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2016年3月18日(金)第4,573回 例会

地元の「文化力」-地域を活性化する文化の力-

小 島  多恵子 氏

(財)サントリー文化財団
上席研究員
小 島  多恵子 

京都市生まれ。大阪大学文学部美学科演劇学専攻。1983年よりサントリー文化財団に勤務。サントリー地域文化賞,研究助成,研究会,シンポジウム等の事務局を担当。長年にわたり地域文化の調査・研究に携わり,様々な分野の研究者と共に各地で調査研究を実施。現在,NHK近畿番組審議会副委員長,大阪商業大学総合経営学部非常勤講師(2016年4月~)。著書に『ふるさとをつくる-アマチュア文化最前線』他多数。

 サントリー文化財団で30年以上,サントリー地域文化賞の事務局を務め,全国二百数十カ所の地域の文化活動を調査研究してまいりました。

元気な地域から文化を発信

 サントリー地域文化賞は,財団創設の1979年につくられました。当時は東京の一極集中の時代。大阪から地域の文化を検証し,力づけたいという思いで,賞を創設しました。

 対象は芸術,伝統,町並み保存,様々な新しいタイプの祭などです。評価のポイントは,独自性,継続性,発展性,地域の人を巻き込んでいるかなど,5つあります。

 毎年,原則5件を検証します。たとえば,過去に大阪では6件が受賞しました。2011年の受賞は,「今宮戎宝恵駕行列」です。

 いわゆる旦那衆の文化を,今の商店街の人たちが継承した活動です。旦那衆はパトロンとして,自分たちで創造したりして,地域文化を支えてきました。

 現在でも,地域の文化活動のリーダーに多いのは,会社の経営者や自営業者の方々です。また大学を出てUターンした方などは,学歴も高く,郷土愛も強い人が多いようです。

 文化にはお金がかかります。文化で儲かることは,ほとんどありません。自腹を切ることになります。切り過ぎると出血多量です。文化への愛情やロマンのほかに,経営感覚がないと続けるのが難しいのです。

きっかけはさまざま

 地場産業の同業者同士で協力して地域の文化を育てている例として,絹織物の産地,福島県川俣町の「コスキン・エン・ハポン」があります。1993年の受賞です。全国最大の中南米音楽の祭典です。

 ここで,行われるフォルクローレ(ラテンアメリカ諸国の民族音楽)のイベントは,本場南米で祭典が開かれる街,コスキンの名前をとりました。

 フォルクローレを好きになった織物会社の方が,レコードを仲間や地元の人に聞かせてファンを広げて,祭典を始めました。地元の子どもたちが出場するようになると,保護者も学校も参加します。どんどん町ぐるみになっていったのです。

 また,青年会議所とか,商工会議所が中心になった活動もあります。2014年の受賞は静岡県浜松市と長野県飯田市の2つの県の県境での「峠の國盗り綱引き合戦」です。両市の商工会青年部が始めました。

 それぞれ,もとは小さな村。お祭というか遊び心から始まったイベントですが,今は浜松,飯田の両市長も陣羽織姿で出ています。強化資金をつけたり,広域の地域で応援するようなイベントに発展しています。

人と人, 人と地域を結ぶ

 地域文化の力のひとつは,人と人を結びつける力だと思います。その例では,’07年に受賞した北海道・壮瞥町の「昭和新山国際雪合戦」があります。

 壮瞥町は,洞爺湖と昭和新山のある観光の町です。ただ,冬は客が全然来ない。冬場を何とかしたいと,考えられました。

 スポーツ競技にするため,ルールを考え,審判制度をつくり,雪球製造機を開発しました。目標は,冬季オリンピック正式種目への採用です。雪合戦で地域がいろんな人と結びつき,地域内で仲間ができました。

 文化の力として感じるもうひとつは,人と地域を結びつける力です。沖縄県うるま市の中高校生によるミュージカル「肝高の阿麻和利(キムタカのあまわり)」がその例です。’10年受賞。

 550年前に実在した地元の英雄の物語で,舞台は1回だけの予定でした。ところが演じた子どもたちが継続を望んだのです。

 このミュージカルは,ほとんど公的助成を受けないで,父母の会が自主企画で公演しています。結成から16年で16万人以上の観客を動員し,教育界で「奇跡のミュージカル」といわれています。

 また,人を地域に呼び込む力では,高知県仁淀川町の山の中で行われる「秋葉祭り」があります。’10年受賞。

 山奥の別枝と呼ばれる地区に,二百年以上の歴史を持つ祭があります。この地区は40年間,子どもが生まれていません。限界集落です。祭を存続させるのに,神事を地区外に開くことを決めました。

 その後,祭になると,地域から出ていった人が戻ってきたり,地域外の人が協力してくれるようになりました。保存会の会長は「この祭がなかったら,この集落はとっくの昔に誰も住む人のいない,ただの山の中になっていたと思う。祭が地域を守ってくれた」と話していました。

 文化活動というものは,地域に住む人々を元気にして地域が元気になります。

 全国の10万人以下の地域の35歳から69歳までの方にアンケート調査をしたことがあります。地域文化活動をしている人のほうが圧倒的に地域への満足度と愛着が強いという結果が出ています。

 地域で人々に愛されている文化は,さまざまな力を発揮します。地元の地域の文化力が地域を活性化してくれるのです。

 大阪は,非常に活力と地元力のある地域だと思います。これからどんどん地域の文化を,新規なものも含めて生み育てていけば,まだまだ大阪の文化が元気になって,日本が元気になるのじゃないかと期待しています。

(映像とともに)