1965年大阪大学医学部卒業,’81年奈良県立医大外科教授,2000年国立循環器病センター病院長,’01年同センター総長,’08年同センター名誉総長。’09年堺市医療監。’02~’04年大阪RC会員。
「ロータリー会員向け」とさせていただいたのは,1つは高齢者の社会に入っている人が多いということ,2つ目は,先進医療とかの領域に自己負担の部分の医療がどんどん増えておりますが,そういった社会的な,財政的な面でも恵まれた方々が多いですから,最新の医療を受けていただくと,皆さん,心臓病では100歳ぐらいまでは生きられるのではないかという状況になっておりますので,その辺の話をさせていただければと思います。
世界の高齢化率の推移を見ると,日本が一番高い所にあります。2025~50年にかけては,実に40%が65歳を超えていきます。次に高いのはイタリアとかドイツ辺りですが,まだアメリカは随分低いです。アジアを見ても,日本は桁違いに高齢者が増えています。
こうした中で,何が問題になるかと言うと,やっぱり高齢者に多い病気が圧倒的に増えているということです。1つはがんです。がんで亡くなる方は結構まだ続きます。しかし,心臓病で亡くなることが非常に少なくなるぐらい医療が進んできています。
高齢社会では,手術したり,いろんな治療をするに当たっても,できるだけ侵襲(生体を傷つけること)の少ない手術でやろうと。特に高齢者には輸血をしないですぐ食事を摂れるようにする,すぐ立って歩けるようにして早く退院できるようにする。このためには「低侵襲」と言いますが,あまり大きく切らないということです。カテーテルとかロボットとか,いろいろ考案されて行われています。
例えば大動脈瘤を手術でやると,首の下ぐらいから腰の辺りまで,背中から横にかけて切らないとできないのですが,ステントグラフトというのを,足の付け根の血管から細い管に巻きつけたものを入れて,体の中へ入れて広げるという治療が大変進んでいて,今はこの治療を受ける人が増えてきています。
心臓手術は,ステントを入れる手術から弁を入れ換える手術までが,カテーテルで行えるという形になってきていまして,これにはすごい医療材料の進歩が陰にあるわけです。
一方,高齢者に多くなってくるのが心房細動で,これが脳梗塞をつくる一番大きな原因になるわけです。最初は大きく胸を開けて心臓を出して手術する方法だったのですが,今はもうそれを体から入れる管でやる。心臓は電気で動いています。筋肉の電線で,ここを電気が流れて心臓がリズムをとっているわけです。治療法としては,薬のほかペースメーカーで治せる不整脈もありますが,最近進歩しているのは電気で焼くということです。電線は心臓の筋肉ですので,体の中で電気を通して焼いて止めるんです。この治療には7本ぐらいの管を心臓に入れます。7本のカテーテルのどれをどう操作するのか,やっている人が迷っても困るので,最近はロボットができていて,7の管を管理して動かす。ただ,これはアメリカ製で3 億円ぐらいするので,まだ日本には2~3台しかありません。
心臓の再生医療というのが,iPSを使った心筋ができるようになると,特に伸びてくる可能性があります。他にもう一つ大きなことは,人工心臓の発達が著しい。そして日本でも保険で使える機械になっています。1個大体2,000万円です。高級車1台を胸に入れるようなものですが,人工心臓をつけている日本の方は250人ぐらいいます。世界では何万という人が人工心臓を使って生きている時代に入っています。
人工心臓もいろいろな種類ができていて,日本製も2つあり,テルモ社とサンメディカル社製がありますが,世界的に一番よく使われてる心臓は「ハートメイトⅡ」という人工心臓です。欧米では,移植をしないで人工心臓だけで生きていこう,つまり70歳以上の人には移殖しない,若い人向きの治療はしない代わりに,人工心臓を永久使用で使おうと。アメリカでは,2万人以上が人工心臓だけで生きているという状況になってきています。
日本ではまだ永久使用が保険で認められていないのですが,いずれ保険になると思います。心臓移植のつなぎとしては,すべての機種が保険で認められている治療法になっています。日本では心臓移植へのつなぎとして使われていますが,これで何年間も生きておられます。人工心臓ですが,ボタンみたいに心臓に突き刺すだけで心臓ができる。これも実用化されていて,日本でももうすぐ利用できるようになります。手の平に載る小さな心臓,これももうすぐ日本に入ってきます。
こういったことが実現していく中で,人間 は何歳まで生きていけるかというのを日本科学技術振興財団が推測しているのですが,理系の大規模な地位向上がなされた場合と,なされなかった場合とで違っているんです。医師や医療技術をやっている人を優遇してやれという報告をしています。理系が優遇されたら200まで生きられるようになる,優遇されなかったら120までやぞということです。
どうか皆様方もお元気で,差し当たって心臓病ではなかなか死にませんが,がんには注意していかないといけません。しかし,金がかかりますよ。人工心臓つけて8 年生きている人もいるわけですから,それをするには,「ええ機械を使ってくれ」と言うたら,「5,000万出してくれ」という時代になってしまうかもしれません。望ましくはないですけどね。とりあえず皆様方には90,100歳が適頃やないかなと思いますし,我々もご支援申し上げますので,どうか心臓病だけでは死なないでいただきたいと思います。どうもありがとうございました。(スライド・映像とともに)