1973年明治大学商学部卒業後,(株)大丸入社。店舗・本社の部長,室長を歴任し,2003年5月同社代表取締役社長。’07年9月(株)大丸と(株)松坂屋HDの経営統合により発足したJ.フロントリテイリング(株)取締役。’10年3月(株)大丸松坂屋百貨店代表取締役社長。’13年4月J.フロントリテイリング(株)代表取締役社長(現任)。 ’03年当クラブ入会。’05年度雑誌委員長。
恒例によりまして「百貨店の店頭から見た本年の消費動向」についてお話をさせていただきます。私どもの社員モデルによるミニフアッションショーとともに,お楽しみいただければと思います。
全国の百貨店の売上高の合計は,今年4月から10月まで7カ月連続で前年を上回りました。牽引したのは,何といっても富裕層による高額消費と,訪日外国人客によるインバウンド消費です。
大丸松坂屋百貨店のカードをお持ちのお客様のデータを見ますと,月に100万円以上お買い上げの顧客数は今年10月,前年対比で24%のプラスです。金額では16%のプラス。高額消費が活性化していることがわかります。
11月は温暖で冬物衣料が伸び悩みましたが,それでも顧客数で17%,金額で5%ほど伸びております。
特に超高額品がよく動いています。10月の下旬に当社で最もグレードの高いホテル催事を行いました。数千万円もする藤田嗣治画伯の作品,北斎,写楽の浮世絵,一千万円を超える腕時計などが売れ,過去最高の売り上げを更新しました。
また今年は,「爆買い」に象徴されますようにインバウンド旋風が席巻した1年だったと思います。
百貨店の免税売上を地区別に見ますと,東京が圧倒的に大きく構成比では55%。次いで大阪が26%,札幌,京都,福岡で4%程度です。
一方,免税売上の伸び率では大阪,京都が高く,東京の一極集中から,やや分散化傾向にあります。国際空港のキャパシティ,首都圏のホテルの供給能力の限界から,今後,大阪への外国人旅行客が増えてくるのではないでしょうか。
今年の消費動向におけるキーワードは3つ。1つ目は「芋づる需要」,2つ目は「自己アピール」,3つ目は「日本再発見」です。
「ちょい足しファッション」が幅を利かせ,なかなか服のヒット商品が出てこなかったのですが,今年はガウチョパンツとコーディガンが久々の大ヒットになりました。
ガウチョパンツとは,ガウチョと呼ばれる南米のカウボーイが着るような裾が広がった7分丈のパンツのことです。このパンツは,ゆったりとして動きやすく,ウエストや足首が細く見える効果があります。
コーディガンは,コートとカーディガンの中間で,カーディガンのように軽く羽織るニットのコートです。表がウール,裏がジャージという違う素材を使い,袖の折り返しや前を開けて裏地を見せる着こなしができます。
どちらもこれまでにない新しさが購買の決め手で,注目すべきは,これに合わせる靴や服が欲しくなるという芋づる需要が起きていることです。例えば,大変よく売れましたサイドゴアブーツ。くるぶし丈で脱ぎ履きしやすいのが特徴で,去年購入を見送った方も,今年は「ガウチョパンツによく合う」と購入をいただいております。
2つ目のキーワード,自己アピールでは,SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)に,自分の日常の一コマを公開することが当たり前になってきている背景があります。
この流れの中で,日常生活に上質や潤いを求める男性が増えていると言われています。そうした男性の1日をのぞいてみます。朝食のパンを焼くのに購入したのは,水蒸気と1秒単位の温度制御ができる2万円を超えるトースターです。焼けたトーストに塗るのはココナッツオイル。今年大ブレイクし,中元では,昨年の5倍以上の売り上げがありました。
次は,若い女性たちの自己アピール。SNSには,男装女子が数多く登場しています。リアル過ぎないことも重要で,明るい色のかつらをつけて,アニメの世界の少年っぽさを出すのがポイントだと言われています。
また,ふわふわしたかわいらしい格好をSNSで競う,もふもふ女子も増えています。
3つ目のキーワードは,日本再発見。伝統や職人技という切り口が,消費を促す要素になっています。
先ほどの当社のホテル催事で,ひときわ注目を集めたのが,江戸時代の絵師,伊藤若冲の絵柄をモチーフにした京友禅の数々でした。今日は実物をお持ちしました。若冲の菊花流水図,葡萄図をモチーフにした大作で,お値段は税込388万8,000円です。
富裕層の消費では,相続を意識してか,お金を現物に換える動きが出ています。
先月末に松坂屋上野店で開催した「金の祭典」への出品では,仏具は相続税がかからないということもあり,400万円のロウソク立てなど,仏具を中心に50点近い金製品が売れました。現物をお持ちしました。抹茶茶碗で,お値段は907万2,000円です。
目にもまばゆい商品の数々をご覧いただきながら,来年も皆さんにとりまして輝かしい年になることをお祈り申し上げまして,私の話を終わらせていただきます。ご清聴ありがとうございました。
(スライドとともに)