大阪ロータリークラブ

MENU

会員専用ページ

卓 話Speech

  1. Top
  2. 卓話

卓話一覧

2008年6月6日(金)第4,210回 例会

ジョン万次郎が果たした日米友好の橋わたし

日 野 原  重 明 氏(東京銀座新RC)

聖路加国際病院名誉院長
同理事長
日 野 原  重 明  (東京銀座新RC)

1911年,山口県生まれ。京都帝国大学医学部卒業。’41年,聖路加国際病院内科医となる。現在,聖路加国際病院理事長・同名誉院長,聖路加看護学園理事長など。’99年に文化功労者。予防医学の重要性を指摘し,終末期医療の普及,医学・看護教育に尽力。成人病と呼ばれていた病気に「生活習慣病」という言葉を生み出すなど,常に日本の医療の先端を走っている。

 日本はいろんなことを経験しましたが,最も大きな経験は真珠湾攻撃をして日米の戦争を始めたことです。

 その後遺症は今も続いていて,数年先にはもっとひどくなる恐れがある。国民投票が2年先に迫っていて,日本は軍隊を持つかどうか,そして米国の核兵器と一緒になって北朝鮮やロシアと対峙するのかどうか。日本は昔以上の国になろうとしています。

 戦争のことを知っている者として,「私たちが何をやってきたか」,子どもたちに率直に話すために,過去2年間に80回,授業をしております。

 8年前に「新老人の会」を起こしました。6,000人の会員を3万人にして,国民投票では世論を起こしたいというところです。

 では,万次郎の話をします。

 テレビドラマ「篤姫」の中に,万次郎が出てきました。日本の小学生が今,万次郎を知っているか調べると,やはり知らない子どもの方がはるかに多い。一般の人も,「篤姫」を見て初めて知ったという人が多い。

鎖国はもっと延びていた

 万次郎がいなければ,日本は鎖国を開くということをもっと延ばしたはずです。日本は世界から離れてしまって,欧州で文化が進んでいることを知らないで,浦賀にペリーが来るまで鎖国をやめなかったのです。

 万次郎は,1827年生まれの,土佐清水の漁師の子です。14歳の時に大人の漁師4人と漁に出て難破し,鳥島という孤島に避難しました。143日間生き延びたところを,米国の捕鯨船ジョン・ハウランド号が救助してくれました。

 大人の漁師らはハワイで降りましたが,ホイットフィールド船長は,洞察力のある万次郎を米国で教育しようと思いました。「ジョン・マン」という愛称をもらい,ボストンの南にある港町フェアヘーブンの船長の家に10年間,ホームステイしました。

 万次郎は利口だったので,またたく間に英語を話せるようになったそうです。数学・航海術などを学んで,航海士になりました。

米国への最初の留学生

 「利口な日本人」ということで,万次郎は評判になりました。彼は,米国への最初の留学生なのです。

 10年後に母親に会いに帰りたいということで捕鯨船に乗り,沖縄の近くでこっそり入国しようとして,とらえられました。取り調べを受け,悪意はないということで,やっと土佐に帰って母親に会うわけです。

 彼は幸いに土佐藩の士分に取り立てられ,幕府の要人に会うこともできて,開国の必要性を説きました。ペリーが来る2年前のことです。

 1860年に「咸臨丸」という船で,勝海舟,福沢諭吉らと米国に渡りました。万次郎は彼らに,米国にとんでもない文化があるということを語りました。

 万次郎は米国びいきになっていると思われて,苦労もしました。彼は東京大学の前身の開成学校の教授になりました。日英の辞書を最初につくった人でもあります。

 昨年の夏,万次郎がステイしたホイットフィールドの家が競売されるということを知りました。募金を始めるということで,競売を押さえました。

 家を買うのに6,000万円,修復に2,000万円は要る。そこで「ホイットフィールド・万次郎友好記念館」開設の募金趣意書を書き,ご協力をお願いしています。元駐米大使の大河原さん,小沢征爾さんらが発起人になってくれています。

 募金の話を朝日新聞に書きましたら,札幌のご婦人が500万円送ってくれました。行きつけのレストランのご主人が100万円持ってきてくれました。

 朝日新聞に書いた記事ですから,村山社主のところに行ったら,100万円出してくださった。社長も300万円,出してくださった。

 私の所属している東京銀座新RCでも,100万円出してくれます。大阪RCのロータリアンにも期待するところが大きいと申し上げたい。

 万次郎という青年がいた,ということを,もっと日本の歴史に書かなくてはならない。米国のクーリッジ大統領は「万次郎は米国で立派に成長したのだから,米国が送る最初の日本の大使だ」と書いています。

 「新老人の会」は,子どもに平和を教えることが究極の目標であって,「愛し愛されること・創(はじ)めること・耐えること」をモットーにスタートしました。75歳以上がシニア会員,60歳以上がジュニア会員,20歳以上がサポーターです。

 年取った人は,自分が使える時間がある。日本は世界一,老人がお金を持っている。フランスのように子どもが3人生まれても夫婦ともに働けるように政治を変えなくちゃならないけど,どこの政党も消費税を高くすることの数字を挙げない。だから,民間が世論をつくらなくちゃならない。こういうことを,私は95歳過ぎて考えているんです。

誇るべき日本人

 きょうお話した「万次郎は日本の誇るべき日本人だ」ということを,子どもたちに伝えてください。そして,「新老人の会」には,若い人もお入りください。

 老人というのは,オールドでなくてエルダーということで,尊敬されるために私たちはモデルにならなければならない。どうすればモデルになれるか,というのが私たちの仕事だと申し上げて,私のごあいさつに代えさせていただきます。