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2009年9月25日(金)第4,272回 例会

広告で見る『笑い』のコミュニケーション力

石 井  達 矢 氏

広告クリエーティブ
ディレクター
石 井  達 矢 

1950年神戸市生まれ。’74年(株)電通関西支社に入社し,クリエーティブディレクター/CMプランナー。’05年退社し,フォノプリンツ社を設立。カンヌ国際広告祭銀賞・銅賞,ロンドン国際広告賞など受賞多数。

 つくづく思うんですが,最近,笑える広告が少ない。1日テレビを見ていて,ああ,おもしろいなと思う広告は1本か2本です。

  僕らは「広告は基本的に目立たないかん」「広告は目立って何ぼや」という素朴な原点があって,そこからほとんど離れずに仕事を続けてきました。僕らの広告は心に届くと思うけど,見てくれがあまりよくない広告が多い。スポンサーから「もうちょっと賢そうに見える広告つくられへんのか」という要望をよく聞くんですが,ちょっと苦手です。

  スマートな広告,賢そうな広告は一見よさそうに見えるんですが,ひとつ間違えると自分をよく見せようとする広告になってしまう。自分をほめる広告は,誰も見たくない広告の第1位です。皆に好かれようとして皆に嫌われる広告が増えているということです。

振り向かせる広告を

 実は僕らがしようとしているのは広告じゃないんや,と最近思うようになりました。「広告」と英語の「Advertising」とは,意味が違うんです。広告は広く告げるですが,Advertisingというのは「Ad」(ある一定の方向を示す),「ver」は語源的にはリバース(逆にする)から,Advertisingはあっちに向いているものをこっちに向かせる,つまり「振り向かせる」という意味があるらしい。このほうが,われわれがやっている「広告」に近い。

  どうやったら振り向いてくれるか,どうやったら見たくない広告を見てもらえるか。そこに工夫をしようと延々やっているわけですが,広告をつくるときに2つだけ心がけていることがあります。1つ目は「シンプル」,2つ目は「ウソをつかない」です。

  できるだけ人間のありのままの姿を表現に使いたい。リアリズムをベースにウソのない世界,飾らない人間の本当の姿というのが,僕らが一番大切にしているコミュニケーションのシチュエーションです。リアルな人間の姿というのは結構アホっぽく見えてしまうという欠点がありますので,人間の格好悪さを前提として描いている。そういうところに笑いと共感が生まれやすいと思います。

  われわれがつくってきた広告の作品を見ていただきます。それぞれ工夫しています。

  大阪府の迷惑駐車(中年の女性逆ギレ編)(違反切符飲み込む男性編)。1990年の花の万博のとき,御堂筋なんかは3重駐車をやっている。これ,何とかならんかという。

  それまでに,賢そうにスマートにつくった広告がありました。救急車が路地に入ってくると不法駐車車両が停まっていて,あと15秒早ければ助かったかもしれないみたいな深刻なCMがあったんです。でも,そんなん流しても,大阪の人に通用しない。

  こんなんじゃアカン,上からもの言うてもアカン。僕らと同じ目線,捕まっている人間と同じ目線でつくらないとだめだというので,逆ギレおばちゃんの広告をつくったんですが,これがバカ当たりして,東京などの放送局がおもしろがって取り上げました。

クレームも反響

 ユニクロ(おばちゃん編)。ユニクロさんのプレゼンテーションで「おばちゃんがスカート脱ぐまでは聞いてないぞ」ともめましたが,とりあえずオンエアにこぎつけました。関西エリアでは「あれ,おもろいな」と好評だったんですが,東京では「あんな下品な店は私は行きません」と苦情の連打でした。その苦情というのも,とんでもない数だったらしいんです。

  そのときにふと思い出したんですが,昔,僕らのつくる広告はクレームが多くて大変やと,ちょっと何とかならへんかというときに,金鳥の上山英介会長から「クレームも反響のうちやと思うとけ」という言葉をいただきました。ものすごい心強い味方でして,スポンサーがそれを思ってくれたら随分日本の広告も変わるんじゃないかと思います。  クレームはスポンサーとしては一番いやがる―当然そうですよね,苦情ですから。そういうケースが多いんですが,東京と大阪の違いはそういうところで如実に出るんです。大阪やったら「あんなもん広告やねんから,目くじら立ててもしゃあないやん」という部分があるんですが,東京はそれがないんです。

  海外のCMは,日本では絶対にオンエアできないだろうな,というものがあります。かなり過激な表現をとっても許されるというか,僕らもこういうのをやってみたいなと思います。

基本はユーモア

 やっぱりコミュニケーションの世界の基本はユーモアやないかなと思います。笑いを与えることで人の垣根を低くして,やっと僕らの言うことを聞いてくれる。だから,どれだけ垣根を事前に取り払うか,が大きなポイントかなと思います。

  ただ,おもしろいばかりじゃなくて,テレビ広告というのはいろんなことができるんやという,次のフイルムを見ていただきます。

  「水,水あるからもっていって。そやけど生で飲まんといてな。ぽんぽんこわすよってに」(阪神・淡路大震災直後に流された公共広告機構による映像)

  いかなるときもユーモアを忘れないことが大事なことかなと思います。

  最後に一言だけ言いますと,地震が来たり,戦争が起きたり,いろんな災害が起きたり,最悪の状況でも,例えば15秒あればテレビ広告は皆に勇気を与えたり,微笑みを与えたりすることができるんやということを,僕は信じてずっと広告をつくってきました。一番大切なのは,人を中心にコミュニケーションを組み立てる,商品やない,商品を使うてる人を中心に広告を組み立てなあかんということを最後の言葉にしたいと思います。