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2016年9月2日(金)第4,594回 例会

日本の子どもの貧困と学習支援の効果

渡 辺 由美子 氏

NPO法人キッズドア
理事長
渡 辺 由美子 

千葉大学工学部出身。大手百貨店,出版社を経て,フリーランスのマーケティングプランナーとして活躍。イギリス滞在中,現地では社会全体でどんな層の子どもも育てることを体験。その体験をもとに2007年,任意団体キッズドアを立ち上げる。’09年内閣府の認証を受け,特定非営利活動法人キッズドアを設立。また『内閣府 子供の貧困対策に関する有識者会議構成員』としても活躍。主に貧困層における子どもの教育支援に特化した活動を展開している。

 「キッズドア」を2007年に東京で立ち上げ,日本の子どもの貧困に取り組んでおります。

 実は,日本ほど子育てと教育にお金がかかる国はありません。親の収入が少ないと,子どもが十分な教育を受けられずに進学や就職で不利になり,子どもたちも収入の高い職に就けずに貧困になってしまいます。離婚や商売の失敗,リストラなどで一度貧困に陥ると,子ども,孫の世代もずっと貧困から抜け出しづらくなる「貧困の連鎖」が広がっています。

先進国の中で際立つ貧困率

 日本の子どもの貧困率は16.3%,およそ6人に1人が貧困とされています。34カ国が加盟するOECDの平均が13.3%ですので,これは非常に高い割合です。アメリカやヨーロッパの主要国の中では上から4番目ぐらいです。どのような基準で調査しているかというと,その国の国民の所得の一番低いところ,当然0円から高いところまでを並べていき,真ん中の値をとって,その値の半分以下の年収で暮らす方たちを貧困としています。最新の調査では,1人当たり122万円以下,4人当たりだと240万円ぐらいか,それ未満の年収で暮らしている方たちです。122万円がマックスですので,それ以下の人がいっぱいおります。多くは母子家庭ですが,一人親家庭でみると,54.6%にまで跳ね上がり,2人に1人は貧困となります。これはOECDの中でも最悪な数字です。

 キッズドアでは,教育にお金がかかるという日本の現状を受け,低所得の学力が低い子どもたちを集めて勉強を教えています。なぜ教育にお金がかかるのか。単純な話です。税金を教育に使っていないからです。国が教育に投じている支出割合は3.4%。要は税金の3.4%しか教育に振り分けておらず,OECDのなかでも日本は毎年最下位です。

家で勉強できない子どもたち

 「保護者の所得と学力テストの関係」に関するグラフを見てください。上が所得の高い1,000万円以上で,下が所得の低い世帯ですが,きれいに比例しています。所得が高いとテストの点がよく,低いとテストの点も悪い。年収の高い世帯に知能指数が高い子どもが生まれるわけではないので,どうしてでしょう。下のグラフは「家庭での学習時間と保護者の年収」ですが,年収1,000万円以上の家の子どもは,小学生のうちから8割ぐらいが家で毎日1時間以上勉強しています。逆に年収の低い家の子どもは30分も勉強しない子が7~8割。全く逆転しています。

 どうしてそうなるかと言いますと,いろいろなことが欠けているんです。例えば,少ない年収でアパートを借りるので非常に家が狭い。勉強部屋がないし,勉強机もない。家にあるのは唯一,御飯を食べるテーブルなので,そこで勉強しようと思うと,家族がテレビを見ているので,なかなか受験勉強ができない。去年私どもが学習を見た高校生ですが,スタッフが「渡辺さん,この子はぜひ大学に行かせてあげたい」と言うので,理由を聞くと,「お盆で勉強してるんです」って言うんです。家で教科書を広げるスペースがないので,布団の上にお盆を置いて問題集と参考書を開いて勉強するということでした。

 学習会は朝から晩までやりますが,お昼代は100円しか持ってこない子どもがいます。コンビニへ行って10円,20円の駄菓子を買って,それでお昼は終わりなんです。当然午後の勉強はお腹が空いてもちません。おやつを出したりとか,家にお米を送ったりとか,そういうこともしています。

 こんな切ない事例もありました。母子生活支援施設に12月に学習支援に行ったときのことです。小さいケーキを買ってささやかなクリスマスパーティーを開きました。すると,小学2年生の子どもが生まれて初めてだったらしく,途中,トコトコと壁のほうに行って,「これって現実かなあ」ってつぶやいたんです。誕生日やクリスマスを祝ってもらえない子どもがたくさんいるんです。

個別指導で学力アップ

 手計算ですが,15歳の1学年だけをとっても,子どもの貧困を放置しておくと,財政コストが1.1兆円増え,GDPはマイナス2.9兆円。1学年だけで4兆円なので,18歳までとすると40兆円ぐらいです。かわいそうだという問題ではなくて,国全体としても非常に重要な課題です。

 東京では昨年,28会場で約1,000人のお子さんを見ました。お陰様で今年は約40教室で開催しています。中心は受験対策のための授業です。個別指導で一人ひとりの学力に合わせて勉強を教える「寄り添い型個別指導」を展開しています。何がいいかと言いますと,学力が上がるだけでなく,コミュニケーション能力が身につき,「やっぱり大学に行きたい」と前向きに思う子どもが出てくることです。

 日本の最大の課題は,子どもの貧困率が上がり続けていることです。どんな優秀な子でも奨学金を借りては大学に行けない。年収100万円の家の子に毎年100万円借金して行けるよと言われても,そりゃあ行けない。昨年のことですが,学年1番の成績の子が「私,大学行かないんです」と言って,商業高校を選びました。頑張っている子どもたちが報われないことはおかしいので,給付型の奨学金をつくってくださいと声を上げています。

 大阪でも大変なお子さんたちがいっぱいいると聞いております。少しでもお手伝いができればと思っております。今日は貴重なお時間をいただき,ありがとうございました。

(スライドとともに)