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2011年3月11日(金)第4,340回 例会

子育て・孫育て―親の受験学―

岡 田  吉 弘 氏

岡 田  吉 弘 

1942年生まれ。大阪府立大学応用化学科卒業。’70年,岡田塾創立。’74年, SIA公認アールベルク プロ スキー学校会長に就任。

 長い間,塾教育,特に受験教育に携わってきました。一時はチェーン化も考えました。ある時,学校の先生の集まりで「岡田先生,できない子を教えたことがありますか。頭がいい子だけを教えているのなら伸びるのは当り前ではありませんか。やる気のない子に偏差値60~65の壁を破らせてみたらどうですか」と言われました。私は「何を言うか」と腹が立って,できない子の教育に取りかかりました。これが大変でした。

子どもは二極化

 偏差値60~65の子100人を教えるのと,偏差値40~45の子1人を伸ばすのとでは,100人の方が楽です。今はできる子とできない子に分かれる二極化が進んでいます。できる子が約30%。できない子,落ちこぼれ傾向にある子が50%です。

 大阪府は全国学力テストでもずっと下でした。その小学校の出題内容では,各教科に計算や漢字という繰り返しやっていればできる「反復練習単元」と,長文読解や算数・数学の文章題などの考えなくてはならない「思考力単元」があります。

 5年生から中学2年にかけて完全に二極化になるのは「思考力単元」ができなくなるからです。出題内容について小学5年生で,各教科の70%が「思考力単元」に変わります。30%が「反復練習単元」です。しかし,小学1年生から3年生までは80%が「反復練習単元」で,20%が「思考力単元」です。

 計算や漢字なら,母親が子どもに「これをやりなさい」とドリルを与え,一生懸命教えていたらいいのです。繰り返しやらせれば,成績は上がります。しかし,小学5年生になると,70%が「思考力単元」になるから,長文読解でも文章題でも自分で考える気がなかったら,何もできません。

 今の子どもの特徴の1つは「生活習慣なしっ子」です。家の用事で自分のやるべきことをできない子です。次は「やる気なしっ子」。自分から進んでやろうとしない子です。言われた通りだけ,怒られない程度にやる子です。その次が「指示待ちっ子」。いちいち言わないと,何もしない子です。

 できない子は動きも遅い。ごはんを食べるのと便所が遅いのはだめだと私は思います。勉強はスポーツと一緒です。量をやることです。1時間やるのと5時間やるのとでは違いはちゃんと出てきます。だから,どこまでやる気を持って自分から真剣にやれるかが問題です。大人が子どもをそれへどう導くかです。

 その次に大事なのは,人の話を素直に聞くことです。高校球児は円陣を組んで監督の注意を聞き「はい,ありがとうございました」と言って散ります。あの姿勢が大事だと思います。

 私は今の受身型の勉強法が間違っていると思います。授業を聞くだけの「知識伝達型」勉強法だけではだめです。「自学自習力」をつけることです。自分で何かをする。自分でまず読んで,わからない所を自分で調べて,考える。そして,疑問をもつ。単に教えてもらうのを待つのではなくて,「自学自習型」勉強法を教えないといけません。

適塾が理想

 幕末に大阪・北浜にあった適塾の緒方洪庵先生の勉強法はすごいと思います。適塾では蘭学の辞書は1冊しかありませんでした。それを塾生が写して,皆が必死になって覚えたといいます。その辞書は24時間,フル回転しました。蘭学の洋書を覚えて,洪庵先生の講義があるときは下手なりに自分で一生懸命に訳して,洪庵先生の前に座ったといいます。そうすると,自分が訳した内容と違うことがわかります。自分でできることは自分でしなさいということです。

 つまり予習です。この予習で強くなった学校は東京都立日比谷高校でした。昔,日比谷高校と言えば,都立高校の中で東京大学の合格者数で3本の指に入っていました。日比谷高校の勉強法は,徹底して予習でした。

 私は若いころ,日比谷高校の秋山先生という英語の先生がどんな教え方をしているのか,勉強をしに行きました。秋山先生は「何でもないよ。適塾の資料を読んでおいで。あれの中に全部書いてある」とおっしゃっていました。

わかるまで居残り

 岡田塾の良さは授業をした後,できない子は残すことです。大阪・淀屋橋にあり,午後6時から9時までやります。例えばテストで60点ということは,40点分がわかっていないということです。一生懸命やっても60点の子はおります。だから,全部をわかるまで帰さず,塾で教えるのです。子どもには「君は11時で100点になったら,それでいいじゃないか」と言います。特に,金曜日の晩は「駆け込み寺」と言って土曜日が休みだから,土曜日の始発電車の時刻ぐらいまでやります。子どもたちはそれがいやだから,皆,早く来て必死になってやります。

 将来につながる勉強,つまり「自学自習」型勉強法は,どんなことがあっても身につけてもらわなければいけないと私は心から思います。

 学校教育で伸ばし得ない子どもたちを伸ばすのが塾教育の使命ではないかと思います。学校教育で伸ばし得ない子どもの特性というのがあるからです。引っ張ってあげたら,成績をあげることができる子がたくさんいます。学校では講義は午前中だけでいいと思います。昼からは予習とか復習とか,テストで間違ったところ,要するに「自学自習」,自分で自分の勉強をする時間にすべきだと思います。

 子どもを1年のうちの1カ月か,少なくとも20日間程度,集団生活をさせて奉仕活動をさせることを考えてほしいと思います。人のために何かを一緒にすることが教育上,大事だと思うからです。