1973年 明治大学商学部卒業後,(株)大丸入社。’93年同社大阪・梅田店営業企画部長,’97年同店婦人雑貨子供服部長,’98年同社本社百貨店業務本部営業改革推進室部長などを経て,’01年理事・企画室長。’03年5月 同社代表取締役社長 兼 本社百貨店事業本部長事務管掌(現任)’07年9月 J. フロント リテイリング株式会社取締役(現任)’03年当クラブ入会。’05年度雑誌委員長。
今年は本当にかつて経験をしたことのない激動の年であったと感じております。年頭早々に株価が大幅に下落し,この秋の金融危機を予兆するような不穏な出来事からスタートしました。急激な消費マインドの低下が1年を通じて回復せず,消費者の安全・安心志向ということで少し追い風のあった食品の売上が好調であった以外は大変厳しい状況でした。 主な要因としては少子高齢化により小売市場全体のパイが縮小していること,消費者のライフスタイルが大きく変化をしてきていることがあります。「モノ消費」から「サービス消費」へのシェアが大きく拡大し,我々にとっては非常につらいという状況でございます。 そんな中でも,店頭におきましては多くのヒット商品が生まれ,新しいトレンドも生まれております。今年目立ちました切り口,「メリハリの効いた節約志向」,「アラフォー」,「エコロジー消費の進展」,この3つのキーワードで具体的なお話をしたいと思います。
まず,「メリハリの効いた節約志向」というキーワードですが,昨今の非常に厳しい経済環境を反映して消費の現場でも多くの変化が起こっております。9月に東京の銀座にH&M(ヘネス&モーリッツ)というファッションストアが出店し,連日大変多くのお客様が押しかけています。H&Mは「安くてファッショナブルな商品」を売り物にしたスウェーデン生まれのカジュアルファッションのチェーンストアでございます。可処分所得が減る中にありまして,何もかも一律に節約をするのではなく,自分の好きなものや自分を表現できることに関しては前向きにお金を使う。それ以外のものについては一切見向きもしない,こういったメリハリの効いた消費傾向が顕著になってきております。
特に現在35歳前後より若い世代は,子供のころからブランド品に囲まれて育ったこともあって,モノヘのこだわりがあまりなくて,車は欲しくない,気に入れば古着でもいいんだ,こういった傾向が強くあらわれております。百貨店にとりましては,こういった合理的なライフスタイルを特つ「モノ離れ世代」の出現も大変脅威に感じています。いかにこの世代の人たちにアピールすることができるかがこれからの百貨店の重要な課題です。
私どもの店頭でも,高級婦人服や高級時計,ブランドもののバッグなど高額品の動きが非常に鈍くなっている半面,当社が自主開発しておりますプライベートブランドなどの,「こなれた価格で,かつファッション性があって,品質がよい」というような商品につきましては非常に人気がございます。
さて,次のキーワードは「アラフォー」でございます。これは,英語の「アラウンド・フォーティ」の略でございまして,40歳前後という意味でございます。自分の価値観をしっかり持っている世代で,経済的にも相応の力があるということで,新しいライフスタイルを持った世代が,今われわれの重要なターゲットとして生まれてきております。
アラフォー世代のために今年から私どもがつくっております「オーラヴィヴェイン」というオリジナルのレディスファッションを紹介します。イタリアの有名な生地の産地でありますビエラ地方の高級生地を使ったトレンチコートで,キャリア女性にぴったりの上品でシャープなデザインです。スーツは,同じイタリア製生地の高級感のあるツィードで,既存のブランドに満足せず,キャリアと年齢にふさわしいワンランク上のファッションを求める女性をイメージしてつくっております。トレンチコートが3万9,900円,セットアップの上下スーツが6万3,000円ということで,アラフォー世代が求める高い品質を維持しながら,価格的にはリーズナブルに抑えているというような商品です。
アラフォー世代の女性の特徴ですが,アンチエイジングと呼ばれ「若々しい肌」を保つための商品も人気を博しております。
3つ目は,「エコロジー消費」です。
地球環境を守るためのエコロジーヘの取り組みが消費にはっきり結びついてきているというのが,今年の特徴ではないかと思います。
家電製品の分野では,消費電力を半減させた大型テレビや大型冷蔵庫をはじめ,省電力の製品が続々と登場しております。また,オフィスなどの暖房温度の抑制に対応する「ウォームビズ」商品として,保湿や発熱効果に優れた高機能の肌着というものも,今の時代感の中で売れ筋になってきております。
小売業にとって象徴的なエコロジー商品が,「エコバッグ」です。全国の当社大丸と松坂屋では,今月からカーボンオフセットという仕組みを活用した「エコバッグ」を発売いたしております。インドの風力発電事業で生み出された排出権を得まして,それに充当することで,1枚ご購入いただきますと約14㎏のCO2の削減につながるというものでございます。
このような「エコロジー消費」というものが今後長きにわたって消費をリードしていくのではないか,ますます重要なトレンドになっていくのではないかと考えております。
さて,来年はどんなファッションが出てくるか,どんなヒット商品が出てくるか,非常に楽しみにしております。皆様もぜひご期待をしていただきたいと思います。