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2013年3月8日(金)第4,430回 例会

めざすは飛鳥の千年瓦

山 本  清 一 氏

山本瓦工業(株) 会長
日本伝統瓦技術保存会
会長
山 本  清 一 

1932年奈良県生まれ。尋常高等小学校卒業後,瓦ぶき職人に。法隆寺金堂,東大寺大仏殿,唐招提寺金堂,姫路城など数多くの文化財の屋根保存修復を手掛ける。

 何ぼ体がよくても,頭がよくても,技術を持ってない者は職人としては考えられない。昔の人は,着るものは貧しくても,しっかりした技術を伝承してきてくれてました。職人は最初の5年間を奉公といいまして,今みたいに初めから給料出して教えるようなことはめったになかった。弟子入りして5年間は小遣い程度,それで技術を身につけさせていただいたお礼奉公を1年して,独立していく。それがわれわれ職人のやり方でした。

 私の甥っ子が「教えてくれ」と言うから,来いと言うたんですが,「何時間労働か」と聞くんです。屋根の上で仕事しながら教えても,晩にその日に言えなかったことを教えようと思うたら,「それをやったら労働基準法違反や」と言われたらどうします。今の時代はわれわれ無学の者が職人を養成するにしても,労基法とか何とか,また別の勉強せないかん。

二十歳で弟子入り

 私は尋常小学校を出て,屋根屋をしていた父親のところで見習いをしました。5年ほどして,20歳のときですが,今度は井上新太郎という文化財の立派な仕事をしていた師匠に弟子入りしました。当時の教え方というのは蹴ったりたたいたりしていたんですが,私の師匠はそういうことはしませんでした。やさしい言い方で,「これ,今晩考えとくか」と言うて,苦しむような難しい問題を出しました。教えてくれない。とにかく難しい問題を出す。こっちは,こんなもんぐらいやったるわと思うのですが,一晩寝ないで考えてもできない。これも厳しかったけど,考えてみたら,これは上手な教え方かもしれませんな。師匠はたたいたりはしませんでした。

 万博のころから「もったいない」ということを失わすような高度成長期に入って,消費は美徳という時代になりました。わしら文化財の仕事をやらしてもらう者は,古いものを大事にせないかん。「もったいない」という気持ちがなかったら,古い建物の腐ったとこだけほかして,そこだけに新しい木を入れるようなつぎはぎの仕事はできませんわ。瓦も一緒です。1,450年前に,仏教と一緒に朝鮮から伝わってきました。飛鳥のお寺に教えにきたんです。それが根本です。それが原点で,瓦づくりもそこから考えていかなんだら,1,400年の移り変わりがわからなくなる。

職人を心から教育

 「教育」という字は教えて育てると書きますが,今は教えるだけで育ててないと思う。職人でも教えただけではあきまへんのや。後を継がしていく人間には,教えて育てなあかん。その育てるのができない。昔のように徒弟制度でやればできるんやけど,今は初めから社員にして完全雇用して,引き継いでくれよと一生懸命に訓練せないかん。15人ほどの弟子がいますが,私は弟子より早く起きて,普通の家にいるのと同じようにして,山本流で点てた苦い,苦い,お茶飲まして,朝だけは気持ちよう出すようにしてます。嫁はんは「そこまでせんでも」と言いますが,毎日の自分の心からの教育をしてるつもりです。

 職人は皆一途なもんで,朝早い,晩もかなり遅うなるから,帰って寝たらまた朝やという繰り返しです。きれいな身なりはしてないけど,純粋な人間ばっかりです。弟子には,現場にはできるだけ早く行け,無理せんと車も飛ばさんと行けと言うてますが,晩に帰ってくるまで心配です。親方というのはそれだけの責任があります。皆,一生懸命やってくれて,恥をかかんような仕事をやってくれてます。

へそは先祖

 「へそ」ということを広島の三瀧寺で教わりました。師匠と一緒に仕事に行ったときのことですが,挨拶に行っても愛想のない恐い顔してる人やったけど,お食事いただいたり,風呂に入れてもろたりするのは,お寺のお方と一緒にしてくれました。わしの師匠が先祖のことを悪く言うたもんで,夜の2時頃に和尚さんに起こされて,へその話をされた。「へそは先祖,どこまででも世界の人までつながる。へそは今何で遊んでるのか。へそは人の見てないとこで十月十日,陰ひなたなしに一生懸命働いたので,今こうして安閑としている。だからへそを大事にせい。それは先祖を大事にせいということや」。わしらの親も子どものときからへそは大事にせいと言いましたが,このへその話で,この和尚さんは偉い人やなと思いました。それからも懇意にさしていただきました。

 大仏殿の仕事をしているときにこの和尚さんから仕事頼まれまして,大仏殿の仕事がまだ2年かかると言いましたら「待つ」と言いはって,それで行きましたら,「この仕事は誰でもよかったんやけど,おまえに会いたかったんや」と言われて,涙こぼれました。職人が陰ひなたなしに一生懸命やるのを見ておられたんやなと思いました。

 鴟尾(しび)とかシャチホコは,建物を守るためにのせてます。シャチホコのシャチというのは海で一番強い魚です,それを雷よけ,災難よけに使うたわけです。夏,冬,1日24時間,温度も違います。唐招提寺の鴟尾は1,250年近く守ってきたんやから,瓦も生きとるということです。瓦はつくるときもカツ入れて,魔よけになるだけの信念持ってつくります。出来上がるまでは勝負と一緒で,悪いことは絶対できません。酒もその間はやめます。ちゃんと出来上がるまでは,神さん以外の力もお借りしたいと思います。

 姫路城は終わりましたけど,幸いにもあんな立派なシャチホコがうまいことやれたというのは奇跡でして,そんなことで,またこれからも一生懸命頑張らしていただきます。1,400年以上の瓦の歴史の話をしようと思うたら5年ぐらいかかりますんで,この程度で終わります。どうもありがとうございました