大阪ロータリークラブ

MENU

会員専用ページ

卓 話Speech

  1. Top
  2. 卓話

卓話一覧

2009年11月6日(金)第4,278回 例会

美術史家の卵が見た現代インドの実像:
財団奨学生としての留学体験を振り返る

豊 山  亜 希 氏

2006-07年度2660地区国際親善奨学生
関西大学文学部非常勤講師
豊 山  亜 希 

1977年八尾市生まれ。2000年近畿大学文芸学部文化学科卒業。’02年関西大学大学院文学研究科哲学専攻博士課程入学。’03年交換派遣留学生として,ロンドン大学東洋アフリカ研究学院留学。’06年ムンバイ大学ソーマイヤー仏教研究所にロータリー財団奨学生として留学。’08年関西大学文学研究科哲学専攻博士課程修了,博士号取得。’08年4月から現職。

 私はロータリー財団の活動の一つ,国際ロータリーの国際親善奨学金の制度で研究助成金を1年間いただき,この2660地区から2006-07年度の国際親善奨学生としてインドのムンバイに留学しました。2660地区からインドへ派遣されたのは私が初めてで,その後もまだ出ていないということです。

美術史研究が社会に貢献

 私が留学していたムンバイは,インドの西側のマハラシュトラ州の州都です。植民地時代のイギリス人の拠点としても栄えた町で,旧名は「ボンベイ」です。国際ロータリー3140地区で119のクラブを擁し,会員は6,000人と聞いています。

  ムンバイには都市区と郊外区があり,都市区の人口は1,300万人を超えます。私が暮していたのは郊外区です。大型のショッピングモール,高層マンションの建設が非常に盛んです。

  私は美術史という学問を専攻しています。社会学・経済学・農学と比べると,宗教・歴史・考古学・美術史は,道楽者の学問だと厳しい言葉をいただくこともあります。直接社会に貢献するものではないとみなされがちですが,現代のインドを理解するには非常に重要な学問領域であると私は考えています。

  近年日本の企業が進出するに当たって,ぶつかるものとして,インドに深く根を下ろす文化的な事象への理解が難しいことが挙げられます。身分制度が厳格であることもそうですが,食生活,家族制度など,なかなか理解できないものがあると指摘されます。植民地時代以降,インドに進出し文化的な調査研究を行ってきた欧米に比べ,日本はインド人と接する機会がありませんでした。

  文化遺産の登録,旅行と関連したブランド化で,歴史文化への関心が進んでいます。歴史・考古学・文化を視覚的に表し,美術史の対象ともなり得る文化遺産と,社会学,経済学の領域の地域・観光開発が,結びつきを強めています。歴史文化の研究は国際貢献,国際親善で非常に重要な役割を果たすと考えます。

石窟寺院の役割調査

 私はインドの石窟寺院を研究対象にしています。代表的なものとして,インドで初めて世界遺産に登録されたアジャンタ石窟寺院があります。内部には仏陀の像が彫られ,この前で礼拝行為を行う仏教の寺院です。

  日本とは非常に関係が深く,明治時代に近代日本の文化財行政を築き,東京藝大の初代校長でもある岡倉天心は,1901年にアジャンタとエローラを訪問しています。  石窟寺院は,現在でも日本がODA(政府開発援助)で,アジャンタとエローラの周辺の道路や空港,旅行者の休憩所を整備するプロジェクトを進めています。

  石窟寺院は,社会経済の変化を敏感に受けて変わります。今,きちんと調査しないと,現状の記録がないままに終わってしまう危機感が,研究者の間で強く持たれています。

  彫刻のある石窟寺院と,現在は転用されてしまった石窟寺院の分布の調査をして,石窟寺院という文化がインドの古来,歴史において,どのような役割を果たしたのかを調べることに研究の目的を置いています。

現地の人と関係を構築

 国際ロータリーの留学によって,ガイドはいますが外国人女性1人が,現地に非常につながりのある人々との関係を構築してこうした地域に調査に入るのは,単に大学に留学して調査を行うのと比べ,非常に大きな違いがあると考えています。国際ロータリーの国際親善奨学金,財団奨学金で留学したことで,私の調査は非常に大きく進展したと思います。

  私は,ホームステイという形態をとって留学させていただきました。現地の社会に深く入りたいという目的がありました。ホストロータリアンが決まった時点で,活発に現地の調査をしたいと留学目的を伝え,よく理解していただきました。地元に何代も前から暮しているご家庭に,ホームステイをさせていただくことができました。

  そのお陰で英語以外の現地の語学も向上し,人々がどのような家族関係で,人生で何が重要と考えているかを,祭り,あるいは宗教的な行事から学ぶことができたと思います。

  インドのお正月,日本で言うと10月,11月ぐらいですが,ヒンドゥー教のお正月に一族皆が集まって,女性は民族衣装を着てお祝いをします。これは,私も民族衣装をつくっていただいて,一緒に撮った写真です。

  一族の女性だけで,妊娠した女性の安産を祈念するお祝いにも参加させていただきました。安産を司る女神の格好を妊娠した女性がしていて,男子禁制のお祭りでお祝いします。

  現地の生活に溶け込むことによって,インドはどういう国で,そこで研究をさせてもらうというのはどういうことなのか,学ばせていただいたと思います。

  私はこれまで,ロータリー財団以外からの研究助成金をいただいたことがあるのですが,決定的な違いは,現地の社会との関係を構築できるか否かという点に尽きると思います。

  私は,帰国して研究を続けさせていただいています。インドに行くたびに,お世話になっていたホストロータリークラブにおじゃまをして,挨拶させていただいています。私のホストロータリアンの方は,来年2010年度の3140地区のガバナーになられる方で,現在も非常に仲良くさせていただいています。

  日本でもロータリーの財団奨学金のOBでつくるPSCで,ほかの研究助成金とロータリーの奨学金の違いを,次年度の奨学生の候補になった方々に伝えたいと思っています。