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2017年3月31日(金)第4,620回 例会

まちづくり ひとづくり

神 田  裕 氏

カトリック司祭 神 田  裕 

1958年尼崎市生まれ。’88年司祭叙階(聖職者に任ぜられる)。’91年たかとり教会(神戸市長田区)主任司祭に着任。2007年カトリック大阪大司教区・本部事務局長。’15年カトリック大阪大司教区・司教総代。

 「まちづくり ひとづくり」は大きなテーマですが,いくつか印象に残っている出来事をお話ししながら近づいていければと思います。

心にブルーシート

 阪神大震災後の火事で,長田区の西端にあったたかとり教会は焼失しました。燃えて壁がつぶれたことで,建物だけではなく気持ちの面でも壁に囲まれて地域とつながれなかった教会が,新たにスタートできるようになりました。私自身,地域に長く住みながら隣人の顔も名前も知らず,全焼で家族が全員亡くなった家もあったのに,当日は教会に類焼させないことしか頭になかった。人の命を考えられずに悔いが残る震災のスタートでした。

 教会は更地になってボランティアが寝泊まりする拠点になりました。東北や熊本の地震ではボランティアの活動も整理されていますが,阪神大震災の当初は危険な仕事も平気でやっていました。独り暮らしの高齢者が多かった長田では,電気もガスも通っていない焼け残った家で頑張っている老人がいて,あるおじいちゃんが「瓦が全部落ちて,家に雨水が入ってくるから,ブルーシート張ってくれへんか」と言うので,ボランティアが張りに行った。ところが帰ってきたリーダーは,もう絶対に行かないと。1回目は下から「こっちや,あっちや」とうるさく指示され,2回目は屋根の上まで上がってきて色々と言われたそうで,「上がれるんやったら自分で張れよ。被災者は甘えとるんちゃうか」と言うんです。

 震災後2,3ヵ月もすると被災者から「お前ら,自分のとこ帰れ」とかきつい言葉をかけられ,ボランティアも「もう僕ら,あまり関わらんほうがええんちゃうか」と悔しい思いをして,悩んでいました。そんな時,ブルーシートを張りに行った人らが「実はな…」と言うには,おじいさんに呼ばれた1回目も2回目も,すぐに屋根に上がらせてくれなかったそうです。電気もついてない暖かくもないこたつにまず入れさせられ,おじいさんが台所から出してきたオロナミンCドリンクを飲みながら,しこたま話をして,「ほな,作業やってくれるか」と言われた,と。

 各地から来ていたボランティアはそれを聞いて「自分たちは若くて力があるから,破れた屋根にブルーシートを張るような仕事をやってきたけど,本当は違うんちゃうか」「僕らは破れたじいちゃんの心にブルーシートを張りに来たんちゃうか」って言うんです。ゼロからのスタートの中で,若い人たちが自らぶち当たりながら学んでいったその言葉が印象的で,今でも忘れないですね。

東北の被災地で気づいたこと

 震災後の救援活動では,在日コリアンや中国,ベトナム人など長田に住んでいた外国籍の人たちとの関わりも一つのテーマでした。日本語の情報をベトナム語に翻訳し,印刷物を避難場や公園でテント生活している人たちに配っていましたが,「遅いな」と笑われ,怒って帰ってしまったボランティアもいました。義援金や震災の情報など行政から出されたものを翻訳するため2~3日かかる。ところがベトナムの人たちには口伝えで情報が行き,既に義援金ももらっていました。今「たかとり」が活動を続けられているのは,その時に「よかったやん」と言えた人たちがいたことです。目的は自立であり,ボランティアで自分たちが「やった感」を得るためではない。彼らがたくましかったことがわかったのは,よかった。

 東北の地震では「何か力になれることがあれば」と現地入りしましたが,大抵「いや,大丈夫ですから」と言われました。私らがあんまりしつこいので,向こうも怒って「結構です」「関西人嫌いなんです」と露骨に言われました。東北の人にとって関西は異国で,私らが大阪弁で入っていくと壁を置く。私も「せっかく思いを込めて行ったのに,二度と行けへん」と思ったけど,後で気がつきました。

 私が神戸でやってきたことは「多文化」です。文化も行動様式も感覚も違う外国の人たちと一緒に震災復興のまちづくりをしてきた。神戸が国際都市というのは,多文化でまちづくりをしてきたことの豊かさやと思うんです。それを思い出し,東北は文化が違うと改めて気づいた。「失礼やな,何でそんなこと言うんやろ」で終わっていたら,帰って行ったボランティアと同じ。同じ日本でも,多文化な感覚で互いに関わっていくことやと思いました。

多文化のまちづくり

 最後に,私の座右の書である絵本「あおくんときいろちゃん」(レオ・レオーニ作)を紹介します。幼稚園にあるような本ですが私の原点で,以前から結婚式の準備で「青と黄色が結婚して家庭をつくるというのは,実は緑色をつくっていくことやで」と使っています。

 違う文化,家庭で育った2人が一つ屋根の下で新しいものをつくっていくので,トラブルも起こる。しかし,生まれた色は変えられない。絵本では,緑は受け入れてもらえないときに涙すると,もとの青と黄色に戻っていく。緑はどちらかが染まった色ではなく,黄色は黄色で,青は青。外から見たら私たちのことは緑やと思って見てくれているというのが,この絵本の大事なところだと思います。一緒にまちづくり,ひとづくりをしていたら文化が違うので苦労しますが,そのまちは「自分たちは,私のことを青やと思ってる。あんたは黄色と思っているけど,よそから見たら実は緑に見えているよ」と。これが多文化のまちづくりの醍醐味やと思います。

 神戸はそうであってほしいし,そういうふうに震災後に歩んできました。震災を通して違う文化が出会うきっかけも与えられました。東北と関西,お互いの個性を活かし,災害に遭って一緒に歩むことで,日本の社会も混ざるのではなく,新たな緑の色が生まれてくるのではないか思います。

(スライドとともに)