1978年イタリア・トリノ生まれ。’01年大阪外国語大学イタリア語専攻卒業。’03年同大学院博士前期課程を修了。2005~06年度ロータリー財団奨学生としてローマ第三大学へ留学。現在は大阪大学大学院言語文化研究科博士後期課程2年に在学中。大阪ドーナッツクラブ代表も務める。
池田RCからロータリー財団の奨学生として推薦いただき,イタリアはローマに2年間行ってまいりました。本日は三つの要点にまとめて話します。一つ目は「チン・チン・チネマ(Cin Cin Cinema 映画に乾杯!)」という言葉とローマの映画事情について。2つ目は「やっぱり映画は最高の親善大使だった」ということを,三つ目は「大阪ドーナッツクラブの活動と今後の展望」についてです。
まず,「チン・チン・チネマ」ですが,私がローマに行った最初の春に,ローマの地下鉄やバスにポスターが張られていました。グラスが2つぶつかっていて,そこに3ユーロ,5ユーロと数字が書いてあります。これは06年からローマ市がお金を出して,「皆に映画館で映画を見てもらおう」というイベントです。この「チン・チン・チネマ」は,だじゃれ感覚で語呂がいいので,私もよく使っています。「チン・チン」というのは「乾杯」で,「チネマ」は「シネマ」の語源で,日本語で「映画」です。僕が今回注目したいのは,作品を意味する「フィルム」ではなく,この「チネマ」のほうです。つまりどれぐらい映画を映画館で見る機会があるかということを考えてみたいと思います。
ローマ市が補助金を出して,ちょうど今,第2回ローマ国際映画祭が行われています。イタリアはいろんな都市で大小の映画祭をやっています。一番有名なのはベネチアです。なぜイタリアはこういうふうに映画祭で成功していけるのかなということを考えてみました。一つは,映画館で映画を見るというのが市民の間で日本よりも定着しているという事実があります。
ローマにチネチッタ・スタジオというのがあります。1937年,世界でもかなり早い段階に国立でつくられた大規模な映画スタジオです。映画人がそこに集まって国のお金で映画をつくるようになったのです。スタジオの隣にスタジオより2年前に設立された「映画実験センター」というのがあります。
映画館の事情に戻ります。ローマで本当に多数の映画を映画館のシートでゆったりと見ました。僕のような学生でも入れるかなり安い料金です。1本の料金が3ユーロ,450円か500円ぐらい。日本は1,800円。本でいえば文庫本とハードカバーの違いがあるのです。
人口1万人当たりのスクリーン数を比べると,大阪も東京もローマの5分の1程度しかありません。時代の流れもあって,ホームシアターセットをお持ちの方もたくさんいらっしゃると思いますが,本来の映画の喜び,あの薄暗い何となくプライベートな雰囲気のする場所で映画を見るというのはえもいわれぬ体験ですし,大スクリーンで見るというのも家で見るのとは全然違うわけです。その根底のところが崩れてくると,映画はちょっと危機に陥るのではないかと考えます。
私の親善大使としての役目ですが,実は私も映画を撮っています。東京のイメージフォーラムという映画館に寺山修司がつくった付属の映像研究所というのがあり,そこで作った作品をローマに持っていきました。「どこかで上映してやろう」と思っていたのですが,ちょうど僕の行っていた大学で全国学生映画祭があり,持っていった2本を応募したら,両方とも上映してもらえました。
日本で撮った映画ですから,具体的に映像を見てということで,その見てもらった方と交流するとものすごく話がはずむのです。あの背景はどういうことなのか,その裏にある日本の社会の現状はどういうことなのかということで,わりと活発な交流ができました。やっぱり映画の魅力だなと痛感しました。
逆にまた,現地のロータリークラブでお話ししていて痛感したのは,例えば映画でしたら,イタリア映画が日本でどういうふうに見られているのか,ということにかなり興味を持たれている方が多かったです。それで,現在のイタリア映画が日本でどういうふうに受け入れられているかとか,朝日新聞主催の「イタリア映画祭」が毎年ゴールデンウィークに東京でありますが,そういう事情もお話しして,有意義な交流ができました。
最後に,私がやっている「大阪ド-ナッツクラブ(ODC)」です。残念ながらイタリアの映画・演劇・文学作品に触れる機会が減ってきているのが現状です。そこで,10人程度をお宝アーティストということにして,われわれが発掘した日本ではまだ全然知られていない作家を紹介しています。
映画は過去の名作のDVDになっていないもの,今ではほとんど上映されていないものがたくさんあるので,何とかDVD化しようということをやっています。それから,来春をめどに京セラドームの近くにあるシネヌーボーという映画館のお力を借りて,シルヴァーノ・アゴスティ監督の回顧上映をやろうかなというふうに考えています。
演劇は,2004年に池田で,2005年に京都でやっています。97年にノーベル賞をとられた作家ダリオ・フォー。全然日本で紹介されていないのですが,わりと吉本に近いようなコミカルなドタバタ喜劇で,こんなにおもしろいんだからぜひ紹介したいということで上演しています。
文学も,私がローマにいる間に幾つか本を翻訳していますので,それを何とか出版していただけるようにということで,企画書をつくってやっています。マイナーで,草の根的ではありますが,何とか皆さんの目に触れる機会があるようにということでやっています。