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2014年9月12日(金)第4,501回 例会

最近の中国事情と日本のマスコミ

喜 多  忠 文 氏

一般社団法人 大阪能率協会 常任理事
「アジア・中国事業支援室」 室長
喜 多  忠 文 

1970年名古屋大学理学部卒業,松下精工(株)入社。情報システム,資材管理,生産管理,経営企画部門に従事。’98年同社香港国際製造有限公司副社長,2000年広東松下エコシステムズ有限公司社長。’0 5年松下退社後,佛山市駐日本代表事務所を設立。現在に至る。

 中国はなぜ日本の高度成長をも凌駕するような成長を遂げることができたのか。非常にミラクルな発展をしたのはなぜか。それには,いろいろな伏線があったと考えています。

ラッキーな環境

 中国の発展に最も大きな役割を果たした人は誰かと言うと,皆さん,鄧小平とお答えになると思います。2番目に大きな役割をした人は,私は毛沢東と言っております。

 毛沢東は土地を国有化しました。これが中国の発展に大きな役割を担ったわけです。国を発展させようと思ったら,インフラの整備が欠かせません。まずは道路です。それが,土地を国有化していたことで非常にやりやすかった。

 外資系企業が中国に入ってきたときに,地方政府は借地権を売り,お金が大量に入りました。それをまたインフラに回すことができた。こういう循環があったのです。

 毛沢東のもう一つの大きな貢献があります。それは,彼がやった経済政策は全部失敗したことです。揚げ句の果てに文化大革命をやり,金持ちとか利権を持っている人がことごとく打ち砕かれた。

 毛沢東は1976年に亡くなりました。’78年に鄧小平が現れるわけですが,開放経済をやり出したとき,利権のある人がほとんどいなかったから,改革が非常にスムーズに実行できたんじゃないかと思います。

 インドネシア,ベトナム,ミャンマーなどは私が見るところ,既に立派な利権者がいっぱいいまして,なかなか政府の思うようにインフラづくりができない。結果として,ものすごい交通渋滞が起きている。中国はスタート時点で非常にラッキーな環境にあったと思います。

中国企業の3分類

 中国に対する日系企業の進出が,非常に少なくなっています。その原因は,人民元高が一つ。輸出企業にとって大きな痛手であることは間違いありません。もう一つは人件費の高騰です。10年前に比べ,最低賃金がだいたい3倍の水準になっています。

 私は広東省佛山市で5年間仕事をし,中国の発展を目の当たりにしてきました。3カ月たったら景色が変わる。中国はいっぱい大きな問題を抱えていますが,私はまだこのまま,ある程度進んでいくと見ています。

 日本のマスコミ報道は,中国からの企業の撤退にものすごく注目しています。「チャイナプラスワン」という言葉をお聞きになっていると思います。工場を中国以外にもつくろうよ,ということです。

 私は三つに分けて考えています。一つは加工貿易型,労働集約型産業です。アパレルとか,おもちゃとか。これはもう中国で仕事をすることはできません。人件費が高くなりすぎて,しかも元高で事業にならない。中国の企業でさえ海外に出ていこうとしている。

 それから輸出指向型,電機業界とか中国を起点にして輸出をメインにやっていた会社はどうでしょうか。私はまだ優位性があると考えています。中国は道路,電気,水道などインフラがほとんど先進国並みに整っています。それと,先進国を別にすると,ものづくりがまともにできる国は中国とタイしかない。裾野産業が育っている。

 三つ目は,自動車に代表される中国市場指向型企業。これはもう中国で頑張るしかない。自動車の需要が2,000万台を超え,欧州,米国,それに日本の企業がものすごい競争を繰り広げているのが現状です。

実際の姿反映した報道を

 現在,中国から日本に来る人は史上最高になっていて,7月は28万人,1~7月の累計は前年比90%超の増加です。観光客がものすごく増えています。

 一方,日本から中国へ行く人は,観光客が減っています。「中国に行ったら,とんでもない目に遭わされる」というイメージが日本のマスコミによって醸成されてきているのではないかと感じます。

 中国には「微博(ウェイボー)」というインターネットのサイトがあります。いろいろな人が書き込みをするのですが,日本賛美の意見であふれている。日本に行った人が増え,「日本のサービスはすばらしい」とか「日本は本当にきれいだ」とか,そういう書き込みが非常に多い。彼らが中国で聞かされているのとちょっと違うので,驚いてそういう書き込みをするのではないかと思います。

 私が「中国へ行く」と言ったら,「大丈夫か」と言う人もいます。確かに習近平がやっていることは私も不愉快ですが,日本の新聞は北京政府のことばかり報道する。だから,中国全体がそうなっていると思ってしまう。

 中国は報道の自由がない。共産党政権の配下の宣伝機関という位置づけだから,中国のテレビ,新聞は日本のことを良く言うはずがない。

 日本では毎月10冊ぐらいの中国に関係する単行本が出ているが,90%ぐらいは中国を悪く書いた本です。一方,新聞やテレビは別として,中国の本屋で嫌日本を探すのは非常に難しい。

 中国は巨大な国で,国内総生産(GDP)が2010年に日本をちょっと超えて,14年にはもう倍です。

 日本の発展は全世界の需要を取り込んでやらないと,日本だけではダメなのははっきりしています。中国のパワーを取り入れるためにも,もうちょっと中国の実際の姿を反映した報道が望まれます。

 日本企業のジャッジが狂わないように,現場からいろんな生の声を届けることが大事ではないかと考えています。

(スライドとともに)