1959年生まれ。’86年早稲田大学大学院経済学修士修了。(財)日本エネルギー経済研究所入所。’95年海外派遣(英国ダンディ大学,2年間)。’07年理事戦略・産業ユニット総括(現職)。’10年東京大学公共政策大学院特任教授。経済産業省低炭素社会におけるガス事業のあり方に関する検討会委員,経済産業省総合資源エネルギー調査会総合部会供給構造高度化小委員会委員。
今日は世界のエネルギー問題を主に扱い,日本で起きている重要な問題も国際的なエネルギー問題の1つとして話したいと思います。
まずエネルギーの価格問題を取り上げます。原油価格は最近,非常に高くなっています。原油の値段は先物市場で取引される価格が一番の基準になっており,市場参加者の考え方や思惑,予測が価格を動かしています。
アメリカ産のWTIという原油の先物価格が2008年7月,1バーレル150ドルぐらいになりましたが,リーマンショックで半年後には30ドルまで下がりました。その後,だんだん上がって昨年11月には80ドルぐらいになり,去年冬から大きく上がり始め,100ドルを超えて,直近では110ドルぐらいになっています。
その要因は中東問題です。エジプト危機が起きて政権が交代し,リビア情勢も緊迫化しています。リビアはOPEC(石油輸出国機構)加盟国であり,直近では1日当たり180万バーレルと日本の石油需要の3分の1ぐらいを生産する大産油国です。ここが,カダフィ政権と反政府側の対立で石油の生産がとまってしまいました。
これまでは原油価格の上昇期でも本当に石油の供給がとまったことはあまりありませんでした。「石油の供給がとまるかもしれない」との思惑だけで,値段が上がりました。ところが,リビアでは実際に石油の供給がとまっています。「これは大変だ」ということで,100ドルを超えて上がる流れになりました。
今,石油の取引をしている人たちの頭の中にある一番の心配事は,サウジアラビアです。私は,サウジアラビアは国内を安定させる能力も経験もあると思っていますが,サウジアラビア自身は相当心配をしていますし,世界も心配しています。サウジアラビアは圧倒的に大きな産油量を持っているうえ,使わないでいる石油の産出能力,つまり余剰能力が大きいのです。実際,リビアで石油がとまった時,サウジアラビアが増産して,埋め合わせをしました。サウジアラビアが安泰でいる限りにおいては,世界のどこかで問題が起きても埋め合わせをすると私は思います。しかし,万が一,問題がサウジアラビアで発生したら,それを補うところはありません。
長期的な問題でも心配すべきことがあります。長い目で見て世界のエネルギー需要は増えていく可能性が高いと思います。特に,中国やインドなどの新興国では人口が増え,経済が発展して需要は増えていきます。このため,「供給はこれからも大丈夫だろうか」との心配が広がり,資源獲得競争が起きる可能性もあります。それが市場を不安定にさせかねません。ただ,私は石油や天然ガス,石炭などの資源がなくなったり,資源がピークを打つことは当分ないと思っています。
石油やガス,石炭の需要が増えていくと,CO2の排出量も増えます。私たちの見通しでは,このままでは,CO2排出量は2035年までに今の1.5倍ぐらいになります。国連などいろいろな所が温暖化ガス(GHG)を2050年に世界で半減しようと言っています。温暖化ガスの多くの部分はCO2です。現状を見る限り,半減どころか,増えてしまう状況です。
CO2の増加を抑えるため,一番期待されている対策は省エネルギーです。日本は省エネ技術において世界のトップランナーですから,その技術を世界に拡大し,中国やインドなどでも使うようになれば,1割強,2割弱ぐらいのエネルギー削減になると分析しています。
省エネだけでなくて,エネルギーの構造も変える必要があります。その1つは太陽光や風力などの再生可能エネルギーです。これから太陽光も風力も伸びていくとわれわれはみています。ただ,エネルギー全体の中に占める割合が小さいので,大幅に伸びても,全体に占める割合は大きくなりません。また,自然に由来するエネルギーだから,どうしても不安定で,コストも普通の化石燃料エネルギーと比べると高いという側面もあります。
だから,原子力がこれまで非常に期待され,世界中で原子力発電を増やそうという動きが続いてきました。原子力を進めていくには,安全性の確保と信頼性をきちんと担保していくことが最大のポイントであり,前提だったということは言うまでもありません。
日本はエネルギーの輸入国であり,国際エネルギー市場では多くの複雑な問題があります。温暖化問題にも対応する必要があります。今回はそれに加えて,東日本大震災によるエネルギー部門への大きな影響がありました。
震災とエネルギー問題についてはいろいろな側面があります。第1は緊急時対策,危機管理の問題です。危機管理の最大のポイントは福島第一原子力発電所をいかに安定化させるかです。関係者は必死の努力をしていると思いますが,どう終息するのかが見えません。
同時に,夏にかけてのエネルギーの需給対策も重要です。今年夏,東京電力の管内では1000万キロワット前後の供給不足が発生すると予想されています。供給力を増やすとともに,幅広い節電対策が必要です。
また,東京電力や東北電力の管内で電力を増やそうとすれば,火力発電所が大きな役割を果たすことになります。その燃料を安定的に調達しなければいけません。夏場を含めた需給対策をやりながら,中長期のエネルギー政策をやっていかないと,日本は複合的なエネルギー問題を乗り越えていけないと私は思います。