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2016年12月2日(金)第4,605回 例会

子どもが売られない世界をつくるために

草 薙  直 基 氏

NPO法人 かものはしプロジェクト
広報・ファンドレイジング部担当
草 薙  直 基 

1986年生まれ。東京都立川市出身。2006年学生時代にベトナムを訪問した際に貧富の差を目の当たりし,そのような現実をなくしたいと世界の不均衡をなくす活動を志す。大学卒業後,一般企業に勤務した後に「かものはしプロジェクト」に入職。現在に至る。

 「かものはしプロジェクト」の広報として,子どもが売られる問題を国内のいろいろな方々に伝える仕事をしています。女の子たちの性的問題ゆえに日本のメディアが取り上げづらい傾向があり,本日のようにいろいろな場で講演し,直接お話をして皆さんに知っていただく活動に力を入れています。

人身売買の実態

 最初に子どもたち,主に女の子たちが売り飛ばされて性的な行為を強要される売春宿の中の映像を見ていただきます。2003年のカンボジアの映像で,映っている女の子は5歳と9歳です。小さい子しか性の対象にできない児童性愛者の大人がいるため,年齢が一桁でも被害に遭っています。カンボジアの売春宿で仕事をさせられていたあるベトナム人の女の子は,出稼ぎ先で「カフェの仕事がある」とだまされて連れてこられました。彼女がニュース番組のインタビューに応じた際,「1日どれぐらいお客さん取らされたの?」との質問に「too many」(多すぎて覚えていません)と答えました。1日に15人とか20人の相手をさせられているのです。世界にはこのような問題が依然として存在し,我々はこの問題をなくすために日々活動しています。

 被害に遭っている子どもたちは統計上,毎年180万人と言われます。世界に様々な社会問題があるなか,かものはしプロジェクトは子どもが売られる問題以外は扱っていません。理由は,被害に遭う子どもたちの心と体をともに大きく傷つける問題だからという一言に集約されます。

 彼女たちは当然ながら,最初は泣き叫んでお客さんの前で抵抗します。そうすると売春宿のオーナーが女の子を別室に呼び寄せ,暴行を加えます。そういう行為が繰り返されると徐々にお客さんの前で抵抗できなくなります。日に日に体にあざが増え,気持ちもすさんでいきます。運よくレスキューされて村に戻っても未来に希望を見出せず,自ら命を絶つ子や,エイズなどの感染症で命を落としてしまう子が現在も多数います。

カンボジアでの取り組み

 これだけ複雑で深刻な社会問題を,有給職員が20人以下の日本の小さなNPO法人がどうやってなくそうとしているか,我々の活動内容についてお話しします。大きく2つのアクションを行っており,1つ目は,子どもたちが農村から出稼ぎに行かなくてすむ状況をつくる活動です。かものはしプロジェクトの活動は’02年,状況が最も深刻と言われていたカンボジアで始まりました。貧しい農村地帯でイグサの雑貨商品をつくる「コミュニティーファクトリー」という工房を経営し,家計が苦しい家のお母さんや,被害に遭うリスクがある10代後半の女性を雇用しています。収入があれば出稼ぎに行く必要がなくなり,結果的に彼女たちや子どもを守れます。

 2つ目に,売春宿のオーナーやお客を自由にさせない活動として,カンボジア現地の法執行の整備,警察支援をしています。カンボジアは国のお金がほとんど軍事費に使われ,警察をトレーニングする十分なお金がありませんでした。警察の能力が落ち,法律がわからないので何が悪いことかわからない警察官や,悪いことをした人を見つけてもどうしていいかわからない警察官がたくさんいたのです。

 そこでカンボジアで警察を統括する内務省と一緒に,警察官の能力向上に努めました。警察官が法律を勉強する研修費を提供したり,実技のロールプレイングのモデルを考えたり,そのプログラムの資金提供を行いました。その結果,’01年から’10年までの10年間で,カンボジア国内で性犯罪者の逮捕数を右肩上がりに伸ばすことに成功しました。そして,日本と同様に抑止力が徐々に働くようになっています。売春宿のオーナーが「自分も捕まるかもしれない」と考えてビジネスをやめるなどの状況ができており,被害に遭う子どもたちの数も減らすことに成功しています。

 ’12年からは南アジアのインドに活動の場を広げました。インドを選んだ理由は,人身売買の被害に遭った女の子たちの社会復帰が非常に難しいからです。女性蔑視の風習が根強く残り,さらに性産業に関わった人は,被害者であっても体を汚した,「人」ではない「物」として見る風習があります。インドは被害者の母数が多いうえ社会復帰が非常に困難で,精神的に本当にボロボロにさせられた女の子たちがとても多いことがわかってきました。インドでは,女の子たちをだまして売春宿に連れていく「トラフィッカー」の有罪判決率が著しく低く,現地のNGO団体とパートナーシップを組み,トラフィッカーの有罪判決率を上げる活動を行っています。

ともに行動を

 この問題を知っていただいたところから,行動するところまで繋げていただけると非常にありがたいです。大切な方に「世界にはこんな問題が根強く残っている」と情報をシェアしていただくことも立派なアクションです。もう2つ,参加の方法を紹介します。1つ目はサポーター会員として応援していただくことです。月々1,000円からかものはしプロジェクトを応援してくださる方をサポーター会員と呼んでおり,日本国内に4,251名の会員がいます。2つ目は講演会を企画していただくことです。日本国内のいろいろな方々にこの問題を知っていただくため,今後も講演会を実施したいと考えています。カンボジアで成果を出せたように,インドでも重要なところにフォーカスを当てて継続的に活動すれば,着実に成果を出していける。あきらめるつもりはありませんし,活動は継続しますので,我々の動向を見守っていただけるとありがたいです。

(スライド・映像とともに)