1965年生まれ。’89年博報堂入社。マーケティングプランナー,博報堂フォーサイトコンサルタントを経て2004年博報堂生活研究所に着任。未来予測プロジェクトのリーダーとして,「態度表明社会」(09年)「総子化」(12年)「デュアル・マス」(14年)など,生活者とマーケティングの未来像を発表。’15年にメディア環境研究所に着任。’16年より現職。著書に「亜州未来図2010」(03年)「ものさしのつくり方」(12年)などがある。
「若い人たちはスマートフォンをずっと見ていて,本当にちゃんと情報に接しているのだろうか」と感じられることがあると思います。今日は,若者のメディア行動を様々なデータなどで実感していただければと思います。
若者の最新のメディア行動について,我々は定量的なアンケート調査をしています。若者がどうスマホを使っているか,朝起きてから夜寝るまで一日中追いかけて撮影した映像をご紹介します。
一つ目は,写真や動画を見るスピードの速さです。(スマホで)次から次へと見て,全部をちゃんと把握し,判断をして見ている一方で,文字などは見ない,読まないと言っていました。二つ目はテレビの見方です。これは20歳の男の子が自分の部屋でテレビを見ている様子です。手元のスマホでフェイスブック,ツイッター,ラインなどSNSをしながら,目の前に置いたタブレット端末で「踊る大捜査線」を見て,その視線の先にある42型テレビで「渡る世間は鬼ばかり」を同時に見ていました。最後に,26歳のOLは歩きスマホをしながらラインで友達のメッセージに返信し,電車ではブログやファッションのサイトを見ている。空き時間が少しできると,すごい速さで返信している。非常に早く,大量に情報処理しているのが今の若者の情報行動です。
このような若者が,実際のメディアに対してどんな意識をもち,どんな行動をとっているのか,15~69歳の男女に聞いた定量調査からご紹介します。
「SNSは自分の暮らしに必要だ」の設問には,全体では31.5%が必要と答えましたが,10代男性では68.5%,10代女性では75.9%,20代女性は64.2%に上りました。
「朝起きて最初に触れるのはスマホだ」は全体では37.3%なのに,10代,20代は50%以上,これが女性なら7 割近くです。「スマホを寝床に持ち込むことがある」も全体は51.9%ですが,10代は80%以上が持ち込んでいます。「風呂場に持ち込むことがある」は,全体は1 割程度ですが,10代女性は42.6%が持ち込んでいる。ジップロックみたいなものに入れ,風呂場でSNSや動画視聴をしています。実際に数字で言うと,これぐらい差があります。
こんな行動をしている若者が情報に対してどんな思いなのか,意識をとるための質問をしました。最近はネットニュースもフェイクニュースの問題とか,オルタナティブ・ファクト(代替的事実)などが言われています。「ネットの情報だけでは,ニュースの表面的な部分しかわからない」としたのは全体では46.1%で,20代女性は58.5%です。「気になるニュースは複数の情報源で確かめる」は,全体は約6割ですが,10代,20代も全体並みかそれ以上の数字で,情報を大量に処理しているだけではなく,どこに信頼できる情報があるかをしっかり調べている意識が浮かびました。
「世の中の情報量は多すぎる」は全体の44.5%より高い数字が出ている。「世の中の情報のスピードは早すぎる」も全体は約3割ですが,それより高い数字が特に20代よりも10代に出ている。情報にすごく触れている世代ながら,情報に対する不安や,信頼できる情報はどこにあるのかとの意識が強いのです。
なぜ情報に対する不安が大きいのでしょうか。CDなど音楽ソフトの市場規模は1998年に6,000億円ありましたが2016年は2,457億円で右肩下がりです。音楽市場で伸びているのはライブイベントやフェスです。アーティストが野外などに集まるイベントは,昨年パッケージ市場を抜きました。パッケージがリアルになっただけではなく,実はスマホ上でも起きていることです。
「シーチャンネル」という20代前半の女性向けの動画サイトがあります。スローガンが「女子のための1分動画サイト」で,かわいく,きれいになるために,ネイルやヘアメイクの楽しいやり方,グルメや料理などの作り方を1分で紹介しています。日本だけで月間3億ページビュー,去年から中国と東南アジアで展開して今は月間6.6億ページビューの巨大なメディアです。今年4月に東京の国際フォーラムで「スーパーシーチャンネル」というイベントを開き,日ごろスマホの中で見ているヘアメイクやネイルがその場ででき,かわいいモデルたちが出てきて,2日間で3万人以上を集めて大成功を納めました。
スマホで情報は手に入りますが,若い人たちは,実は情報に対して不安や不信感があり,そういう情報に触れるほど,「リアルな場」の価値が若い人だからこそ上がっている。そんなことが今起きています。
結論として「スマホネイティブだからこそ,リアルな実感を求める若者たち」ではないでしょうか。我々は思春期や人生の成長期をリアルな体験で補って成長し,それからデジタルに出会った世代ですが,彼らは成長しながらいきなりデジタルで大量の情報に会う。そうするとリアルな体験の件数や回数が少ない。だからこそ,そういうものがすごく価値を持っていくのです。
もちろん,リアルであればそれだけで良いわけではありません。彼らに求められているのは「大量の情報があったうえでリアルな体験の場がある」ことです。スマホネイティブだからこそ,切実にリアリティー,実感みたいなものを求めているのではないかなと思います。
(スライド・映像とともに)