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2010年8月6日(金)第4,313回 例会

事業仕分けに参加して

赤 井  伸 郎 氏

大阪大学大学院 国際公共政策研究科
准教授
赤 井  伸 郎 

1968年大阪生まれ。’91年大阪大学経済学部卒業。
99年神戸商科大学経済学部研究所助教授。2004年兵庫県立大学経営学部助教授。’07年より現職。

 私の専門は公共経済学で,経済学を用いて公共政策を分析しています。政権交代で民主党政権になり,行政刷新会議の設置が去年9月に閣議決定されました。行政刷新会議の中にワーキンググループができ,そこで事業仕分けを実施しました。昨年11月,一般事業について行い,第2弾として今年4,5月,独立行政法人や公益法人が担っている国の関連事業について見直しを行いました。

 事業仕分けでは,事前に非公開のヒヤリングを行い,意見交換を行っています。本番が5日間ぐらいありますが,それと同じぐらいの日数でヒヤリングも行っています。

 仕分け人は一定の勉強をしていますが,すべての経緯や内容などまで知ることについては当然のことながら限界があります。仕分け人も各分野の専門家であり,違う分野は詳しくありません。自分が専門とする分野以外であれば,できるだけ国民が思っていることをぶつけて回答してもらうようにしています。

 仕分け人が重視した視点は国民が納得できるレベルであるのかどうかです。つまり,すべての仕分け人が国民の視線で見ようと考えているのです。説明が十分になされないというふうになれば,国民がその効果がわからない,つまり,その事業は必要かもしれないけれども,今の状況ではその事業をちゃんと国民に説明できていないということになるので「廃止」などの厳しい結果になるのです。

 これはあくまでも,その事業仕分けの間に国民が思ったことですから,それがすべてではありません。「廃止」は国民が今の状況では納得できない,税金を出す価値がないとしか思えないという意味の「廃止」です。本当にそれが必要かどうかというのは私たち民間人が決めることではなくて,国民に選ばれた政治家が判断すればいいわけです。

モデル事業に利権構図

 仕分けを通じてわかったこととしては、一般事業では、モデル事業をいっぱいつくって既得団体に補助金を回すという例や、政治力をもった団体向けに毎年、同じようなモデル事業が行われているケースなどがありました。一度廃止になっても、次の年に違う名前で生まれてくるモデル事業もあり、これらの問題は膨大な資料をチェックしないとわかりませんでした。

 独立行政法人については,民間でもできる仕事を優先的に配分されているケースや省庁の縦割りのもとで事業が重複しているケースなどがありました。結局は下請けであったり,役割分担が不明確であったり,監視が行き届いていないために,独立行政法人のトップのポストが省庁OBの受け皿になっているなど,いろいろな問題点があることがわかりました。

 公益法人では,公務員数が削減されても事業をやらないといけないため,財団法人に事業をやらせて,公務員数の削減分として財団法人に公務員OBを回し,そこで事業を行うケースが多かった。だから,公務員の人件費は減っても,公益法人への委託費が増えていました。民間でもできる事業なのに,競争入札ではなくて随意契約で行っていました。

腰骨に大きな穴

 補助金などがない場合,霞ヶ関のお役人は検査や資格試験をつくることを考えます。規制を強めるということです。検査・資格試験を義務化して,それを指定した法人に独占的にやらせます。そうすると,税金を使わないけれども,「試験料」や「受験料」という形でお金が入ってくるわけです。定期的にお金が入ってくるし,すごく潤うわけです。そこに公務員OBを回せば,高い給与で雇ってもらえます。

 事業仕分けの意義は事業を廃止することではありません。一般に公開されるということが重要で,国民がそれを見て,こういう事業があるのだということを知ってもらうことが一番重要だと思います。

 国民が事業に関心を持つようになれば,官庁へのガバナンス機能が働きます。本来は政治家がそのチェック機能を担うべきなのですが,やはり政治家のパワーよりも国民,つまり支持率の動向などによってガバナンス機能が高まるのです。

 この結果として,役人に意識改革が起きます。ここが重要で,情報公開をし,世間で騒がれることによって,役人側にあまり悪いことはできないという危機意識や意識改革が進み,望ましい効率的で効果的な政策につながっていきます。事業仕分けはそれを促すためです。「廃止」や「現状維持」という判断がなされますが,あれはあくまでも国民に興味を持っていただいて,国民の意思を伝えるものです。政府側でその結果を受けて本当に必要なのかどうかを考えてもらう場だというふうに考えてもらえればいいと思います。

自ら「仕分け」の動きも

 公益法人は何千という数がありますが,事業仕分けに選ばれる公益法人の数は限られるので,事業仕分けに選ばれないように,自ら問題点がありそうな所を解決しようという動きが起きています。問題がありそうな高い給料とか基金をできるだけなくそうということです。これは事業仕分けの大きな効果だと思います。

 事業仕分けは,国でやっていると,大きな事業があってイメージがつかみにくいのですが,自治体でも事業仕分けが活発に行われるようになりました。

 国の事業は,国でやる必要がなければ,「地方にやらせればいい」と逃げることができますが,地方の事業は住民に接するサービスが多いから,市町村が「やらない」と言うと,本当になくなってしまうかもしれません。ここでも一番重要なことは公務員の意識改革を進め,本当に必要な事業は何かを考えるきっかけにすることだと思います。