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2012年8月24日(金)第4,406回 例会

すばる望遠鏡で見る129億光年かなたの宇宙

家    正 則 氏

自然科学研究機構国立天文台教授
超大型望遠鏡TMT推進室長
家    正 則 

1974年東京大学理学系大学院修士課程修了,’77年同博士課程修了。’92年国立天文台教授,2012年国立天文台TMT推進室長。

 この伝統ある大阪RCでお話しさせていただけることを大変光栄に存じます。きょうは3つのお話をしたいと思います。最初は,すばる望遠鏡をどうやってつくったか,それで何を研究しているのか。2つ目は空気の揺らぎでぼけてしまう像を直す「補償光学」という先端技術について。3つ目は2021年の完成を目指して,アメリカ,カナダ,日本,中国,インドの5カ国の国際共同で,すばる望遠鏡の隣に直径30メートルの鏡を持つ究極の望遠鏡をつくろうと活動していることです。

 すばる望遠鏡はハワイ州のハワイ島の4,200mの山の上にあります。建設が始まったのは1991年,完成が’99年です。2000年から動き始めました。建設費は400億円かかりました。目玉になるのは直径8.2mの鏡です。1980年代にこの計画を考えたときに,世界中のガラス会社に問い合わせましたが,そんな設備を持っている会社はどこにもありませんでした。アメリカのコーニングガラス社にお願いして,8mのガラスを作るための工場を作ってもらいました。ガラスをつくるのに4年,出来上がったガラスを磨く作業に4年かかり,鏡が出来上がったのは8年後です。完成記者発表には地元の記者が取材に来ました。翌日の新聞を見たら「ゴジラのコンタクトレンズ完成!」という見出しが出ていました。

すばる望遠鏡で宇宙の起こりを研究

 この望遠鏡で,私は宇宙の考古学を研究しています。宇宙は137億年前にビッグバンで始まったことがわかっています。ビッグバンで高温な火の玉で始まった宇宙は急激な膨張をしますから,5分後には水素原子とヘリウム原子ができます。その後どんどん冷えていって,38万年たつと宇宙は十分冷えて,3千度ぐらいまで温度が下がります。そうすると,それまで陽子と電子だった宇宙の中の物質が中性の水素原子になります。宇宙ができて38万年後には,宇宙には水素とヘリウムしかありませんでした。何もなければ宇宙は冷えきって,それでおしまいだったのです。ところが宇宙の中に揺らぎがあって,密度の濃い部分と薄い部分がほんのちょっと乱れが生じました。密度の濃いところは重力が強くなるので,周りのガスをよけい集めます。そういう重力の不安定性によって星や銀河が生まれ始めたのです。実際に最初の星や銀河が生まれたのは,2億年か3億年後だと言われています。誰も見ていません。それを見に行きたいというのが私たちの研究なのです。

遠い銀河の発見,日本人が上位独占

 星や銀河がたくさん生まれるまでの時代を「暗黒時代」と言います。星や銀河が生まれますと,その光でいったん冷えた宇宙が再び暖まり始めます。そして,中性になった水素が暖まって陽子と電子に電離するのです。これを私たちは「宇宙の夜明け」と呼んでいます。すばる望遠鏡は,この宇宙の夜明けの時代を見に行くという研究をしております。実は2006年に私たちは世界記録になります128.8億光年の銀河を見つけまして,この記録は2010年にイタリアのグループに世界記録を破られました。今年の6月にまたその世界記録を奪い返しまして,今また世界一になっています。遠い銀河を見つけた人のうち12位まで全部日本人です。すばる望遠鏡で見つけたものが独占しています。

 次に「補償光学」の話をしたいと思います。遠くの銀河から129億年もかかって地球までやってきた光は望遠鏡の鏡で反射されて,もう1回反射されて焦点部にあるカメラにやってきます。そのときに空気の揺らぎで光が曲がってしまうため,星がチラチラします。その曲がりを測って直すように,鏡を動かして光の歪みを直してやる技術を「補償光学」と言うのです。これをやると星がピタッととまる。そういう先端技術です。

新型望遠鏡で第二の地球発見目指す

 こういう発展を受けて,すばる望遠鏡のすぐ側に直径30mの鏡を持つ究極の望遠鏡を国際協力で実現しようとしています。約1,500億円かけて,2014年から建設を始め,2021年に完成する計画です。その解像度はすばる望遠鏡の4倍,ハッブル宇宙望遠鏡の13倍。感度はすばる望遠鏡の14倍,ハッブル宇宙望遠鏡の200倍の能力を持つと考えております。この望遠鏡でもし月を見ると何が見えるか。ゲンジボタルを1匹,空気と水を与えてガラスの箱に入れて月の暗い側に置いておいてピカピカ光らせると,この望遠鏡で見えます。皆さんの関心が深いと思われるのは,地球以外に地球に似た惑星があるのかどうかを探すことでしょう。生命が住むには太陽からのちょうどいい距離があって,これが現在だと地球ぐらいです。ほかの太陽の周りの惑星系でも,冷たくなく暑過ぎない距離にあるような惑星が宇宙の中にたくさんあるはずです。そういう中で,何らかの生命が誕生している可能性がある。そういう惑星の中で,たまたま地球から見ていて太陽の前を通り過ぎるようなものがあると,その惑星の周りの大気を通ってくる光があります。この光を分析すると,第2の地球に酸素があるか,メタンがあるかとかがわかるのです。酸素とか,メタンは生命の証拠になると言われています。そういう観測をしようという計画です。

 宇宙に揺らぎがあったお陰で星が生まれたのですが,揺らぎがもっと弱かったら星は生まれませんでした。当然私たちは存在しません。重力がもう少し弱かったら,星は生まれない。それから,超新星爆発がなかったら,鉄とかそういう物質はばらまかれなかったので,やはりこの地球のようなものはできませんでした。そんなことを考えると,日常の小さな問題でわれわれいろいろ悩みますが,しばしそういうことを忘れて,宇宙と星に感謝して生きていくというのも一つの生き方じゃないかなということで終わりにさせていただければと思います。