1985年京都大学大学院理学研究科博士課程修了。
理学博士(京都大学)。’85年米国ロチェスター大学リサーチアソシエイト,’88年甲南大学理学部(理工学部)講師,’91年同助教授を経て,’94年より同教授。
’01~’04年甲南大学ハイテクリサーチセンター所長兼務,’03年より現職。また,’09年甲南大学フロンティアサイエンス学部教授。堀場雅夫賞初め日本化学会学術賞など受賞多数。著書も多数。
ナノテクノロジーは「NT」,バイオテクノロジーは「BT」,次世代コンピューター,これはインフォメーションテクノロジーで「IT」と言います。この3つのテクノロジーがこれから世界を支える大きな基盤技術であると言われ,専門家がそれぞれ別個に勉強をしていたのが最近融合し始めました。
さて,細胞の中には核とかミトコンドリアとかいろいろたくさんありますが,その中に入ってくると,染色体,そしてDNAの二重らせん構造が見えてきます。この二重らせん構造は上からのぞきますと大体円筒になっておりまして,その半径がちょうど1ナノメートルです。ミリメートルが1000分の1,その1000分の1がマイクロ,また1000分の1がナノ,すなわち10億分の1の世界なんです。
この10億分の1のDNAにちょっと傷がつくと,病気になったり,いろんな変化を及ぼします。この配列に,丸顔が四角くなるという指令も入っているわけです。
一番最初に遺伝子の本質DNA,二重らせん構造を見つけたのは,ジェームズ・ワトソンとフランシス・クリックです。
ジェームズ・ワトソンは1928年生まれで存命です。ワトソンは非常に優秀で,1951年23歳の若さでシカゴ大学で博士号を取得。ウイルスとかファージという生物学的な研究をしていたのですが,DNAが当時タンパク質だと皆が思っていたときに,DNAが遺伝子の本質じゃないかと見抜いたんです。
DNAの形を正確に決めたいということで,当時,結晶解析が世界で一番できるケンブリッジ大学のキャベンディッシュ研究所に博士研究員として就職します。そこで出会った同室の人がフランシス・クリックなんです。
アインシュタインの相対性原理と並ぶほどの20世紀の最大の発見といわれるDNAの二重らせん構造の発見だったら,すごい実験データが並んでいる,すごい理論式が並んでいると思いますが,実質1ページ,ただ単に二重らせん構造だけなんです。タイトルは「核酸の分子構造」。マンガのような二重らせん構造図が1枚,そして,ジェームズ・ワトソンとフランシス・クリックの2人の名前,たったこれだけでノーベル賞を取ったんです。
また,シーマンという人が,「材料の世界の中のDNA」という論文を出しています。シーマンは生物学者ではありません。私と同じ物理系の出身です。
彼はDNAで何をつくったか。ルービックキューブをつくったんです。「一体何のために?」。彼の答えは,おもしろいだろうと。これがサイエンスなんです。おもしろい,役に立つかどうかわからないけど,つくってみたらおもしろいやんというのが彼の発想でした。
われわれ甲南大学は,DNAセンサーを開発しました。今は応用で,何をやるかなのですが,例えば細胞ががん化する。PH,酸性,アルカリ性が変わります。それを早期診断でDNAで検診することが,将来的にはできる時代がやってくるかもしれません。
ちょっとメタボ型の方がおられれば,やせ型の方もおられます。そういう違いはどこからくるのか,もちろんDNAなんです。
人と一番近い高等動物と言われているのはチンパンジーです。このDNAの遺伝子の塩基配列の並びが,チンパンジーとわれわれとではどのぐらい違うと思われますか。1.2%ぐらいという結果が現在では得られています。1.2%,つまり100に1つぐらい違うのです。その違いが,動物園へ行ったときの檻の中と外を決めているんです。
では,人間同士,隣の方とはどの程度違うと思われますか。もちろん1%よりも低いです。0.1~0.2%と言われています。即ち 1000から数百に1つ遺伝子配列が違う。それによって,ある方はメタボになり,ある方はやせているということになります。
ナノバイオテクノロジーの進化で,短距離が強い方は,やはり筋肉を司る遺伝子が違っていたのです。長距離の方は,筋肉よりも血管の太さに関係する遺伝子がきいているということがわかってきました。
話を馬に変えます。ダブリン大学のグループが発表している結果で,馬の得意距離は DNAで判定できるという話をしております。
ということは,今まで馬券を握りながら自分の人生をかけたような顔をして「これにかけるんだ!」と言う前に,まずは馬の遺伝子チェック。そうすると,今やっていることは愚かなことなのか,正しいことなのかがわかる時代がそろそろ来始めたということです。
われわれは,DNAの情報をデータベース化し,将来スーパーコンピューターを使ってプログラミングをやって,そのデータからいろんなことをやりたいと思っています。
サイエンスに一番重要なことは,何かを狙ってあせって毎日一生懸命やるんじゃなくて,遊び心が必要です。芝生の上で空を見ながら,「ああ,宇宙ってどうなっているんだろう」とか考えるのがサイエンスの醍醐味なんです。
甲南大学のポートアイランドキャンパスには,世界で最も大きいDNAモデル,1階から7階までシースルーの22メートルを超えるDNAモデルが,所長の遊び心でできています。ギネスワールドレコードを取りました。
今,関西は地盤沈下をしていると言われていますが,DNAで,ナノバイオでスパコンをもとに世界をリードする刺激を与えて,関西活性化につながればと思っています。