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2006年7月14日(金)第4,122回 例会

ボルネオ象の救出作戦

更 家  悠 介 君(化学工業)

会 員 更 家  悠 介 (化学工業)

1951年生まれ。'74年大阪大学工学部卒業。'75年カリフォルニア大学バークレー校工学部修士課程終了。'76年サラヤ(株)入社,取締役工場長,'98年同社代表取締役社長就任,現在に至る。'86年日本青年会議所会頭や'91年には国際青年会議所常任副会頭など多くの団体で活躍。柔道は講道館3段。'96年当クラブ入会。'01年度幹事,'03年度理事・国際奉仕委員長。マルチプル準フェロー・米山功労者(マルチプル1準)

 生まれは熊野です。父親が大阪で創業いたしまして,私は3歳のころ,昭和29年か30年に大阪にやってまいりました。大阪にも,まだ自然が残っていましたが,その後,急速に都市化が進みました。幼いころに遊んだ自然は自分の原風景で,大学に行っても環境関係のことをやりたいと思っておりましたし,仕事以外でも環境関係でお手伝いできることがあればと思い,いろんなことをやっております。そうした関係から,ボルネオゾウの救出作戦についてお話ししたいと思います。

生産伸びるパーム油

 ボルネオ島はインドネシア,マレーシア,ブルネイが領有しています。同島マレーシア領のサバ州,川沿いに熱帯雨林が広がっていて,パームヤシの栽培に向いています。ヤシ油は主にパームヤシとココヤシから作られます。パームヤシの実を絞ってパーム油,中の種を絞るとパーム核油。ココヤシは,実の核の白いところをすり潰すとココナッツミルク,天日干しして油をとるとヤシ油になります。食品,印刷用インキ,機械油,化粧品――と,用途は広く,私どもは,石けん・洗剤の部分でパーム油を使っております。最近は石油などに対して,バイオ燃料としてヤシ油,ナタネ油を使おうという動きがあります。

 ’04年までは大豆油が世界最大の生産量でした。昨年度,パームは大豆を抜いて世界最大となりました。パーム核油を合わせると,’04年でも世界最大でした。パームは生産効率が非常に高く,毎月収穫するので備蓄の必要が少ない。この利点から生産も伸びていて,’01年の生産量では,インドネシアとマレーシアが世界生産の90%にのぼっています。

 私どもは,ヤシノミ洗剤とか,石けん液の原料にパーム油とヤシ油を使い,いろんな工夫をして,自然派で環境に優しいという売り方をしてきましたが,だんだん通らなくなってきました。「CRUEL OIL」(冷酷なオイル)。これはヨーロッパのキャンペーンです。例えば,腐らないように,パテントの切れた非常にきつい農薬が現地で使われたりして,熱帯雨林や生態系に影響があると訴えています。

子象救出作戦

 そこで,救出作戦です。「素敵な宇宙船地球号 子象の涙」というテレビ番組から取材申込がありました。あまり出たくなかったのですが,出演しますと案の定,「鼻の切れた子象がボルネオにいます」と写真などを見せられ,「あなたのところの洗剤は,地球に優しいヤシノミ洗剤と言っているが,パームプランテーションの拡大で象が影響を受けている。どう思うか」という質問を受けました。そこまでとは知りませんでしたので,これは大変ですね,と申し上げました。その後,何かやりたいと思って,調査をいたしました。

 ボルネオゾウというのは,現地に約2,000頭おり,群れを作っています。プランテーションで生息域が狭められ,パーム園でパームを食べたりするものですから,ワナを仕掛けられ,子象の足にロープが巻きついたり,鼻が切れかけたりしているのです。そういう象が約20頭いるという話でした。とりあえず,やりましょうということで,’04年11月から「子象の救出」を開始しました。マレーシア政府機関のSWD(Sabah Wildlife Department,サバ州野生生物局)から,「スポンサーをしてくれるのならやってもいい」と言っていただきました。予算を組んで,象に治療をして放そうということになりました。やっと去年,4頭捕獲し,治療いたしました。ただ,人手をかけて象の治療をして放しても,問題の根本解決にはなりません。

 RSPO(Roundtable on Sustainable Palm Oil),「持続可能なパーム油のビジネスを考えよう」という団体があります。大きなメーカーや流通関係,現地のパーム農園などでつくっています。私どもも入って,象の捕獲作戦をやっているので,認識して協力してほしいということを勉強会で申し上げ,視察もしました。昨年の総会で,決議文を採択してほしいと申し上げました。サバ州,もしくはボルネオで,1kmの幅で川の下流から上流までの土地を買い上げ,緑を確保する――という原則について賛成を求めたいと述べました。そうしますと,「いいことだ。但し,文言について問題がある」となり,総会では各々がしゃべり出して,このままでは決議採択に負ける見通しとなり,議事録を残してもらう条件で,涙を飲んで議案撤回しました。

緑の回廊,実現へ

 BBEC(Bornean Biodiversity and Ecosystems Conservation programme)という,日本政府も援助している,「ボルネオの自然を保護するようなプログラムを推進する」という団体もあります。ここでも子象救出作戦の報告をし,パームヤシの生産と消費,野生生物との共生について発表をしました。ここではすごい拍手で「いいことだから皆でやりましょう」と,盛り上がり,「緑の回廊」の提案をしました。ヘリで視察し,違法に植えているところは収用しよう,水がついてだめなところは安く買おう――というふうにプログラムを作成,地図をつくりました。州政府の協力的なキナバタンガン川とセガマ川の両岸で緑をつなげようという試みは世界初で,トラストをつくろうというところまで発展しています。

 南の環境問題は世界とつながっているという意味で,地球市民としての視点を持ち,ぜひ皆様もご理解をいただいて,環境問題に日本も対応できるところから対応していければ――と考えています。