1973年明治大学商学部卒業後,(株)大丸入社。’93年大阪・梅田店営業企画部長,’97年同店婦人雑貨子供服部長,’98年同社本社百貨店業務本部営業改革推進室部長などを経て,’01年理事・企画室長。’03年5月同社代表取締役社長。’07年9月J. フロントリテイリング(株)取締役(現任),’10年3月(株)松坂屋との経営統合により新会社(株)大丸松坂屋百貨店 代表取締役社長(現任),’03年当クラブ入会。’05年度雑誌委員長。
私どもは2007年9月の経営統合以来,持ち株会社「J.フロントリテイリング」のもとで,百貨店事業を行って参りまして,「大丸」と「松坂屋」は,この3月には合併,「大丸松坂屋百貨店」としてスタートしました。
今年の日本経済をみますと,春先には企業業績の改善が進むなど景気の回復も見られましたが,所得,雇用環境の改善は進まず,円高が進行するとともに株価が低迷,われわれの消費環境は回復する気配が見られません。
個人消費全般ですと,自動車,家電などの耐久消費財は,減税とか,エコポイントなどで,かなり売れ行きも好調であったようですが,私どもファッション関連商品を中心とする百貨店業界は,依然として苦しい状況です。全国百貨店売上高は,この10月に32カ月ぶりに前年を上回りましたものの,まだまだ低空飛行が続いています。
長引く景気停滞は,「ライフスタイルのカジュアル化」「価格志向」に代表される「新しい消費スタイル」の出現を促しました。しかし,百貨店はこのようなマーケットの変化をうまく取り込むことができず,「高価格で中高年層向けの商品」などの品ぞろえに過剰にシフトし続けた結果,ご来店いただくお客様の幅を狭めてしまい,これが,今不振に陥っている大きな原因ではないかと考えています。
このような「ライフスタイルのカジュアル化」,あるいは「価格志向」に対応すべく,現在弊社では,私どもの強みである優れた立地・店舗環境・高質・高感度な商品展開,行き届いたサービスなど,百貨店としてのレベルを堅持しながら,ヤングから中高年層まで,品ぞろえ,価格帯の幅においても,バランスよく幅広く対応できる「新しい百貨店モデル」の構築を全力で進めているところです。
今年は次の3つのキーワードで,百貨店の店頭から見た消費トレンドの話をしたいと思います。
1つ目は,若者を中心に広がる「スマート消費」です。2つ目のキーワードは,ますます人気が高まる「健康・スポーツ関連消費」,3つ目は,耳なれない言葉ですが,新しいトレンド,「エシカル消費」です。
若者を中心とした消費スタイルの特徴は,インターネットとか携帯電話などで積極的に情報を集めた後に,自分の趣味と感性に合うものだけを賢く,安く手に入れるところにあり,こういう状況をわれわれは「スマート消費」と呼んでいます。
若い世代のこういった傾向は,30代,40代へも徐々に広がりつつあるようです。
かつて百貨店は,婦人服,紳士服と分類整理された売り場が,見やすく買いやすいといわれてきましたが,今の若者は,この整理された美しい売り場より,カオスの中から自分らしさを見つけることにカッコよさを見いだしているようです。
そういった若者への取り組み例の一つが,弊社のヤングファッション・ゾーン,名づけて「うふふガールズ」という売り場です。お陰さまで若いお客様に支持をされております。この成功は,覚えやすいネーミング,ワクワクする売り場を圧倒的なスケールで展開できた戦略が受け入れられたと考えています。
2つ目のキーワードは,「健康とスポーツ」です。今年は女性の登山が大流行。そのファッションは,名づけて「山ガール」です。
日本生産性本部が出した2009年の「レジャー白書」によりますと,年1回以上登山をする20,30代の女性は前年に比べて3倍近く増えたそうです。この「山ガール」スタイルは,ミニスカートやワンピースにタイツなどを組み合わせる,まさに街なかのファッションです。皆さんの中には登山やハイキングを楽しまれる方も多いと存じますが,スカートをはいて登山をするなどということは,以前なら想像もつかなかったことかと思います。
もちろん,決して山を甘く見ているわけではなく,相応の装備もしっかり整えることが「山ガール」の基本です。
また,ここ数年,自転車をスポーツとして,また健康づくりの道具として楽しまれる方が,中高年世代を中心に増えています。中でも,スポーツタイプのロードバイクに人気が集まっています。
まるでオリンピック選手のようなスタイルで街を走る自転車を見たことがあるかと思いますが,最初は10万円程度の自転車から始めて,徐々に好みのパーツに交換,グレードアップしていく楽しみ方が主力だそうです。
最後に,今後重要なトレンドになりそうなキーワードが,「エシカル消費」です。
「エシカル(ethical)」とは,「道徳的な」とか「倫理的な」という意味の英語ですが,環境や社会貢献に寄与する消費行動をあらわすときに用いられております。
具体的には,われわれのところではエシカルファッションに代表されるように,素材そのものはオーガニックコットンとかリサイクルコットンを使う,商品製造は天然染料を使って繊維を製造する,商品の流通は「フェアトレード(公正な貿易)」という考え方です。特に30代以下の世代は,環境問題や社会貢献への意識が強く,われわれの世代で言えば,「もったいない」という考え方に通じるところかもしれません。
来春には,私ども大丸梅田店が1.6倍の面積で増床オープンします。弊社が総力を挙げて取り組んで参りました最新の百貨店をお披露目することができると考えております。