2011年の東日本大震災の後,同年9月に同財団設立,代表理事に。ほかにスペシャルオリンピック日本・福島副会長,諸橋近代美術館理事など。
私は福島県いわき市に生まれ,震災まで郡山市に住んでいました。主人が福島県に本社を置くスポーツ専門のチェーン店を経営しており,そちらで仕事をしていました。震災で東北にある約75店舗がダメージを受けました。75店それぞれの場所で避難所の代わりもしておりましたが,皆だんだん疲れて,笑顔が消えていきました。特に子どもたちの表情が暗くなっていく様子を見ていたときに,店の中から出してきたボールを蹴ったり,投げたりということを始めました。そのときに,一瞬子どもたちに笑顔が戻りました。あんな大変なことがあっても,体を使うことで一瞬忘れられる。それが私には印象的でした。
体を動かすことが人を元気にして笑顔になることを認識し,子どもたちにそんな場を提供できたらと思い,一般財団法人ユナイテッド・スポーツ・ファウンデーション(USF)を設立しました。活動開始は2011年9月20日です。現在は東北に限らず全国で,特に子どもたちのスポーツ大会やイベントを開催。2年目に活動の幅も広がってきました。去年1年間の活動回数は約494回,延べ人数で15万5,067名,累計ではこの2年弱で約23万人の子どもたちにスポーツの場を提供できました。
きょうは財団の活動の中でも福島県にしぼってお話しします。小錦さんが避難区域になっていた福島県相馬市立飯豊小学校の6年生35名を両国国技館に招待してくれて,日本の国技である大相撲を観戦しました。千秋楽2日前だったのですが,白鵬さんと琴欧洲さんが出てきてくださいました。海外から日本に来て,国技に対する情熱を子どもたちに話してくださったことは,今でも非常に心に残っております。震災復興卒業記念野球大会もやりました。南相馬市立小高中学校は原発から20キロ弱のところにありまして,全員一斉に避難したので子どもたちはサヨナラも言うことなく別れました。もう一度集って試合をしたいという連絡を,生徒のお母様を通して財団にいただきました。それぞれの仮設住宅の小高中学校の生徒さんたちを全員集めることができて,その当時,対戦相手だった福島市立福島第4中学校との交流試合をしました。これが結果的に彼らにとっては卒業大会になったわけです。
USFについてお話しさせていただきます。私どもスポーツ店の店舗にする予定だったところに,無料で子どもたちがスポーツをできる屋内施設(USFキッズパーク)をつくらせていただきました。午前中は1時間ごとに幼稚園単位で予約を受け付けて,午後はフリーで遊べるようにしました。ただ遊ばせるのではなく,毎月いろんな運動プログラムを開催するようにしました。このときに出会ったプログラムは今,米国東海岸を中心に200から300校ぐらいの小学校がやっているものです。朝一番に体を動かすことで脳の活性化を促して,学力のつきやすい状態に導くという10分,15分程度の運動プログラムです。これを「だるまさんが転んだ」とか,日本の子どもたちがなじみやすいものに構成を変え,遊びながら子どもたちは体を動かす。ハーバード大学のジョン・レイティ博士の『脳を鍛えるには運動しかない!』(2009年3月・日本放送出版)という本が出ておりますが,体を動かすことと脳の活性化の関連性を,臨床実験の結果に基づいて紹介しています。キッズパークでは今も毎週子どもたちに運動プログラムを提供しております。
現在の中学生以下の人口は25万6,900人。毎年7万人ずつ福島県から人口が減っております。0歳~5歳の幼稚園児が9万人。6歳~11歳の小学生が10万6,000人。12歳~14歳の中学生が5万9,000人まで減ってしまいました。とは言え,まだ25万6,900人の子どもたちがその場所で毎日暮らしています。彼らは親からの話で何となく不安に思っています。外部被爆とか体内被曝に対する不安,他県からどう思われているかという不安感を持っています。それから風評被害。放射能がうつるわけではないのですが,福島から修学旅行に来た子どもたちに対して,「えっ!」というふうに引かれたときにくやしいと言います。
震災から2年で子どもたちの体力が著しく低下しました。震災前もそんなに高くはなく,32位とか19位でしたが,この2年間で一気に45位,30位と体力が落ちてしまった。体力が落ちたことにより子どもの肥満が一気に増えて,男子では6歳,7歳,10歳,11歳が全国1位,女子では5歳,8歳,14歳,17歳が全国1位になってしまいました。野外活動制限による運動不足が影響しているのはまぎれもない事実だと思っております。また体力が低下することによって,知力低下による健康被害もそろそろ言われております。
最後になりますけれども,子どもたちからのメッセージです。
――東日本大震災復興は,原子力発電所の事故でまだ先が見えません。それでも私たちはこの福島で暮らしています。お父さん,お母さん,家族に見守られて毎日学校に行き,勉強して,友達と遊んでいます。そんな当たり前な生活なのに,福島は特別だと思われています。私たちは大人を信じています。いつか大人になったら,福島で起きたことをしっかり伝え,私たちが大好きな福島を自慢したいと思います。皆さん,福島の子どもたちは,元気に明るくのびのびと前に向かって歩いています。スポーツというコンテンツを通して,なお一層子どもたちの未来のために,もちろん福島の子どもたちだけではなく,日本の将来を担っていく人材が育っていけばと心から願っております。 (スライドとともに)