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2018年9月28日(金)第4,688回 例会

切らずに治すがん治療
大阪重粒子線センターについて

髙 杉  豊 氏

公益財団法人 大阪国際がん治療財団
理事長
髙 杉  豊 

1968年大阪大学医学部卒業。’71年大阪府立病院泌尿器科。大阪府保健予防課長,同環境保健部長,大阪府立病院長兼府健康福祉部医療監などを歴任し,2003年に大阪府副知事に。’08年地方独立行政法人大阪府立病院機構理事長。’12年公益財団法人大阪府保健医療財団理事長。’17年公益財団法人大阪国際がん治療財団理事長兼任。

 重粒子線というとちょっと耳慣れない方もいらっしゃいますが,放射線の最先端の治療です。先日,国立がん研究センターが発表した中で,推計ですが,今年もがん患者さんが新規に100万人を超えてくるというデータが出ました。高齢になるほどがんの発生は増えてまいりますが,ちょうど皆様方は,がんのなりごろという年齢だろうと思います。治療も随分進歩してきておりますが,その中での特異な治療法として重粒子線のご案内をやらせて頂きたいと思います。

粒子線治療とは

 放射線療法は粒子線と光子線に分かれます。光子線(X線,ガンマ線)は従来一般的にやられているもの。粒子線は,陽子線と重粒子線がありますが,要するに水素とそれ以上の重みのある原子核を持ったものを使っての治療ということで,陽子線は水素を,重粒子線はそれより重い炭素を使って治療をしようということです。陽子線は質量が1,炭素は質量が12という部分で,粒子をイオン化してスピードを上げて患部に放り込んでいくやり方です。

 X線と粒子線の大きな違いですが,われわれの体にⅩ線をかけて治療を始めるとなると,一番表面,皮膚の表面で一番線量が多くなり,それからだんだん深く深くいくに従って線量が減ってくる,そしてがん病巣にいくということですが,その間に大部分のエネルギーは落ちていく。ところが,陽子線と重粒子線は,皮膚の表面ではエネルギーがあまり放出されなくて,がん病巣に当たって急速にエネルギーを放出し,そしてほとんどエネルギーがなくなってそこから先はいかないという形,こういう特徴を「ブラッグピーク」と言っておりますが,このような性質を使ってがんをやっつける。ですから,狙い撃ちができるということになります。

 がんを殺す力,これを生物学的効果と言っていますが,陽子線とX線はそんなに差はないのですが,重粒子線の場合はX線の3倍。重戦車みたいなもので,直接DNAを破壊してしまうものですから,どんながんにもまずは効くという形になります。重いだけボーンと遠くまで飛んでいく,あまりふらつかない。焦点が非常にいいと言えます。がん細胞の周囲約2mm以内にほとんど集中できます。ですから,重要臓器が周囲にあったとしても,あまり障害を起こさないで集中的にたたくことができます。

 回数で見ていきますと,肺がんの場合は陽子線,あるいはX線でやった場合も,大体40回弱で,8週間近くかかって治療を行っておられます。重粒子線は,肺がんの場合は1回で済みます。実際の治療時間は照射そのものは10分ぐらい。1時間ぐらいで全体が済んでしまいます。ですから,ちょっと会社を半日休んで,すぐに帰って仕事ができるという状況にもなるわけです。こんな話をある人にしていたら,その人はヘビースモーカーで,「そんな手軽にがんがなくなるのなら,安心してタバコが吸えるぜ」とえらい喜んでおられたのですが,それはちょっと違うのではないか,と思いますけども。

ほとんどのがんを治療

 重粒子線がん治療の特徴ですが,がん細胞の破壊力が強いということで再発が少ないということ。がん細胞へのピンポイント照射で,がん細胞の周囲の正常細胞への影響が少ない。がん細胞が非常にいびつな格好をしていたとしても,それをなぞるようにやれますので,どんな形の形態でもやっつけることができる。手術が困難な場所にあるがんも治療が可能。それから治療には麻酔が全く要りませんし,痛みというのもほとんどありませんので,例えば心筋梗塞,あるいは心臓が悪くて麻酔をかけるには問題があるとか,肺機能が非常に悪くて手術には耐えにくいというような患者さんに対しましてもほとんど問題なく,ベッドに横になれる方であれば可能。皮膚に発赤したりしないし,痛みも全然ありません。治療期間と治療時間が短いので,日常生活をしながら短期間に治療が完結していく。これが特徴です。

 ほとんどの固形がん,塊としてできるがんが治療できるのですが,できないものは胃がんと大腸がん。これに関しては勝手に動いてくれるものですから,焦点が定まらないということで,そこに照射するわけにいかないということです。

 頭蓋底腫瘍,鼻,副鼻腔,口,唾液腺などにできるがん,前立腺がん,骨軟部腫瘍に関しては,この4月からすべて保険の適用になりました。治療費ですが,他施設の場合,技術料として先進医療部分はどこの部位のがんでも自己負担314万円。先進特約の保険で対応できます。

都会のど真ん中

 国内で今実際に治療をやっているのが5ヵ所。そういった中で,6ヵ所目になる我々の大阪重粒子線センターがいよいよ10月16日から実際の治療を始めます。大阪府庁の隣,警察本部との間,後ろに大阪国際がんセンターが控えて,前が大阪城公園ということで,大変見晴らしのいい一等地。世界最小というか,一番最新の施設にいたしました。都会のど真ん中にできたというのは,非常にコンパクトにできたということが大きなことです。

 我々のところは外来治療しかいたしません。紹介を受けた患者さんを,診察券も大阪国際がんセンターと共通になっておりますので,データをお互いに認識しながら,最良の治療はどれかということをやって,必要ならば我々のところでやる,あるいはがんセンターでお願いすることもあるという状況です。

 今,100人を超える患者さんの予約を頂いております。これから実際に始めるとまだまだ増えてくるだろうと思っておりますが,できるだけ皆さん方の期待に応えるべく努力したいと思います。

 (スライドとともに)