1959年6月生まれ。’77年レディング大学卒業,’83年英国外務省入省。’90年駐日英国大使館副領事他,ベトナム,エジプトなど外国大使館勤務を経て,’05年英国外務省に戻り,日本語再研修,’09年より現職。
当クラブ入会:’11年2月
今年は英国にとって特別な1年です。理由は二つあります。まず,エリザベス二世女王陛下の即位60周年に当たり,そして,ロンドンオリンピックが開催されるためです。(映像使用)
五輪は世界中で40億人が観戦します。英国は120カ国の国賓や50万人以上の訪問者を歓迎します。英国に対する関心を高め,生活・仕事・留学・ビジネス・観光など,訪問あるいは滞在先として,世界で最もすばらしい国の一つであることを示す機会でもあります。今月行われた即位60周年の祝賀行事を,多くの皆様がご覧になったことでしょう。天皇皇后両陛下も,お祝いのために歴史的な訪問をしてくださいました。ともに王室を持つ私たちの二つの国が深く親しい関係にあるということの生きた証でもあります。
1952年の女王陛下の戴冠式では,テレビ中継が戴冠式としては初めて行われました。それから英国は大きく変わり,活動的で多様な文化を持つ社会となりました。ロンドンに住む4割が,英国以外で生まれた人々です。ロンドンでは毎日200もの言語が話されています。世界で最も国際色豊かな都市に成長したのではないでしょうか。
ロンドンは,3回目の五輪を開催する初めての都市です。これまでに,08年,48年にも開催されています。英国は五輪と長い間,関わりを持ってきました。西イングランドのシュロップシャーのウェンロックという村は,国際オリンピック委員会の創始者,クーベルタンが,1890年に地元の医者が主催した競技会を見て,近代オリンピック創設のインスピレーションを受けた場所です。
英国は,水野会長がここ数回の例会で語られたように,ゴルフ,サッカー,ラグビーなど,多くのスポーツが生まれた場所です。パラリンピックのコンセプトが生まれたのも英国でした。初めて障害者のスポーツ大会が行われたのは48年で,五輪と並行した形で,第二次世界大戦で負傷した退役兵のために,バッキンガムシャーにあるストーク・マンデビル病院で実施されました。こうしたエピソードを踏まえて,今回のロンドン五輪のマスコットが,「ウェンロック」と「マンデビル」と名づけられました。
前回五輪のときは戦後の経済的にも困難な時期で,貧しい英国人選手は運動用の短パンを自分でつくるように,また,外国人選手はタオルを持参するようにと言われたそうです。ユーロ圏の経済危機にも関わらず,今年の大会は,資金面でも少し余裕があるようで,よかったです。
ロンドン五輪は,多くの面で画期的なものとなります。まず,これまでで最も環境に優しい大会です。持続可能性というコンセプトをプロジェクト全体に組み込み,カーボン・フットプリント(CO2排出量)をすべて算出する初めての夏の五輪です。建設廃棄物の97%が再利用,再処理されます。
東ロンドンのオリンピック・パークは,汚染された工業地帯に湿地帯がよみがえり,生物も戻ってきました。大会後は,5つのスポーツ会場をはじめ,1万人の住居,学校,医療センターなど様々な分野で活用されます。パーク周辺のインフラも大きく改善され,毎時195本の電車が九つの異なったルートで,パークとロンドン中心部を15分で結びます。市内のキングスクロス駅からは高速鉄道を使うと,7分でパークに到着します。チャネルトンネルでヨーロッパとも直通のこの高速電車には,日本の新幹線技術を用いて日立が製造したジャベリンも含まれています。
パークとロンドン中心部の間には,英国版シリコンバレーと呼ばれるテックシティUKが広がっています。ヨーロッパで最も急速に発展した工業技術クラスターです。インペリアル・カレッジやロンドン大学といった世界を主導する大学と近くつながることができるのも大きな利点です。
五輪は英国の経済成長に大きな効果をもたらします。競技会自体は,ビジネスや観光収入でおよそ210億ポンドの経済効果が見込まれています。ドイツは,06年にサッカーW杯を開催した際,観光業と貿易のマーケティングを展開しました。その結果,07年末には「国のブランド力」で最も高く評価され,輸出も向上しました。
ビジネス機会を最大限に活用するため,UKTI(英国貿易投資総省)では,英国政府が開く過去最大の投資プログラムである,グローバル・ビジネスのネットワーキング・フォーラムを設けています。大会開催中,このフォーラムが英国のビジネス活動の中心となり,国際企業が英国でパートナーシップを構築する機会を求めることができます。
大会期間中,17のグローバルセクターサミットを開催します。それぞれが特定のセクター,例えばエネルギー,ICTやヘルスケアといったセクターを扱い,企業と政府が意見を交換し,将来成長するための強力でグローバルな提携を確立し,英国のビジネスが持てる最大のものを世界にお見せする場となります。日本のビジネスリーダーも,多くのイベントに参加されます。
最後に,ロンドンに初めて日本選手団をお迎えすることを楽しみにしています。大会は女子サッカーから始まります。世界王者の「なでしこジャパン」が,英国でプレーするのを楽しみにしています。決勝まで進んでほしいですが,英国も決勝まで進めば,どちらを応援するか,忠誠心が割れるところです。