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2017年2月3日(金)第4,612回 例会

人と地球と国をつなぐ国際協力の仕事を通じて学んだこと

土 居  亜希子 氏

公益財団法人地球環境センター
国際協力課 総括主任
土 居  亜希子 

1989年武庫川女子大学教育学部卒業後,紡績会社,外資系の半導体,製薬会社にて役員付き秘書を10年間勤める。2001年現センターに入社。以後,国連機関(国連環境計画:UNEP)への支援事業,途上国への環境技術移転,JICA事業,気候変動対策事業など,環境保全に関する様々な国際協力業務に従事。主な活動分野は廃棄物管理でマレーシア,ベトナム,タイ,インドネシアでの事業を担当,現在に至る。

 今日は国際協力をテーマに,私のコーディネーターとしての経験を皆様と共有し,国際協力を別の視点から考えるきっかけとなればと思っています。

大阪にある国連機関

 私が所属する地球環境センターの英語名称は「Global Environment Centre Foundation」で,GEC(ジェック)と呼ばれています。1992年に設立され,鶴見緑地の大阪本部と,東京にも事務所があります。鶴見緑地には,環境分野の国連機関UNEP(ユネップ・国連環境計画)があり,GECはUNEPを支援するため設立されました。国連機関のUNEPが大阪に設立された契機は「自然と人間の共生」をテーマに’90年に開かれた国際花と緑の博覧会です。大阪は花博の精神を後世に残し,大阪が克服してきた環境問題,知見・ノウハウで国際貢献したいとUNEPを誘致しました。

 GECの事業内容はUNEPの支援と,地球環境保全に関する事業,例えば気候変動に関する情報収集,提供,研究調査,環境の専門家の育成のほか,途上国への技術協力,人材育成など様々な国際協力事業をしています。

 私にとっての国際協力とは,ひと言で言えば人と人とをつなぐ「コーディネートの仕事」です。人だけではなく人と組織,都市,国をつなぎ,その間のギャップを埋め,パートナーシップを構築するお手伝いをする仕事です。

 国際協力を実施するうえで,国際機関やNGO/NPO,政府・自治体,大学,市民,民間企業など様々なアクターがいて,それぞれ得意分野と役割があります。コーディネーターとしていつも意識しているのは各関係者の関心事はどこか,イメージすることです。国・自治体なら国民・住民が安心して暮らせる住環境の提供,民間企業なら利益や海外市場開拓などと,関心事は違います。我々は各関心事に視線を合わせ,皆が一緒の方向に行けるよう調整してつなぐ,大切な役割を担っています。こういうことができる機関は関西では非常に少なく,これがGECの強みであり,特徴です。

 私が関わった国際協力の仕事をいくつかご紹介します。1つ目はUNEPの支援事業です。UNEPの本部はナイロビで,5部門のうち1部門がパリのDTIE(技術産業経済局)にあり,その下部組織が大阪にあるUNEP IETC(国際環境技術センター)です。UNEP IETCの主要テーマは都市の廃棄物管理で,支援事業では,途上国と世界から都市の行政官,技術者,専門家を招いたワークショップや会議を開催する際の事務や調整をしています。

世界遺産の環境危機

 2つ目がベトナム・ハロン湾での草の根プロジェクトです。世界遺産のハロン湾周辺では,大規模な石炭の露天掘りが行われ,廃水が湾に流れこんで環境危機にあります。エビの養殖でマングローブ林が伐採され,環境破壊も起きています。世界遺産に登録されてからホテルや観光船が非常に増え,ゴミや排水の処理が全く追いついていません。我々は大阪府立大学の先生と一緒に,3年間のプロジェクトを立ち上げました。ハロン湾ではプラスチックの浮きの上にいかだをつくった家が集まり,当時約300世帯,1,500人が漁業や観光業を収入源に暮らしていました。我々は住民意識啓発や教育に重点を置き,ゴミ対策,排水対策,環境リーダーを育成する活動を行いました。

 小学校では府大の先生が環境教育の授業をしました。排水対策として台所の洗剤を少なくするアクリルたわしを主婦に伝える活動のほか,府大と現地の学生が一緒にマングローブの植林イベントも行いました。

 一番大切だと感じたのは,協力関係を築くことです。言葉や文化も風習も違う者同士が対話を重ね,相手側のニーズや意見を尊重して理解し合う。これを繰り返して共通のビジョンが生まれました。「美しい環境を次世代へ残したい」という気持ちを共有できた時,初めて一体感が生まれ,プロジェクトが非常にスムーズに進みました。3年間のプロジェクトで,関係づくりに1年半かかりました。

国際協力の醍醐味

 次はマレーシア・ペナン州との連携事業です。GECは,ペナン州がUNEPの事業でエコタウンのパイロット都市に選ばれたことを契機に2004年から今まで12年間,連携事業を続けてきました。ここまで連携できた理由に,ペナンを率いる2人のトップリーダー,スブランプライ市長とペナン州の環境・福祉大臣との出会いがありました。2人は非常に環境に熱心でリーダーシップがあり,国連の会議や国際会議などでペナンの取り組み,ニーズをPRしました。廃棄物管理の取り組みでは,世界の都市の行政官や技術者をペナンに呼び,現場での官民連携の取り組み,コミュニティーレベル,学校,病院,様々な取り組みを見てもらう研修を行いました。現地の方は自分のノウハウを惜しみなく参加者に教え,非常に実りある研修となっています。

 アジアの中でペナン州が先行している理由は,政治が強いリーダーシップでイニシアティブをとり,関係者を巻き込んでいる。産学官民が連携できていて市民の環境意識も高い。私はここで10年以上事業をして,国際協力の醍醐味,面白さを体験しました。私は国際協力や環境の専門家ではありませんが,ここまで続けてこられたのは,この仕事が好きで,楽しく,人との出会いが私にとって価値あることだと思っているからです。これからも一人一人の出会いを大切に,この仕事を続けたいと思っています。

(スライドとともに)