1951年神戸生まれ。’64年灘中学校入学,’70年灘高校卒業,同年東京大学(理科Ⅰ類)入学,’77年東京大学大学院工学部精密機械工学科修士課程卒業。同年科学技術庁入庁。’86~’90年IAEA(国際原子力機関)職員,2002~’04年内閣府科学技術政策総括担当参事官,’04~’06年内閣府沖縄政策担当大臣官房審議官,’08~’10年文部科学省科学技術政策研究所長,’10~’14年東京理科大学特命教授,’14年~現職。
科学技術庁で科学技術基本計画の作成を手がけてきました。一番苦労したのはエビデンスベースの科学技術政策でした。過去のデータや内外の調査結果を基に戦略をつくり,日本全体の科学技術レベルの向上を中心にやってまいりました。今日はそういうデータについてお話ししようと思います。
第5期の科学技術基本計画が今年4月からスタートしました。一番の目玉は,非連続的なイノベーションを生み出す研究開発を行い,新しい価値やサービスが創出される「超スマート社会」です。一番の技術は「IoT(Internet of Things)」で,その際に重要になるのはロボットとか,センサーとか素材,技術です。
政府研究開発投資の総額を5年間で26兆円と打ち出していますが,日本の場合は約80%が民間の研究開発投資ですから,5年間で100兆円ぐらいの研究開発投資を行う話になります。もちろん,この研究開発投資には人材の人件費が入っていますので,優秀な人材を輩出していかないと,うまくいきません。
こういうことをやっていく上で何が一番問題かというと,日本とアメリカの場合でIT人材が違うんです。日本は「守りのIT投資」,アメリカは「攻めのIT投資」と言われ,日本はITによる業務の効率化,コスト削減,セキュリティー技術の向上に人材を注ぎ込んでおり,日本のIT人材の3割から4割は文科系と言われています。アメリカはITを活用した新しいビジネスモデル,ITによる製品開発,ビッグデータ分析による新しいビジネスをつくっていこうという攻めの投資で,数学や統計に優れた人が一番給与をもらっています。
サイエンスマップというものをつくりました。これはどう見るかというと,日本の非常に優秀な引用度数の高い論文の山が積み重なっていますので,それを空の上からながめている感じです。(スライドの)赤いところほど高いので,そこのところは日本が世界に比較して非常に優秀な論文をたくさん輩出している分野だということが分かる絵です。関西の研究人は非常に張り切って頑張っていて,いい実力を出している。この後,山中先生の論文が山のように生まれてきますので,関西の論文は世界的に見てもいいところに位置している。ノーベル賞自体も引用度数で評価をしますので,ノーベル賞が関西に多いというのもこういうところから出てくるわけです。
ここから教育の話に移りたいと思います。日本の教科書は世界でも一番進んでいるほうですが,一方で困っていることもあります。アメリカ,ヨーロッパのトップレベルの研究者に日本の研究者・技術者について意見を聞くと,「日本の教育システムは,学生が独力でものを考えるようになっていない」「日本人研究者・学生は,コミュニケーション不足が目立つ」「現代の重要なコミュニケーションツールであるブログに日本人研究者が登場しない」という特徴があげられました。また,「日本は文化的には優れているが,英語の研究環境がないため,留学生は科学技術の研究先には選ばない」と言っています。
国際的に通用するためには,相当な英語力を持った研究者を育てていくことが重要です。もちろん精神力と体力,それから物理,化学,数学力とともにコミュニケーション能力(国語と英語)も大切です。研究計画の作成や研究の議論は今や英語でやりますので,早く対応して,さらに理解ができないといけない,自分の意見もしっかり通さないといけないというのが現状です。神戸でスタップ細胞の事件がありました。ああいうのは論外ですが,実は研究者の世界は結構厳しく,他人の論文を自分のものにしてしまうという人も出てきております。1回やると,その後信用してもらえなくなりますので,正義感と品格は非常に重要です。
私は神戸市立青少年科学館の館長を2年前からやっております。入場者は去年より2万人以上伸び,36万人入っております。一番力を入れているのは,子どもの遊び場というよりは,大人,はっきり言えば高校生,中学生以上の科学リテラシーを高め,科学への投資や科学者の育成が重要だと理解してもらうことに力を入れています。
これは,科学館の中で一番人気の「時空ホッパー」です。大きなスクリーンをつくり,ジャンプすると画面の中に飛び込んでいって,宇宙の果てや地球の一番内部まで行けたり,恐竜時代にさかのぼれたりと,一番のアトラクションになっています。行く途中で科学的知見を高めることができます。これは今年つくった展示室ですが,「神戸の科学技術」,「スーパーコンピュータ展示」,「iPS医療展示」を導入し,薬やがん治療など,最新の医療を中心とした展示がされています。
日本の一番の問題点は,中学生になると,理科や数学が好きな生徒が,受験勉強もあってぐっと減っていきます。一方で,これは東北の人口2万人ぐらいの市ですが,ほとんどの小中学生が科学館に行っていて,全国平均と比べて科学好き,理科の勉強が大切だという子どもが増えていっております。
私どももこういう効果を必ず起こしているはずだと思い,日本のすそ野を広げ,日本全体の科学技術のレベルアップのために,優秀な研究者をいかに育てていけるかに今後も努力していきたいと思っておりますので,よろしくお願いいたします。
(スライドとともに)