京都ノートルダム女子大学卒業後,吉本興業(株)に入社。故・横山やすし氏のマネジャーを皮切りに,宮川大助・花子,若井こずえ・みどりなどを次々に売り出した「伝説の女マネジャー」として知られる。2003年3月に研修会社の志縁塾を設立。経済産業省,神戸学院大学などで,未来の講師を育てる役割を担う。’13年法政大学大学院・政策創造研究科入学,’16年同卒業。現在,人材活性プロデューサーとして,企業・自治体を中心に「自立・自走」の人づくりを精力的に支援する。
私の社会人としての出発点は吉本興業です。吉本興業では「生きる力」を叩き込まれました。自分で考え,自分で行動する力です。吉本では,新人は皆売れているタレントのマネジャーから始まります。「横山やすしは今まで男性のマネジャーが続いたことがないから,女のマネジャーを付けてみよか」ということで,私は横山やすしさんと出会いました。
横山やすしさんほど,自分に甘く他人に厳しい方はおられませんでした(笑)。私はとことん振り回されました。空港で待ち合わせると,なかなか来ない。ギリギリになって前のお寿司屋さんから出てきます。「お前アホか?じっと待ってんねんやったら犬と一緒や。ウソでも前の寿司屋をのぞいてみようと思わへんのか」。確かにその通りです。次に行った時,寿司屋をのぞいて,「いてない,いてない」と待っていました。すると向こうからやって来て,「お前アホか!何でワシ,毎回寿司食べなあかんねん!うどんかて食べるやろ」。自分を正当化させたら天下一品の方でした。
こうも言われました。「お前な,答えは1個しかないと思うな。これからお前らは,人に仕掛ける人間にならなあかんねんやろ。だったら,こんな行動,あんな行動に出るかもしれへんと,相手の行動パターンを3パターンぐらい考えろ。常に3パターンぐらい考えてたら,勘が働く人間になるねん!」
今,この「勘」というのがキーワードになっています。どこの会社も,勘が働く人間を作ってほしい。ダイバーシティ,グローバル化という時,勘が働かないとうまくいかない事は多い。勘が働かないとコミュニケーションがとれない。人の心をくみ取る力は,やっぱり勘なんです。私たちは相互理解,会社の中で上司や部下を理解しようというのを一所懸命にやっています。
なぜ,私はこれをしようと思ったのか。私は,25歳で吉本興業を結婚退社し,27歳で企画会社を始めました。順調に社員数も売上も増えましたが,21年前の1月17日に阪神大震災が起きました。部下の無事を全部確認した後,連絡のつかない神戸のお客さんの所まで歩いて行くと,たった1メートルの道を挟んで,こっち側は全部全壊で,住んでいた人も亡くなったらしい。そっち側はそのまま残っている。あの景色を見た時,私は31歳にして初めて自分の脳みそが動き出しました。何でこっち側の人は死ななきゃいけなくて,そっち側の人は残ったんだろう。命の使い方・・。生まれて初めて「使命」という言葉と向き合いました。
その時に出てきた言葉は「心の元気」です。自分の心が元気じゃないのに,いい仕事はできない。自分の心が元気じゃないのに,本気で人の面倒は見られない。感情や性格はそんなに簡単に変わらないけど,行動はいくらでも変えられる。だから元気なうち,動けるうちに,行動を変えるヒントを一人でも多くの人に伝えたい。阪神大震災後,お金も仕事もなかったけど,そんな時でも神戸の社長は皆,笑わせてくれました。笑ってるうちに元気になったんです。笑われると笑わせるは違います。笑われるのは恥ずかしいことかもしれないけど,笑わせるのは相手を元気に,笑顔にする。だから私は,上司を笑顔にできる人間,部下を笑顔にできる人間,仲間を笑顔にできる人間をつくりたいと思っています。
今,企業から多い発注は「縦横斜めでコミュニケーションを取れる人間にしてくれ」ということです。研修後のアンケートを見ると「言っている事が部下に伝わらない」「上司が何を言っているのかわからない」というのが非常に多いです。
どれくらい隔たりがあるか。ある大阪の会社で電話が鳴って,部長が「お前,電話とれや」と新入社員に言うと,「とっていいんですか?」。彼らは,家では非通知の電話はとるなと教えられているんですね。その電話は,たまたま非通知だったんです。想像以上に,今の子たちは電話をとるのが苦手です。他人を通す経験をしておらず,わからない人の電話に出るのが恐いんです。
また,うちの会社で20歳の大学生に「郵便出してきて」と20通の封書を渡したら,2日後,全部戻ってきました。見たら切手を貼っていない。「えっ,切手を貼らないといけないんですか・・」。彼女はメール世代です。何がわかっていて,何がわかっていないかをすり合わせる為にも,コミュニケーションは必要です。私たちは企業に入り,色々なコミュニケーションのトレーニングや研修をさせてもらっています。
人生の一番のリスクは,やり残したことを持って死ぬことです。私は50歳の時に,もう一回勉強してみようと,法政大学の大学院に行き直しました。すると「俺,70になったけど,高校しか出てへんけども,やっと息子に会社を譲ったから来たんだよ」など,世の中には学び直している人が大勢いました。
私は父親も弟も医者です。人の命なんて本当にはかない。縦の長さは神様が決めていますが,人生の幅は自分で何とでもできる。せやな,俺,まだまだやってない事,やれる事あったよな,比べなあかんのは人とちゃうな,比べなあかんのは昨日の自分やったな,昨日より笑ってるかな,昨日より学んでるかな,昨日より動いてるかな――。本日の話が,そんなきっかけになったら嬉しいです。ありがとうございました。