1962年東京大学法学部を卒業後,文部省入省。'91年体育局長の時,世界陸上東京大会を迎えた。また,スポーツ振興のための資金確保に努力。退職後も同省の特殊法人「日本体育学校健康センター」の理事長として広くスポーツの振興のため努力。'04年現職。
陸上そのものは大変地味な競技ですが,世界陸上は,オリンピック,FIFAワールドカップと並ぶ世界3大スポーツイベントの1つです。212の国と地域から,約3,200人の選手・役員,2,500人の報道関係者が参加する予定で,世界45億の人たちが,テレビ・ラジオで視聴いたします。
1983年が第1回大会です。これは,’80年にモスクワ五輪が開催予定でしたが,旧ソ連のアフガニスタン侵攻という事件が発生,西側の40数カ国がボイコットしました。さらに,’84年のロサンゼルス五輪では,米軍によるグレナダ侵攻に抗議して,旧ソ連をはじめ東側の10数カ国がボイコットしました。真の世界一をやろうという呼びかけがありまして,’84年の直前の’83年に第1回の世界陸上の大会が開かれることになりました。政治とスポーツの狭間で世界陸上というものが生まれた,といえます。
競技種目数も変わってきています。男子は24種目で現在も同じ数。女子は17種目で始まり,徐々に増え,今はただ1つ,50km競歩だけが女子にないというところまできています。また,世界陸上で増えた競技種目は,五輪種目になるという歴史もあります。記録面で言いますと,世界陸上では,世界新記録が18出ておりまして,日本人のメダル獲得数は17でございます。
陸上競技で世界最速の男を決めるのが100m。10秒を切っておる選手が何人ぐらいいるかと,さまざまな人に聞きますと,「5人ぐらい」「いやいや10人はいくだろう」と返事があります。実は50人を超えるアスリートが,9秒台で走っています。私ども陸上関係者は,日本人で,100mで10秒を切る人が早く出てくれと切に願っております。ちなみに,100mで10秒を初めて切ったのは,’68年のメキシコ五輪で,米国のハインズ選手の9秒95という記録です。
日本では,100m走,マラソンというものが大変ポピュラーです。欧州では,10種競技とか7種競技,これを混成競技といいますが,走る・飛ぶ・投げるという10種類,女子の場合は7種類やりまして,その総得点で優勝者を決めます。欧州では,この競技に賞賛を惜しみません。いろいろな形で競技種目を,ぜひ見ていただきたいと思います。
世界陸上の大阪大会では,3つの目標を掲げています。「日本の陸上競技,ひいては広くスポーツの発展に寄与する」「スポーツを通じた国際交流と,世界平和に貢献する」「開催都市・大阪を中心に,日本の更なる活性化と国際化を促す」。もう少し身近な目標もあります。「大会の成功を目指す」です。どうなったら大会が成功したと言えるのかは,3つの要因があると思います。
1つ目は,選手諸君が伸び伸びと競技に打ち込める最高の競技運営をすることです。2つ目は,連日,スタンドの満員の観客が,選手の活躍に熱い拍手と声援を送ること。3つ目は,選手諸君が,たくさんの好記録をつくることです。第3回の東京大会で,カール・ルイス選手が,大会の2日目に世界新記録を出しまして,3日目からどっと競技場に観衆が殺到しまして,東京大会は大変すばらしい大会に終わっております。大阪大会もぜひそういったふうになるように,心から祈っています。
私たちは,今懸命に準備活動に入っておりますが,まず日本の大阪で行われる大会,大阪らしさを存分に出したいと思っております。例えば開会式,閉会式,その他競技の運営において,さまざまな点で出せると思います。組織委員会も,さまざまなお知恵を拝借してやっております。
開催都市・大阪の市民と一体となったPR,盛り上げ。この点では,「大阪では町内会,区民大会,あるいは商店街の結びつきに大変強いものがある。これをうまく活用できるようにすればいい」というアドバイスを受けております。例えば,市民応援団を4月24日に結成していただきました。
また,大阪24区の区民祭り,これは大体1万人から3万人が集まりますが,そこで世界陸上の魅力を伝える工夫を凝らしております。吉本興業のオール巨人さんからアドバイスがありまして,ハードルの高さを実際に見せる,ハンマーの大きさ,重さを体験してもらう機会を設けてはどうかというのです。世界の記録で,例えば幅跳や三段跳の距離を線に区切って示します。ハイジャンプの高さ,棒高跳の高さを実際に見てもらいますと,「これはすごい」と,子どもたちが目を輝かせてくれる。そういったことで大会のPR,盛り上げを図っています。
御堂筋パレードももうすぐで,これにも知恵を絞って,皆様があっと驚くようなもので参加をしたいと考えています。また,子どもたちが参加する大会にしたいと考え,こういった大会では子ども用チケットはないのですが,初めて子ども料金を設定いたしました。
こうした大会の機会を逃さないで,世界に対して,日本人に対して,大阪ってこんなすごい力を持っているんだよということを,ぜひ示すようにしていきたいと,心から願っております。
世界一を目指すトップアスリートの方々の活躍をぜひ競技場で見ていただきまして,声援を送っていただきたい。この大会の成功に一番大切な要件は,競技場がいっぱいになること,そして,温かい拍手を送っていただくことです。そういった競技大会になりますように心から念願いたしております。