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2008年4月18日(金)第4,204回 例会

関西食事情について

門 上  武 司 氏

フードコラムニスト
料理雑誌「あまから手帖」編集長
門 上  武 司 

1952年大阪生まれ。大阪外国語大学ロシア語学科中退。関西の食事情に詳しく,テレビ出演や雑誌での執筆も多く,著書多数。

 関西の食といいますと,やはり「上方割烹」とか,「食は関西にあり」というように,関西が食の都というアドバンテージが歴史的にもあったわけです。昭和の初期に西区の新町に初めてカウンター割烹,板前割烹が生まれました。それまでの料理屋さんは,料理人が調理場で料理したものを仲居さんが運んでいくものでした。今,日本全国で板前割烹と言われている原型が大阪にあったわけです。フランス料理やイタリア料理の世界にまで,そういうものが広まって,考えようによっては全世界が大阪化してしまったというぐらいに,大阪の食文化というものが常に新しいものをつくり上げてきたという歴史があります。

ジャンル超え料理人が協力

 そういう大阪の食が危機的だという状況に気づいているのは,実際に商売をしている料理屋のご主人やスタッフ,シェフです。飲食というのは,生産物ができて,流通に乗って,加工されて,人の口に入って,実際に食べてもらって初めてOKです。大事なことは,今の人たちにどういうふうに食べてもらえるかです。料理人がそのことを切実に感じて,動き出しています。

 例えば先日,大阪の万博公園の広場に大阪のイタリア料理屋さん,フランス料理屋さん,それから焼鳥屋さんも含めて,10店舗ぐらいが集まって大屋台村というか,カーニバルみたいなことをやりました。申し込みが多く1,000人を超す人たちが来てくれました。約10店舗の料理屋さんが,自分たちの店ではできないような手法で,例えば野外だからブタを丸焼きにするとか,フレンチとイタリアンが共同するとか,いろんな手法を考えて,そこでしかできないことを考えました。自分の店だけが繁盛するというのでなく,同じ意志を持っている料理人たちに声をかけ,スクラムを組んで伸ばしていこうと。

 神戸では去年,イタリアン・フレンチ・和食・焼肉屋さんが入って,「神戸マルシェ」というイベントがありました。神戸は中華料理の盛んなところで,今年は中華のグループも一緒になって,また新しい形の「神戸マルシェ」をやろうという動きが出ています。そうすると,われわれのようなメディアももっとバックアップしよう,そのためのホームページをつくろう,もっと情報発信していこうという動きが出てきて,ますます同じ意志を持つ料理人のスクラムが大きくなっていくわけです。京都は京料理という一つの大きなブランドがあるので,他ジャンルと一緒に組むというのが難しい状況です。

食は生き物、常に変化する

 この間,『ウォールストリートジャーナル』のアジア版で,日本のレストランが3軒選ばれました。東京の「久兵衛」というおすし屋さん,京都の「菊乃井」という料亭。トップの大阪・北新地の「カハラ」というレストランでは,最後はステーキを焼くのですが,それまでの料理が非常にクリエイティブで,和食でもない,洋食でもない,ステーキでもない,一言で言うと森さん(オーナーシェフ)の料理でしかないというオリジナリティーあふれた料理です。

 去年のことですが,スペインから「エル・ブリ(ブジ)」(三ツ星レストラン)のシェフが,「カハラ」の料理を食べたいということで関西に来ました。それから,新世界の串カツも見たいと言うので案内しました。彼らにとっては串カツと「カハラ」の料理は等距離なのです。こっちが安いからとか高いからとかではなく,それは料理として評価をする。ふぐ料理にも行きました。世界のトップランナーのシェフが「カハラ」の料理を食べたいがために関西に行きたい,大阪に行きたい,もちろんいろんなものを食べたい。ということは,大阪が持っている食の都というアドバンテージはすごくあるわけです。

 常によりおいしく,より楽しく,より今とは違ったものをつくり上げていっている人たちは,非常に多くの支持を集めています。京都の料理にしても,伝統とはいうのですが,実は海外との交流があったり,新しいものであったり,技術であったり,取り込む力はすごいものがあるんです。とにかく食というものは生き物であり,伝統の上にあぐらをかいているだけではなくて常に変化していく。それが食べ物の一番おもしろいところです。

いい食べ手が料理人育てる

 やはり「食」は「つくり手と食べ手」の関係で,いい食べ手がいるから,いいつくり手が育つ。料理人をバックアップしようとか,育てようということと同時に,やはり自分が持っているいい情報をその料理人に与える。料理人も想像力を働かすし,食べ手も想像力を働かせる。想像力を刺激してくれる料理がいいわけですから,そういうふうにいい食べ手がいるお店は必ずいいお店になっていって,お互いに成長できていく。そういうふうにいい食べ手といい料理人という関係が出来上がれば,ますます関西の食というもののレベルや懐が深くなっていくと思っています。

 雑誌をつくっておりますと,料理人,サービスする人,生産者,そして読者のお話も聞きます。読者というのは一般の消費者,いわゆる生活者なわけです。そこがもう少しいい関係というか,うまく接着すれば食を核にしてもっといろいろなレベルが上がるのに,もっと楽しいことができるのにと思います。関西は食に関してはそういう土壌を持っているところで,今言いましたように京都は京都の料理人の中で伝統とか次の人が交流する,大阪,神戸に関しては,ジャンルを超えて料理人がすごくスクラムを組んでいる。

 われわれはこういうエリアにいて,やはりいい食べ手であって,ある意味サポーターであって,料理人を育てていく。関西の若手だけでなくて,中堅どころも含めて自分たちの関西の食をもっと元気にしたいという動きをしておりますので,皆さん,そこを知っていただいて,彼らのサポーターになっていただければと思います。