1930年神戸市生まれ。'53年京都大学工学部卒業,同年瀧川セルロイド(株)(現在タキロン(株))入社。'60年ニューヨーク駐在。'73年TAKIRON(U.K.)Ltd.社長。'85年タキロン(株)社長,'96年会長,現在特別顧問。クラブヒラエス(Club Hiraeth・ウェールズ在日本企業で役員を務め帰国したメンバーの集まり)初代会長を務め現在名誉会長。'96年当クラブ入会。準米山功労者・マルチプル準PHF・ベネファクター。
ロータリー理解推進月間ということで,本日は情報委員長の私がウェールズの話をさせていただきます。
30年前になりますが,日本の製造業第1号として英国西部のウェールズに派遣され,現地で工場を建設し,その後7年間おりました。ウェールズというのは最近でこそ日本の方々にも浸透するようになりましたが,私がいた時分は全く知られておらず,ごくわずかな留学生が行く程度の国でした。
「ウェールズに行ってこい」との命令は,私の前の前の社長の松井弥之助さんからいただきました。松井さんは日本企業として初めてウェールズ進出を決められ,実績を残されました。その後,日本を揺るがした伊藤忠商事と安宅産業の合併のときにも活躍され,そのときのことは直木賞作家の安部牧郎さんが「雷鳴のとき」という小説に書かれた通りです。もう亡くなられましたが,大阪東RCの会員として約20年,ロータリアンとしていろいろな役職を果たされました。
1973年に私どもが初めて工場をつくったのはウェールズ州の州都カーディフです。ウェールズは石炭と鉄で有名ですが,カーディフは石炭の中心地です。当時は人口26万人,現在は30万人ぐらいです。日本企業は今では60社を数えます。ソニー,松下電器産業が進出し,それから日立・GEの合弁会社ができ,トヨタ自動車やユアサバッテリーも進出しました。
日本企業に専門の立場からいろいな助言をいただき,お力になってくださったのがロータリアンのフィックリングさんです。職業は会計士で,私どもが現地で取締役会や株主総会を開く時も助言や率直なアドバイスを頂戴しました。
1964年にカーディフのランダフRCが10人で発足したときの会長をなさっていました。ロータリーの職業を通して社会に奉仕することに大変共鳴されまして,生涯をロータリー運動に尽くされました。その頃,カーディフには3つのRCがありましたが,現在では8つに増えています。
私どもの現地会社の監査を引き受けておられ,大変ユーモアのある,しかも熱心なクリスチャンでした。残念ながら10年ほど前にお亡くなりになりましたが,今回,この場でお話をすることについて奥さまにお尋ねしたところ,とても喜んでいただき,生前のお話もお聞かせくださいました。
フィックリングさんは第二次世界大戦中は空軍でトランスポートコマンダーという職で活躍されました。その後は現地でも歴史のある会計事務所のパートナーになられました。
私どもは日本のロータリアンにも助けて頂きました。大阪RC会員の川勝堅二会員は,当時三和銀行(現三菱東京UFJ銀行)のロンドン支店長をなさっており,英国投資での資金調達に随分とお力添えをいただきました。
ウェールズの担当大臣が来日されると大阪に必ず立ち寄られます。ウェールズがとりわけ親日的なのは,歴史的な背景があるからです。阪神大震災の際には,率先して兵庫県から20名の大学生を招待され,往復の旅費・滞在費・生活費・学費等,全額ウェールズ州政府の負担で,大学生をサポートしてくれました。
もう1つ,大変興味のある話があります。1号工場のオープニングセレモニーには当時の森駐英大使に参列をいただきましたが,森大使は,ウェールズのある方を表彰するために表彰状と記念品をロンドンからお持ちになりました。かつて産業革命で蒸気機関が世界の動力源としてほとんどオールマイティーであった時分は,石炭が燃料でしたから,カーディフ産の良質の石炭は世界中に出ていました。この石炭は燃やしてもほとんど煙も出ず,燃えかすもほとんどなく,石炭の切り口は本当に黒光りをしたダイヤモンドのように艶やかでした。
蒸気機関を利用した日本の軍艦,商船が,カーディフ炭を積みにカーディフの港によく寄港したそうです。当時下級船員の労働条件は非常に悪く,カーディフで石炭を積むのに寄港した際に上陸したまま帰ってこないで現地で生活される方が出てきたわけです。そういう方々に温かい援助の手を差し延べた英国人がおられ,その方を表彰されたのです。隠れた草の根外交にも配慮されていることに感心しました。ウェールズには日本人の方々がいろいろな痕跡を残していたのです。
現在の総領事のポール・リンチさんは大阪RC入会のご意思がおありなので,今度職場訪問をする予定です。日本企業のウェールズ投資の原点をつくった松井弥之助さんとフィックリングさんはともにロータリアンでした。これからもロータリアンの力がいろいろな点で発揮されることを祈っています。
これは余談ですが,世界ロータリーの加盟国は168カ国になりました。皆さん,南極大陸にロータリークラブがあることをご存じでしたか。南極では9人の会員が活動されているようです。
ロータリーの情報委員会というのは,ロータリーの内部に正確な情報を発信するのが仕事です。これからも様々な情報発信で皆さんのお役に立てれば幸いです。