1972年3月生まれ。青山学院高等部卒業,上智大学理工学部卒業,東京大学大学院情報学環産学連携教育プログラム修了。グローバル企業での幅広い研究開発,事業経験を生かして現在,(株)カプコンでeスポーツ事業を統括。 同社常務執行役員,同社アメリカ支社,ヨーロッパ支社取締役。
今から9年ほど前,大阪RCで弊社会長辻本より「創意工夫の経営」ということで,ゲームとワインの話をさせていただきました。本日は「eスポーツ」をテーマに,「歴史」「ビジネス概要」「将来性」「成功のカギ」についてお話をさせていただきます。
まず歴史についてです。カプコンは大阪で創業して約36年。今から32年前,1987年に発売した「ストリートファイター」というゲームを皮切りに,世界的な大ヒット作品を生み出してきました。世界中にオフィスがあり,ロンドン,パリ,ハンブルク,サンフランシスコ,ロサンゼルス,香港,台湾とグローバルに展開し,カプコンの売上の約8割は海外からの売上になっております。そのほとんどのゲームを大阪で作っています。大阪からグローバルに発信している,それがカプコンの大きな特徴です。
今から30年以上前に,両国国技館で弊社主催の大会を開きました。このような形で展開し続け,現在約30ヵ国でeスポーツの大会を開いております。なぜ急に「eスポーツ」という言葉が出てきたのでしょうか。そこには,IT技術やネットワークの進化があります。
20年,30年でどう変化したか。世界で数千万人が同時に映像を見ることができるのがeスポーツのすばらしさです。アメリカのスポーツチャンネルESPNでも「ストリートファイター」が取り上げられたり,イギリスのBBCでは,最新のテクノロジー,VR(仮想現実)とAR(拡張現実)などを活用して番組を放送したりもしています。通信環境の向上によってオンライン対戦ができるようになり,ネットの動画配信で,テレビ局でなくても,個人でも映像を配信できる時代になりました。
ここで,「eスポーツ」の言葉を定義したいと思います。従来は,ゲーム大会,デジタルのゲーム大会というくくりでした。しかし,時代が進化し,競技性のあるデジタルゲームに,興行や映像配信を含めたリアルスポーツビジネスのノウハウ,エッセンスを加えたものが現在のeスポーツとなっています。
続いて,ビジネス概要について数字を交えてご説明します。2017年のeスポーツの売上構成は,放映権で95ミリオンドル,広告収入,スポンサー収入といろいろあるのですが,大きく75%ぐらいが,ゲームのブランドに対する収入です。一方,’18年になると,放映権だけで約80%以上の伸びを示しています。ここが非常に興味深いところです。今までゲームの放映権収入は非常に微々たるものでした。しかし,eスポーツの人口の伸びに比例して,放映権の売上が大きくなってきています。
どんなゲームがあるかを簡単に説明します。もう何十種類も何百種類もあります。大きく分けるとパズルゲーム,レーシングゲーム,格闘ゲームなど大体10に分かれ,弊社は格闘ゲームで世界No.1を獲得しております。
昨今話題になっているオリンピックでも,どのゲームが種目に採用されるか,されないか。やはりこれだけの数から1つ,2つ選ぶのはなかなか難しいです。先日,弊社会長とスイスのローザンヌに行き,IOCのトーマス・バッハ会長と様々な議論をしてきました。バッハ会長は「オリンピックの価値は多様性。何がeスポーツと一緒にできるかを考えていきたい」と話し,将来のオリンピックを模索していく考えを示しました。
スポーツ業界とゲーム業界が集まり,これだけ真剣に様々なことを議論する機会というのは今回が初めてでした。オリンピックは選手も視聴者も高齢化が進んでいます。eスポーツは近年世界各地で国際大会が開かれるなど,若い世代を中心に急速な広がりを見せています。彼らとしては若年層を取り入れたいということで,注目しているようです。’22年に中国の杭州で開かれるオリンピック・アジア大会では,正式競技として採用されることが決まっています。
次に,eスポーツがどのように成功していくのかを共有させていただきたいと思います。市町村や企業から「eスポーツをやりたい」とご相談いただくのですが,成功させるためにはいくつかのポイントがあります。
その1つは「集客」すること。eスポーツをやることをちゃんと伝えることが重要です。次に「盛り上げ」。司会や実況解説のようにスポーツと同じような盛り上げが必要になります。そして「拡散」すること。次につなげていくことが非常に大切なので,新聞・雑誌・テレビメディア・ネットニュースなどに拡散して,流れを伝えることが重要です。こういうことによって「地方創生」や,「地域活性化」「雇用創出」につながる形を目指しています。
本日のまとめですが,まず,「eスポーツ」は「いいスポーツ」ということ。年齢・性別・体のハンディキャップ・肌の色・人種に関係なくできる「未来のスポーツ」だと思っています。2点目,「仕組み化」。イベントをやるときに人を呼んで,盛り上げて,拡散するというものをパッケージにして仕組み化しています。皆に楽しく遊んでいただける,リトルリーグや甲子園のような形を考えています。それから,ICT(情報通信技術)ソリューションを活用しながら「地方創生」や「社会課題解決」にもつなげていきたいです。
9年前の会長の話にもありましたように,3年,5年と先を見据えて,変わっていく環境を見ながら創意工夫していく必要があります。eスポーツに関してもこのような形で5年後,10年後,きっと景色が大きく変わっているかと思います。リアルスポーツの限界を超える「未来のスポーツ」だということを少しでも理解していただけたら幸いです。
(スライド・映像とともに)