1946年愛知県生まれ。’68年日本航空入社。入社以来42年間,総飛行時間は地球800周に相当する18,500時間。首相特別便機長,湾岸危機時の邦人救出機機長なども務めた。2010年3 月に退社。
私,ほぼ南極以外は,くまなく高度1 万メートルから地球を見続けてきました。地球の美しさと,私もびっくりするのですが,近年の温暖化によって,地球の姿がかなり変わってきております。地球も私たちの身体と同じように必死になってバランスをとろうとしています。人間が傲慢なことをしなかったら地球だって十分回復力もあります。そういったお話をまずさせていただきます。
それでは,まず皆様とご一緒に飛行機に乗って,高度1 万メートルから地球を見ていただきたいと思います。この操縦席から地球をポッと見て浮かんでくる言葉が「 The Only One Earth.(かけがえのない地球)」。このかけがえのないという言葉を大事にしていただきますと,今世の中で起こっているいろいろなことがかなりなくなってくるのではないかと思います。地球から教えられたことですが,まず,「地球ってそんなに大きくないんだよ」ということを感じていただきます。これは高度400㎞から見た地球。そして次は私が撮った写真で,高度1万メートルから見た地球です。そんなに変わらないです。
地球というのは生まれて46億年たっていますが,まだまだ活動的だと思います。これは2011年3 月14日,東日本大震災の3 日後の日本時間9 時のリアルタイムの震度計です。赤いのが写っています。環太平洋はこんなに揺れるのです。まだ日本はこんなに揺れています。日本付近をズームアップしますと,震災3 日後,まだまだこれだけの余震が続いています。日本はやっぱり地震が多いんです。その理由は,地球は大体10枚ぐらいのプレートで覆われているのですが,その10枚のうちの4 枚がこの狭い日本付近に集中している。ですから,日本というのはいつ,どこで地震が起こってもおかしくない。やはり地震に対する備えというのは大事だなと思います。
次が一番お伝えしたいメッセージです。パプアニューギニアですが,白い雲があって,緑の森がある,そして青い海がある。こんなに美しい星は,われわれが住んでいる地球しかまずないはずです。地球ってやっぱり美しいんだな。しかし美しいだけじゃなくて,水があって森があるお陰で,われわれ人間も含めて生物が生きていける。ですから,地球というのは美しいだけじゃなくてありがたい存在なんだ。そのありがたい星にわれわれ人間が住んでいる。通常何も感じないと思うのですが,こうして操縦席からポッと見ると,「ああ,地球って本当にかけがえのない美しさ,そしてありがたい存在なんだな」ということがわかります。
今度は温暖化。二酸化炭素のような温室効果ガスはなくては困るのです。もし温室効果ガスがなかったら,地球の平均温度は15度には保てなくて,マイナスになってわれわれ生きていけない。温室効果ガスもなくてはならないものですが,最近は急激に増えてしまって温暖化が進んでいます。日本からアラスカのアンカレッジ,北極の上空,グリーンランドの上空を通ってヨーロッパに,私も1970年からずっと飛んでいるのですが,2000年ぐらいまでは真夏でも真っ白い北極,真っ白いグリーンランドしか見たことありません。それが2000年ごろから「おやっ」と思うようになって,2007年には青い海面が見える北極にびっくりしました。北極航路というのは現実の問題になっています。特に今海洋覇権主義を明らかにしている中国,韓国あたり,もちろんロシアもそうですが,相当北極航路を考えている。スエズ運河なんかを回ってくるより4 割ぐらい短くなります。
さらに世界じゅうで砂漠化が進んでいます。これは小泉首相にお供したときの写真ですが,カザフスタン,ウズベキスタンの中間にいます。アラル海,琵琶湖の100倍の面積があったのが今はその半分,水の量は40分の1 になっています。あちこちで砂漠化が進んでいます。
機長というのはどんなことがあっても最悪の事態を防ぐという危機管理が一番求められます。私は危機管理の原則を5 カ条にまとめています。①危機管理とリーダーシップ②危機管理の心構え③危機管理の対応④危機管理の要諦⑤危機管理と情報。
今から20数年前にニューヨークの本屋さんで見つけた『The Book 0f Five Rings』。宮本武蔵の『五輪書』の英訳で,アメリカのビジネスマンにも読まれていました。宮本武蔵が言っているのが,「神仏を尊び,神仏に頼らず」。これが危機管理の心構えの2 大要素になります。
危機管理の対応は,「悲観的に準備し,楽観的に対応」。私はよくパイロットたちに言っているのですが,「何もない平時においては,やっぱり完璧な仕事を目指して仕事をしましょうね。ただしトラブルがあったら,絶対に100点満点をねらうな。一番大事なもの以外は一旦捨てる」。危機管理の要諦,一言で言うと「愚直なまでに基本・確認を徹底」。今世の中で起こっているいろいろなトラブル,危機,あるいは不祥事で,難しいことや高度なことができなくてそうなってしまったことはほとんどない。社内で基本・確認を徹底するのはどうしたらいいか。5 つ目の危機管理と情報。要は使い方,あるいは焦点の当て方。聞きたくない,おもしろくない,耳が痛い情報は危機管理に活用する。そして自分も含めて,部下,従業員,あるいはご家庭の奥さんや子どもを育てようと思ったら,いいところを見て,それを育てる。これもよほど意識しないと逆をやってしまいます。(スライドとともに)