1957年和歌山県生まれ。’81年海外経済協力基金(OECF)入社,’92年ベトナム日本大使館(OECF)ハノイ駐在,2008年国際協力機構(JICA)ベトナム事務所長,’13年6月から現職。
世界の人口は,21世紀半ばには90億人まで増えると言われていますが,振興途上国のGDPに占める割合は,今の13%程度から2017年には42%まで拡大します。特にアジアが成長センターになると言われており,世界の成長を牽引していくことになります。
私は33年間,国際協力の仕事をしてきましたが,主に担当した地域はアフリカとベトナムです。ベトナムへの協力は1960年代初め,戦後賠償として「ダニム水力発電所」建設を支援したのが最初でした。1964年に完成し,発電に使用した水は灌漑水路によって乾燥地域を潤し,地元では今でも「日本水路」と呼ばれています。
ベトナムは新しい発展段階に挑戦するために,日本の経験や知恵に高い関心と期待を持っています。これに応えるため協力内容も,より高いレベルの技術を要するインフラ建設のほか,昨年の憲法改正では日本の憲法学者が助言を行ったり,国会の立法機能を強化するために衆議院法制局が協力したり,公務員の養成のために日本の人事院が協力する。また,日本の財務省がバブル崩壊後の不良債権処理の経験を踏まえて,ベトナムの不良債権問題にアドバイスするといったような協力を,JICAが橋渡ししています。
ここでODAとJICA,そしてJICA関西の役割,ベトナムの状況やODAの実績について簡単におさらいさせていただきます。JICAはもともと技術協力のために設立され,資金協力は海外経済協力基金の担当でした。
この基金は1999年,日本輸出入銀行と合併して国際協力銀行になり,2008年には,ODA業務が国際協力銀行から分離されてJICAに統合されました。これで技術と資金協力を一体として担当する機関となりました。
世界に100以上の事務所を構え,日本にも15カ所の拠点があります。関西センターは2002年,阪神淡路大震災後の再開発地域「HAT神戸」に兵庫センターとして開設。2012年,事業仕分けで大阪センターが兵庫センターに統合され,以降,関西センターとなっています。関西センターでは阪神淡路大震災の教訓や経験,防災のノウハウを世界に伝えることを目的とした研修のほか,関西地域が強みとするモノづくり,中小企業振興,上下水,環境などの分野の研修が中心となっています。
続いてベトナムですが,風土・文化・宗教・食事に至るまで,日本人と非常に親和性が高い。人口は9,000万人を超え,平均年齢は28歳,人口の6 割は30歳未満という大変若い国です。これが成長の大きなエネルギーとなっています。一方で日本には,シニア層に蓄積されたノウハウがあります。それがベトナムの今後の発展にも活きるという相互関係があります。過去10年の経済成長率は6.9%という大変高い成長を遂げてきました。1 人当たりの所得は2010年に1,000ドルを超えて,2012年には1,500ドルを上回っています。
ベトナムは日本企業にとって輸出先,投資先として大変重視されています。共産党一党制のもとで民主化努力がされており,非常に安定していることがまず強味です。また,豊富で優秀な労働力,そしてインフラや制度面を含めて投資環境の改善が進みつつあること等です。中国に集中した投資のリスクを分散する先としてアセアン諸国が注目されていますが,ベトナムがその中でも最も注目されていると言っていいと思います。一昨年から,日本からの投資は世界でも最大となり,現地の日系進出企業は1,000社を超え,在留邦人も1 万人を上回りました。
ベトナムへの資金協力は円借款を中心に累計で2 兆2,000億円を上回っています。支援対象分野は,運輸・交通が4割,電力が3 割,そして下水処理などの環境改善や地方開発などです。これまで派遣した日本人専門家が延べ5,700人。日本での研修に参加したベトナム人は約2 万人。青年海外協力隊・シニアボランティアは約500名に上っています。
今,JICAが目指しているのは国民同士の友好関係をODA事業を通じて発展させていくことです。一つは「インフラシステム」の支援ですが,日本政府が重視しているのは,ハードだけではなく,経験や技術を合わせて協力していく,まさにインフラシステム支援です。ハノイやホーチミンで建設中の地下鉄では資金協力だけでなく,地下鉄を運営する会社設立のためにハノイでは東京メトロ,ホーチミンでは大阪市交通局が参加して協力を始めています。
橋梁の技術は日本が誇るものですが,この維持管理も非常に重要です。多くの途上国関係者がこの技術を学びに関西に来ています。「環境・下水道」分野では,ベトナムで神鋼環境ソリューションが工業団地向けの水事業をすることになりました。工業団地の排水問題は,ベトナムで大変大きな問題になっていますが,関西の官民の取り組みを参考にしてもらうために,工業団地排水対策をテーマとした研修を関西センターで行いました。また,「中小企業の海外展開」のために2 年前からODA資金を活用することになり,年間60億円の予算を活用して,中小企業が海外に展開する際の計画作りを支援する調査業務を始めました。ダムの水質改善のために,関西の企業の技術を活かす。地方の医療の改善のためにITを活用して診断する技術,これも日本の中小企業の技術ですが,これを活用する。こうしたビジネスの展開を支援するためにJICAの調査費を活用する,こうした取り組みを行っています。
今後ともご支援をいただければと思います。本日はどうもありがとうございます。