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2007年8月31日(金)第4,174回 例会

仏像彫刻をする技と心

久 保 田  唯 心 氏

仏 師 久 保 田  唯 心 

1943年大阪生まれ。’63年京都仏像彫刻研究所に入門し松久朋琳,宗琳師に師事。’72年独立し独去界主幹。’75年以来,奈良・薬師寺,山梨・大滝不動尊など寺院,神社の諸尊像を制作。関西,関東の百貨店で個展47回。リーガロイヤルホテル文化教室・仏像彫刻教室講師。著書に「仏を彫る」(創元社)。

 仏像とは,何でしょうか。仏像は,人間の心と体の理想像。私たちを生かしている大いなる宇宙の命を表したものだと思います。

 では,仏像を彫るとはどういうことか。本日は,私の作品を4体持ってきました。向かって右が一木造の不動明王。こちらの大中小と並んでいるのが観音様で,寄木造です。

仁王さまを見て「本望や」

 (スライドを上映し)私は,大津の石山に工房を持っています。妻と息子と私,3人とも彫刻をしています。心静かに木の中より仏を迎えたいと思い,緑豊かな環境を選びました。森や池があり,秋には鹿が鳴き,鳥がさえずっています。彫刻はあぐらをかいて,小さいものは膝の上で彫ることもあります。

 なぜ仏像を彫る気持ちになったか。父が僧侶だった影響もあり,仏教には関心がありました。約40年前,大学生のときに四天王寺さんの仁王像を見て,一生のうちでこんな仏像を彫って仏教の精神が伝えられたら本望や,と思ってしまったんです。

 大学を中退し,京都の松久朋琳先生のところに入門させていただきました。内弟子の10年間はいろいろ大きい仕事を手伝い,独立してからは展覧会で発表しています。最近はお正月に梅田の阪急百貨店さんでの展覧会が恒例になり,来年で24年目になります。

 仏像を彫る楽しみを一般の人にも味わっていただきたいと思い,ここリーガロイヤルホテルの文化教室で,月曜日に彫刻の教室を開いています。興味ある方は見学に来てください。この教室も27年目になりました。

 落語家の桂南光さんが「仏を彫れとかいう天の声が聞こえた」と言って訪ねてこられ,何体か仏像を造られました。今は忙しくて休んでおられますが,「60過ぎたらまたやりまっさかい。頼んまっせ」とおっしゃっています。俳優の滝田栄さんも,この教室のご縁で仏像彫刻を始められました。ときおり大津の工房に稽古に来られます。今,60㎝ぐらいの不動明王を彫っておられます。座禅歴30年の求道心旺盛な滝田さんに,息子も私もありがたい刺激を受けています。

偉大な運慶・定朝から学ぶ

 仏像の寸法について私は,鎌倉時代の偉大な仏師運慶の流れをくむ法則を習いました。

 運慶は天平時代からの仏像を検証し,最も美しい寸法の比率を決めました。額の上の髪の毛の生え際から下唇の下までを1単位として,各部分の比率を例えば,座高を5としたら,膝張りも5,肘張りは3.5としました。奥行きも含めて全部決めています。私もこの寸法を使い,応用しています。

 写真は,この基準で造られた運慶作の大日如来像です。奈良の円成寺にまつられています。二十歳代の作といわれ,若々しい生命力があふれ,品位と慈悲に満ちています。この前に座って運慶さんのメッセージを聞くのも私の楽しみの一つです。こういう仏像を見て美しいと思い,元気をもらうことが,仏法に触れるということではないかと思います。

 次に,寄木造の話をします。

 一木造は大きさに限界があるのに比べ,寄木造では,大きい仏像でも造ることができます。平安時代後期に定朝(じょうちょう)が完成させました。宇治の平等院の2.8mの阿弥陀如来座像が代表作です。体のどこにも力みがなく,空中にどっかと座っているような完璧な姿であると思います。見事に命の姿,宇宙の姿を表しています。

 大倉集古館にある普賢菩薩像も,寄木造の名作です。仏の姿を豊かな想像力で表そうとした仏師の魂を,ひしひしと感じます。

 手順はまず,にかわで板を接着し,小さな原型を彫り上げます。すべての板の内側に方眼を描いておきます。像を釜でグラグラゆでると,にかわが溶けてバラバラになります。

 次に,像を拡大します。1.5倍にするなら1.5倍の板を用意し,1.5倍の方眼を描きます。バラバラにした原型を見ながら,拡大した像の各部分を彫り上げ,中側を削って空洞にして接着し,全体の姿を仕上げます。

 良い木を選べるので,時代がたってもひずみや割れが少ない,軽い,といった長所があります。各部分を分業すれば,早く大きな仏像を造れます。小さな原型のときに徹底的に研究できるので,同じデザイン,大きさのものが確実にできます。  (スライドおわり)

 いっぺんに大きく引き伸ばすと破綻が出ることがありますが,中間のものを造っておけば,ほとんど失敗はありません。お首が抜けるようになっているので,お顔だけを細かく入念に彫ることができます。何と言っても心はお顔に現れます。仏様の姿で一番難しく,一番楽しいのも,お顔を彫るときです。

道具使ってることも忘れ

 仏像は,丸みある曲線がほとんどなので,見る目を養わないと彫れません。目で彫るというふうな呼吸の方が合っているかなと思います。いろいろなのみを使い分け,どれぐらいの深さで打ち込み,どれぐらい削るかというのを加減します。髪の毛でも切れるぐらい鋭利なのみでたたいていきます。夢中になると,道具を使っていることすら忘れます。自分が仏さんと一つになってしまいます。無心になる行のようなものかなと思います。

 仏像とは,目に見えない大宇宙の力を姿に表したものです。私たち人間は,その見えないエネルギーというか,力がないと,一瞬たりとも生きられない。仏像は,その力に気づかせてくれる手がかりだと思います。

 世界に誇る日本の伝統芸術にめぐり会え,私はこの「縁」を非常に喜んでいます。これからもたくさんの人々に,仏の姿を通して心の安らぎを感じていただけるような仕事をしていきたいと願っています。