1994年京都大学経済学部経済学科卒業。’99年神戸大学大学院経営学研究科,企業システム専攻博士課程前期修了。’02年同大学院会計システム専攻後期修了。’02年岡山大学経済学部助教授。現在は,経済産業省のプロジェクトを通じて知的資産情報を取りまとめた「知的資産経営報告書」の実践的な普及・活用に取り組んでいる。近著に「知的ファイナンスの探求―知的資産情報と投資・融資意思決定のメカニズム」。
本日は,現在,会計で大きな流れが変わってきていること,特に東証一部の上場企業にとっては,今後国際会計基準を導入せざるを得ないという急激な波が押し寄せてきていることについて紹介させていただきます。
現在企業の事業活動は国際化し,資金調達や証券投資も国際化しています。
事業活動の国際化については外国企業との業務提携のみならず,在外支店,子会社の開設,そして,合併・買収,ということが活発に起きています。特に子会社を外国に設立した場合には,その子会社を設立した国の会計制度に基づいて財務報告をしなければならない。企業の資金調達の国際化では,EU域内やアメリカ等の外国の証券市場への日本企業の上場が一般化しております。停滞していますが,我が国も外国企業の日本の証券市場への上場を強く願っています。
国際会計基準というのはヨーロッパ主導で,これに米国会計基準と,わが国の会計基準(日本基準)の3つがあります。
EUでは2005年,域内での公募・上場企業については,国際会計基準(IFRS)の導入が義務化されました。
欧州証券規制当局が,米国と日本の会計基準と国際会計基準のどこが大きく違うのかということを,採点しました。どういうところが国際会計基準と違って,その影響はどれだけ大きいかということを採点したわけです。
採点の結果,3つの段階というのが重要になりました。まず1つ目,「追加開示A」があります。日本の会計基準は読みにくいので,だからもっと情報を詳しくしてください,詳細に説明してくださいという内容です。
2つ目の「追加開示B」になると,今,国際会計基準と,例えば日本の会計基準は,基準の内容が違うのならば,どれだけ利益に影響が出るかということを注記してくださいということを言ってきています。
3つ目の「補完計算書」というのは国際会計基準に合わせたときにはどういう数字になるかをきちんと本体に載せてくださいと言っています。
これは,ヨーロッパ諸国の国際会計基準が日本の会計基準,あるいはアメリカの会計基準を評価して,3段階に分けたわけです。3段階に分けてこのような差異があるのは問題だから,きちんとEUの国際会計基準に合わせるように修正してくださいという内容です。
EUが一つになっていなければこういうことは通用しなかったと思います。アメリカが一番大きな経済大国だったからです。しかし,EUが統合したためにこれだけ発言力を持ってきた,そういう内容になっています。
2007年11月にアメリカで,まず米国外の企業に対して,国際会計基準を使った決算書というのを承認する動きが出てきました。アメリカの上場企業というのは少なくともアメリカにおいては米国基準を採用してくださいという形でずっと大きな力を発揮していたにもかかわらず,国際会計基準でもいいですよというふうに踏み込んできたわけです。
これが第一歩ですが,実はアメリカはどうやら国際会計基準というのを全面的に認めてもいいということまで踏み込んでいるという内容になっています。
アメリカがそういうふうに動き出したので,わが国でも近々,上場企業については国際会計基準の導入もやむなしとなるか,わが国の会計基準もほとんど国際会計基準と一緒にならざるを得ないというレベルにまで話が進んでいきそうです。
日本の基準では,もうちょっと詳細に情報を提供してください(開示A),もっと定量情報を,影響度を提供してください(開示B),といわれました。
そして,補完計算書になると,国際会計基準を導入したときの数字をオンバランス,財務諸表に載せてくださいという形でEU諸国は評価したわけですが,そのときに2つの点を指摘されました。
1つには,合併のときの持分プーリングという方法です。持分プーリングというのは,A社とB社が手を取り合ったときには,あくまでもA社の株主さん,B社の株主さんが一体となっただけであるから,何ら財務諸表は影響を受けない。単純にA社の株主プラスB社の株主の持分価値を合体させたらおしまいですという方法が持分プーリングです。
そしてもう1つが,在外子会社の会計方針の統一。これは,例えば日本の企業がアメリカに子会社を持っていますが,アメリカの子会社なのでアメリカの基準に従っています。そうすると,連結するというときには,日本の親会社はアメリカの子会社を合体させます。そのときに,日本の親会社は日本基準,アメリカの子会社はアメリカ基準でそのままにしていいですよと従来はなっていたわけです。
そうすると,これでは日本の基準でつくっているとも言い難くなってきます。なぜかと言うと,親会社は日本の基準に従って作成して,子会社はアメリカの基準なのに,合体するときに変更なしに合体させているので,これは何の数字かという意味さえわからない。これは問題ですよということで,国際会計基準のところから指摘を受けたわけです。
企業のコスト負担と投資者の投資を考えたときには,国際的にきちんと比較できる財務数値というのを私たちは必要としているのではないか。このことを紹介したくて,きょうお話しさせていただきました。