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2011年5月20日(金)第4,348回 例会

ドイツワインは甘いか
~ドイツワインの魅力について~

松 田  耕 治 氏

(株)ドイツ商事 専務取締役 松 田  耕 治 

1948年生まれ。神戸市内の小・中・高校を経て,大阪工業大学経営工学科へ。在学中,(財)世界青少年交流協会の交流団員として神戸市から推薦され,’71年夏に渡独。大学卒業後,日本ケーブルシステムに勤務。’78年,ドイツ商事,ローテローゼを仲間と起業,現在同社専務取締役。ドイツワイン名誉ケナーの資格保有者。神戸市スポーツ功労賞受賞(2010年)

 ドイツ人が思っているドイツワインと,日本人が思っているドイツワインはどう違うかということをのぞいてみたいと思います。

 日本人は,ドイツワインのイメージについて「甘いでしょう」とよく言います。

 「ドイツワインは甘いか」と聞かれれば,甘いですし,「甘いなあ」と言われれば,「いやいや甘いワインだけじゃありませんよ」と答えるのが正解ではないかと思います。

 これをドイツ側から見れば,60%以上が辛口,食事に合う赤ワインの比率は40%に近づこうとしています。皆さんはこういうことをご存じでしたでしょうか。つまりドイツワインはこのような割合で日本に輸入されていないということです。日本人のドイツワインに対するイメージは甘口なんです。日本人がワインを飲み出した昔は,今のように食事に合わせる習慣がありませんでしたから,口当たりのよい甘口ワインが好まれました。

 一方,近年は,ニューワールドと言われる南アフリカ,オーストラリア,ニュージーランド,チリ,アルゼンチン,カリフォルニアなどの国から上質で安価な辛口ワインがたくさん輸入されるようになりました。

赤ワインが増加

 私どもの会社は33年目を迎えますが,創業当初はやはり甘口ワインが主流でよく売れたものです。また,ドイツワインの輸入量もフランス,イタリアと並んでいつも上位を占める時代がありました。一時期,輸入量がトップになったときもありましたが,現在はニューワールドと言われる国に押され,輸入量は第7,8位ぐらいにランキングされています。

 変化したのは,量ではなく質です。日本では,甘口で安いドイツワインが売れなくなってきたのです。私どもが輸入する本来のドイツの辛口ワインを中心とする赤ワインを含めたワインは徐々に増えつつあるのです。

 これは日本人がいろんな世界の国のワインを楽しむようになってきた一つの証拠ではないかと思います。ドイツワインの輸入量は減ってきていますが,日本人のワインを飲む量はかなり増えているわけです。それで,ドイツの上質の高級ワインが徐々に増えつつあるというのが現在の認識です。

 さて,ドイツ料理のイメージというのは,ソーセージとかキャベツの酢漬けとかジャーマンポテト,ニシンのマリネなど素朴な料理とよく言われるのですが,ドイツの星つきのレストランでは,こういうメニューよりもむしろ旬のシュパーゲル(ホワイトアスパラ)とか,繊細な料理と辛口のドイツワインを提供するレストランが増えてきているのです。

若者が新トレンド

 ドイツ人の年間のワインの総消費量は,ドイツワインの生産量よりも多いのです。ということは,ドイツワインの生産量だけではドイツ人の飲むワインの量はまかなえないということです。なのにドイツは世界にワインを輸出しています。これは,ドイツはフランス,イタリアを中心とするご近所の陸続きの国にいっぱいワインがありますから,消費で苦労はしないという環境にあります。

 近年,ドイツワインの辛口,赤ワインの比率が増えたもう一つの要因には,醸造家の世代交代があります。

 昔は,マイスターについて勉強して,一人前になりましたが,最近ではほとんどのドイツワイン醸造所の後継者はワイン醸造専門大学に進み,研修先はドイツだけではなく,フランス,イタリアは当たり前,ニューワールドといわれる南アフリカやカリフォルニアなどでも新しいものを吸収しようとしています。こういう若者の増加が顕著で,新しいトレンドを取り入れています。

 例えば,ドイツワインらしくないボトルやラベル,コルク栓,スクリューキャップとか,新しい感覚のドイツワインが多く市場に見られるようになったのはそのためです。

日本市場は拡大

 一方,日本のワイン市場は,ブランド高級ワイン市場から,気楽に毎日自主的に楽しめる「質より量」の時代に移行しているように思います。30年前のワインの日本人1人当たり消費量は年間グラス1杯と言われましたが,現在は年間約8リットル近くを飲むようになりました。しかし,まだまだ日本のワインマーケットは拡大すると見ています。

 例えばボージョレーヌーボーですが,ブームをきっかけに,ワインを飲まなかった人たちが飲むという傾向があらわれてきたのは非常にいいことだと思っています。

 ただ,フランスのボージョレー地方の生産者がいつも不思議に思うのは,日本人はボージョレー地方のヌーボーは飲むけれども,普段ボージョレーのワインは飲んでくれない。この市場の仕組みはどうなっているんだというのが,フランスの生産者の日本ワイン不思議の1つだと言われています。これがどのように変化していくかが,今後の日本のワインマーケットの成熟度ではないかと思います。

 最後にドイツワインに戻ります。ドイツワインは辛口や赤ワインも多くなりました。

 北緯50度の樺太ぐらいのヨーロッパでは最北端と言われるワイン生産地域に位置し,厳しい気象条件の中で,遅摘みの完熟したブドウからつくられる芳醇な香りの貴重な甘口のワインがドイツワインの原点だということをどうか皆さん忘れないでいただきたいです。また,辛口も,赤ワインもある,ということを知っていただいて,皆様方の生活の中でTP Oに応じて世界のワインをお楽しみいただけることをお願い申し上げます。