がブラッド・ピットとかアラン・ドロンでない限りそうは思われません。(笑)
あちらの男性はとにかくほめるのがうまい。先週,仕事でパリに行きましたが,パリにいると自分が女性だと感じて,とても気分がよくなります。LVMH(モエ ヘネシー・ル
イ ヴィトン)グループの本社のロビーにいるとディオールの社長が降りてきて「おお,久美」と言って,着ているものを1つ1つほめてくれました。私が好んで着ているものを「ああ,ステキだね」と言われると,それだけで親しみを感じます。
帰国後,銀座のフランス料理店「ロジエ」で食事をしていたら,何と女性ばかりでした。日本でも男性が面白ければ女性も一緒に食事したいと思いますが,はっきり言って女性同士のほうが楽しいんです。旅行も旦那より友達と行くほうがずっと楽しい。最近は働く女性もどんどん増えていますから,会社で髪型でもお洋服でも靴でも,何でもいいからほめて下さい。それによってコミュニケーションがすごくよくなります。どんな仕事も人間関係もコミュニケーションが一番大切です。実力半分,あとはコミュニケーション力だと思います。
フランスではレディファーストも徹底していて,ちっちゃな男の子でも椅子を引いてくれます。そのレディーファーストに加えて口先男ぶりを発揮するのです。この間も,何年ぶりかである男性と再会したら,「ああ,久美,久し振りだね。君はワインのような女だね」と言われました。どういう意味かわかります?年月がたつと熟しておいしくなるという意味ですが,そういう言葉がパッと出てくるんです。本当に口先男なんですけれども,女性にとってはうれしいんです。
パリで泊まったホテルの支配人は私が来ていると聞いてロビーに降りてくると「マダム谷口,ステキですね。僕と腕を組んでロビーを回ってください」って言うんです。いつの日か,そういう日本の男性があふれてくれば,女性もおしゃれのしがいがありますし,美しくなりたいと思うものです。女性と話す際は,ご自分の自慢話はなさらない,それから相手の目を見てくださいね。それと,秘書や部下は一緒に連れて行かないことですね。
会話の内容ですが,日本の男性はゴルフの話題ばかりですが,ゴルフ以外の話題もおそろえ下さい。それには何か1つ趣味をお持ちになることです。私は声楽をやっていますが,元アメリカ大使の柳井さん,慶応大教授でコメンテーターの島田晴雄さんらもお仲間です。美術もいいですね。いま欧米では現代アートに興味を持っていると,尊敬され,かっこいいですよ。演劇,音楽のコンサートにもできるだけ足を運んで下さい。社交界の華になって会場を盛り上げていただければ幸いです。