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2009年5月22日(金)第4,255回 例会

弁護士41年を振り返って-倒産弁護士かく闘えり-

佐 伯  照 道 君(法律)

会 員 佐 伯  照 道  (法律)

1965年京都大学卒業。’68年大阪弁護士会登録,’91年大阪弁護士会副会長,’02年同会会長。’08年新書版『なぜ弁護士はウラを即座に見抜けるのか?』を発刊。

 法曹というのは,裁判官・検察官・弁護士の三者を言います。以前は司法試験さえ通れば,後は研修所に2年行って卒業試験を受けると法曹になれた。ところが5年ぐらい前からですが制度が変わりまして,法科大学院(ロースクール)に2~3年間行って卒業認定を受けて初めて司法試験が受けられるように変わりました。研修所での勉強も今は1年です。従前は2万人余り受けて500人ぐらいしか通らない合格率2~3%でした。現在は年間で6,000~7,000人受けて2,000人ぐらい合格する合格率30%ぐらい。

 裁判官・検察官になるのは大体年間で200~300名。あとは弁護士を目指すので,弁護士が過剰です。一方,裁判官・検察官はあまり定員が増やされていないので,いまだに多忙な生活をしているそうです。

倒産処理の専門チーム

 私以外の大阪RCの弁護士会員の方々は,有名な吉川大二郎先生が設立された,大阪の第一の名門法律事務所であります。私は,名門事務所からはお呼びがかかりませんでしたので,普通の事務所に就職しました。1970年代,80年代の倒産事件は,ほとんどが中小企業・零細企業です。「整理屋」という暴力団系の集団が必ず関与してきて報酬分は余分以上に持っていっておりました。当時は,「倒産事件は弁護士として二流・三流の仕事」と言われておりましたが,弁護士が関与しなければ暴力団の資金稼ぎを助けてしまうし,倒産で被害を受ける債権者・従業員の利益が守れないことを実感いたしました。

 そこで1973年に独立したとき,倒産処理を専門的にできるグループをつくりました。今では8人ぐらいの構成ですが,当初は2~3人でした。こういう倒産処理専門の事務職員チームは,恐らく法律事務所として初めてだったろうと思います。そのうちに,裁判所がわからないことがあると聞いてくる。こんなことで,うちの職員と裁判所の書記官が一緒に倒産法の処理マニュアルもつくりました。

 なぜかわかりませんが,裁判所からは危ない事件,いわゆる労働組合が非常に暴れて倒産したとか,暴力団が関与して,あるいは金を貸して高額の金利を取ってそれでつぶしたとかの事件を,私にやらないかと言ってきました。弁護士登録をして去年で40年ですが,裁判所のご依頼で恐らく70件ぐらいの事件を処理してきました。

暴力団ボスとの駆け引き

 1980年12月の新聞に「社長・会長・家族ぐるみ失踪」という記事が出ました。裁判所から電話があって「この事件,破産申立がありましたが,宣告があれば引き受けますか?」と打診があり,「やります」と言いました。

 申立代理人は大阪では非常に有名な大先生です。暴力団が社長・会長や経営者もどこかに運び去って,自分たちが売掛金の回収や商品販売をやっていました。厳密には債権者が破産を申し立てられる立場じゃなかったのですが,その大先生は「こんなことを許しては正義にもとる」と申し立てられました。もちろん暴力団が「破産申立を取り下げろ」と脅してきましたが,結局破産になりました。

 管財人は私です。工場に行きますと20人ぐらいのヤクザが随所に立っています。「誰が一番エライのか」と聞き,「会社の印鑑・手形・小切手帳・権利書・その他のものを全部引き渡してくれ」と破産宣告決定書を渡しました。すると「俺よりエライ人がいる」と言うんです。社長・会長を失踪させる前に,社長にピストルを突きつけて銀行を回り,預金を解約して集めた4億円でホテルの部屋を長期契約で借り,そこにいたようです。

 そこでホテルに行き,スイートルームの4部屋ぐらい奥に行きますとボスがおりました。そのボスが残忍な顔でして,会うなり「俺は前科5犯や。25年刑務所に入って先月出てきたとこや。5人は殺したけど1人は未遂に終わった」と言うのです。それでも「破産宣告になったから,ちゃんと返してもらわないと困ります」と明細を全部見せ,「これ,ありますか」と聞くと,「あるけど返せない」と言うのです。代わりに「ちょっと持ってみいや」とアタッシュケースをポンと私に投げるのです。振ってみましたらガタガタいう感じで,どう考えてもピストルなんです。「もらいます」と言うたら,「持って帰ってもらうと困る」と急に慌て出す。「それやったら会社の印鑑・手形・小切手帳・権利書を全部もらわんと困る」とすったもんだしまして,結局その場で出してもらって持って帰りました。

従業員の越冬資金を手当て

 会社は,それからが大変だったんです。12月25日が給料日です。ボーナスも合わせて正月のお金,越冬資金がない。暴力団が全部持っていってしまっています。

 そのときの工場長が,暴力団に言われて回収しているときに500万円ぐらい抜いていてくれていました。それだけでは従業員100人の給料も払えませんので裁判所に行きました。債権者破産申立の時に積んでいた保証金と予納金が1,000万円ほどあったので,「それを貸してください。いよいよ返さないときは私が返します」と一筆入れて借りまして,従業員に1,500万円を分けたわけです。12月28日でした。

 大阪府警始まって以来の詐欺破産罪の事件でした。ヤクザも全員有罪になりました。ボスは10年の懲役です。「お礼に行くからな」と捨て科白を残して行ったんですが,帰ってきたらおとなしくなりました。そのボスですが,京都でタクシーから降りたところを撃たれて殺されたと新聞に出ておりました。

 実はこの事件は,小説家の清水一行が『冷血集団(カッパ・ノベルス)』で書いております。NHKテレビで『ドキュメンタリー日本・夜の紳士達』という番組でも全国放送されました。私は正義の味方として,そのときだけチョイ出演させていただきました。