1988年故観世二十五世宗家観世左近より独立。2000年(株)山本能楽堂取締役就任。’11年公益財団法人山本能楽堂代表理事就任。同年公益社団法人能楽協会本部理事就任。当クラブ入会’09年12月。
きょうは「DO YOU KNOW NOH!」というテーマの第3回です。まず,能楽とは何かというところからお話ししたいと思います。
能楽は「能」と「狂言」でできています。能は歌劇,狂言は言語劇。合体して「能楽」と申します。
歴史から。室町時代に誕生したころは,田楽,猿楽といい,江戸末期に田楽,猿楽の能,明治になってから能楽になりました。
観阿弥,世阿弥以来,武士階級に守られてきました。江戸幕府とともに能も江戸に行き,「式楽」となります。式楽とは,儀式で使う芸能音楽のことです。
明治に危機がやってきます。幕府崩壊後,能は商人が支えてくれました。現在はユネスコ世界無形文化遺産第1号です。
能には,「シテ方・ワキ方・狂言方・囃子方」の4つの役があります。
私はシテ方です。シテは「仕手」とも書き,仕手戦と同じ字です。
ワキ方は,今は脇役という言葉のほうが有名になりました。そして狂言方,囃子方で4役になります。
シテ方には,観世流,宝生流,金春(こんぱる)流,金剛流,喜多流の5つの流儀があります。観世座,宝生座というように,昔は一つの「座」でした。
観世と宝生は上掛かり(かみがかり)といいます。能の発祥は大和の国。その後,京都で流行させたのが観世座と宝生座だったのでこう呼んでいます。奈良に残った三座が下掛かり(しもがかり)となります。
ワキ方は,下掛宝生流,高安流,福王流の三流しか残っていません。狂言方は,和泉流,大蔵流です。
シテ方は,能の主人公を演じます。神様,亡霊,女性,天狗,鬼など。この役に「面(おもて)」をかけます。
主役のほかに,ツレ,トモ,子方,地謡(じうたい),後見があります。
ツレ,トモは助演者。子方は子役。地謡は謡のことで,能の進行を謡で進めていく人です。後見は,能をプロデュースする役で,主役が倒れたら代役をする大事な役です。
ワキ方は,シテの思いを聞き出す役割をします。お坊さんの役が多い。能は亡霊が出てくることが多いので,現世とのパイプ役をつとめます。
狂言方は,能と能との間の笑劇。言葉劇の場合と,劇中に登場する「アイ」という役をします。能は歌劇なので,狂言は言葉で解説をしていると言えばわかりやすいでしょう。
囃子方は,太鼓,大鼓(おおつづみ),小鼓(こつづみ),笛,謡で,ひな壇の五人囃子です。
並び順は,どこから音を出しているかでわかります。謡は口,笛は下唇,小鼓は肩,大鼓は膝,太鼓は床の上に置いていますので,音の出る高さを右から左へ低くなる順に並べればいいのです。
全国で能楽師は1,239人います。シロナガスクジラが約2,300頭,ベンガルタイガーが約1,500頭。ともに絶滅危惧種です。その数よりも能楽師の方が少ないのです。
役別では,シテ方が一番多くて843人。囃子方201人。狂言方が137人。一番少ないのがワキ方で60人を割っています。
大阪では全部で151人。シテ方が103人,囃子方が27人,狂言方が14人,ワキ方が7人です。
能楽の表現の仕方をお話ししましょう。最初に囃子方と地謡が登場。続いてワキが名乗りという自己紹介をして座につきます。そしてシテの登場。ここまでに15分から25分ぐらいかかっています。
対話後,退場。狂言,アイ狂言が登場し説明して退場。この後,舞を舞います。(シテ方が)退場し,ワキ,囃子も地謡もいなくなります。
能楽という芸能は,始まりと終わりがわかりにくいのです。拍手のタイミングが難しい。能をご覧の際は,武士になったと思って,拍手はしていただかなくて結構です。
私の曽祖父は京都で銀行を経営し,五大両替商の一つでした。借用手形の保証人で無一文になり,現在の山本能楽堂を建てました。
現在のものは,戦災で焼けたため,皆様の寄付等々で再建したものです。楽屋もすべてLED照明,床暖房が入り,3階にはライブラリーなどもあります。
活動では,「初心者のための上方伝統芸能ナイト」で,浪曲の方などと一緒にやっています。大阪にはたくさんの芸能があり,プレーヤーが住んでいます。そこに注目して,さわりだけを見ていただく催しです。
子ども向けに,現代美術家と一緒にアートとともに能を見てもらおうというイベントもあります。
環境をテーマにした新作「水の輪」では,子どもたちと衣装をつくり,外国や近江八幡などで公演しています。本年度の社会の教科書に載せていただいたり,文化庁の巡回公演を通じて,学校の先生に向けた能のワークショップなども行っています。
また,大阪城の天守閣で,英語の解説による能の公演もございます。
能楽堂では,ワインの試飲会とか,ハラール料理,いけばなとかお茶の体験もやっています。
最後に「猩々」を謡いましょう。♪「つきせぬ やどこそ めでたけれ」。どうもありがとうございました。
(スライドとともに)